マイケル3世式 ジム ファッションの手引き

インスタグラムの人気者に学ぶ、健康と戯れ

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III

オレには君の考えていることが分かってる。オレも同じことを考えたことがあるからね。「どうしてジムで服を着なきゃいけないのか?」ってことだろ。その疑問に対する長い方の回答はこうだ。ジム本来の目的から逸脱しておかしなモノをぶらぶらさせることを禁止し、高価なトレーニング マシンが汗でベタベタになることを禁止する、そういう規則があるからだ。オレはスポーツ クラブのマネージャーに指摘してやったんだ。古代ギリシャ語の「gymnos」は「裸」を意味するんだと。だがどうやら、誰もがオレのように歴史的な正確さを求めるわけではないらしい。「マイケル、他の会員のことを考えてくれよ!」って言うんだ。実際のところ、オレは人のことを考えないよう最大限の努力をしてるんだ。ジムでは一切、人付き合いはしたくない。その代わり、オレは自分の服に語らせる。そうすれば、オレはトレーニングに励める。簡単なことだ。

トレーニングの初めから終わりまで、様々なメッセージを発信するには、頻繁に着替えることになる(これはカロリーの燃焼をも意味する)。全部の服が収まる、十分な容量のバッグを持ってくること。ただしその中に、息を切らしてロッカー ルームに駆け込むときに着るべき服はほとんどない。先ず最初のプレゼンテーションでは、トレーニングを終えたことを暗示する。到着したのではなく、もう帰るのだ。すぐに諦める奴は、誰にも好かれない。それから、10〜12個ぐらいの錠前を使って、周囲のロッカーを確保する。これが人との距離を保つ緩衝地帯になる。そうやって防護スペースを確保したら、最初の洋服に着替える。ストレッチ用(またはポーズ用)だな。トレーニングのこの段階では、体操競技のコーチたちに共通したファッションがヒントになる。ジッパーをきっちり全部閉めて、スポーティなんだけど、汗をかくほど活発ではないことを示す。これで他の会員たちは怖気付いて、静かな時間を確保できる。うまくいかないときは、電話をかけるフリをして、次のようなセリフを聞かせる。「卒業記念のダンスパーティーに行ったからって、オリンピックに行けるわけじゃないんだ!」「一体、ルーマニアとの時差は何時間なんだ?」「やあベイビー、滑り止めのパウダーが切れてるから、帰りに買って来てくれないか?」

持ち時間を過ぎてもマシンの上に居座る不届き者に出くわしたときこそ、ファッションに物を言わせる瞬間だ。奴らは、エリプティカル マシンを独占するのに忙し過ぎて、君に気付かない。こういうときは、文字通り、君の方へ頭を捻ってやりたいもんだ。基本は、一番自分のキャラに合ったものを着ること。ただし、オレのように、ドラマティックなボリューム感を盛り込むことを忘れてはいけない。現実に人を怒鳴ったりしたくない君にとって、これが彼らに対する比喩的な怒鳴り声になる。奴らが振り向いたら、すぐに目をそらして、悶着を起こすことは避ける。君がジムに求める寛ぎの時間に、騒ぎは不要だ。

実際に、君が何かしら激しい運動をしたと想像してみよう。そう、君は汗をかいている。カットアウトは、ファッション的に素敵なディテールだし、優れた通気技術でもある! 一般的に、尻部分のカットアウト(学術的には「ケツ出し」)はひんしゅくを買う。優雅なレースのアンダーレイヤーをあしらえば渋面も微笑みに変えられるのだろうが、レースは痒くなるから、オレはまだ試したことはない。股間部分のカットアウトは、とてつもなく便利だし見た目も魅力的だが、あまりに会話のきっかけを与え過ぎるので、正々堂々と推奨することはできない。オレとしては、今も続いてる「#FreeTheNipple − 乳首に自由を」運動に支持を表明する意味でも、胸を露わにするカットアウトの方が好きだ。この運動にはほとんど誰もが賛同するのに、不当な社会通念のせいで、今なお問題視されている。

ジムでは、人との接触を完全に断とうとしている。でも、ジムで知り合った親しい友人たちには、自分のことを多少は知ってほしい。それなら簡単だ。君の関心を周りに教える服を着ればいい。オレはロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)の作品が好きだから、メイプルソープを着てジムに行く。数年前にビヨンセのコンサートに行ったときは、「ビヨンセがオレの心と体を鷲掴みにした」って全身に書きまくった。昨日の夜のデートは、純白のアンサンブルを着てスパゲッティを食べた。だから今日は、トマトソースの染みを誇示する。1週間のうちにオレは、アートの趣味が良くて、公然と熱愛されている人物から公然と熱愛されて、汚れることを恐れないイタリア料理愛好家であるというメッセージを伝えたわけだ。そういう個人的宣伝に誰かがくいつてくるなら、少なくとも君自身が会話をキュレーションしたと言える。結局のところ、オレたちは別にジムの人間を毛嫌いしてるわけじゃない。ただ、オレ自身を語れないことが嫌なだけだ。

ジムはいつも清涼な環境であるとは限らないし、匂いの発生源が分からないこともある。ただ、もっと差し迫った問題がある。つまり、匂いを感じたということは、君自身がその発生源かもしれない、ということだ。優雅ならざる匂いの近くにいれば、当然疑われる! オレはあまり謙虚さを推奨しないが、こういう場合には控えめなカットが望ましい。裾が擦り切れたり広がったりしたアイテムならぴったりだ。何を着ていようと誰もが悪臭源になりうる、それが生きていることの民主主義だ。だからこそ君は、この控えめな服を態度でレベルアップする必要がある。「人生は甘く香る」的な、のどかでリラックスした雰囲気を表現しよう。ボディ ランゲージで幸福を発散しなくてはならない。だが、ボクシングや空手をやってる場合、積極果敢な喜びの表現は避けること。シンクロナイズド スイミングをやっている人やスピン バイクを教えている人は、自信を持ってこれを選択できる。ズンバのクラスでは、どちらの選択も当てはまる。

時には、ジムの向こう側から、誰かが君に特別な注意を向けることもあるだろう。彼は頷いてみせたり、もしかしたらウィンクしてくるかもしれない。トレーニングのあいだ中ずっと、君は人との交流を抑止する服を着ているわけだが、これが歓迎できる最初の交流だ。恋に落ちた今、人生はどうなっていくだろう? 彼はベッドのどちら側が好きだろう? いや、ウィンクとホワイトのスパンデックス ウェアに騙されてはいけない! 彼は君に注意を向けたわけじゃない。トレーニング ベンチでワークアウトしてる自分を手伝って欲しいんだ。こういう奴らはそこら中にいる。君は馬鹿にされるためにジムへ来るわけじゃないし、ましてやパーソナル トレーナーになるためでもない。こういう場合は、古典的な手法で責任を回避する必要がある。すなわち、あまりに無能なので誰も仕事を頼みたくない人物を演じる方法だ。安全上の理由から、ワークアウト中に下手なことはできないので、事前にメッセージを伝達しておく必要がある。簡単な方法としては、不相応な重量のウェイトで悪戦苦闘してみせる。素晴らしい肉体運動は諦めるしかないが、出会ったと思ったらすぐに去っていくような彼に失恋するよりマシだろう。

ライバル メンバーの登場は、映画で描かれるほど華やかではない。不穏なファンファーレもないし、肉体改造に励むメラニー・グリフィスともまだ共演していない。ジムに到着した敵は、君の肩を小突いて「あと何セット残ってるの?」とか「マシンを一緒に使わせてくれないか?」とか、聞いてくる。本当なら、そんな奴らは追い払ってもいいんだ。知らない人に個人的な質問をすることは甚だしく失礼だ、せっかく「思慮深く場を鎮静する方法」がテーマのTEDトークを視聴しているのに邪魔された、と怒鳴り返してもいいんだ。自分ひとりでさえバランスを取るのに苦労してるスイス ボールを、ましてや一緒に使おうという考えを諌めてもいいんだ。だが、実際にできることはあまりない。気付かないふりを装うか、「一緒に使う」の意味が理解できていないふりをする。あるいは、自分の持ち時間の権利を主張するような文字をプリントしたヘッドピースを着用する。例えば「マネージャー」とか「アイコン」、もしくは単に「あっち行け。あともう少しで終わるから」というテキストでも良いだろう。

「唸り声」はトレーニングに役立つという説がある。だがオレは、一卵性双生児がまったく同じトレーニングをして、片方だけが唸り他方が唸らなかった実験の結果、唸りが身体的な利益を生じると証明されるまでは、むしろ「シークレット アイドル ハンナ・モンタナ」のサウンドトラックでも聴いて、人の唸り声には耳を塞ぐつもりだ。同じように、カップルが交代で相手の写真を撮るために、鏡を独占するのも止めてほしい。それには、視覚的に気が散るものを見せて、奴らの気を逸らせる必要がある。そのために、君は最高に着やすいウェアを着てなくちゃいけない。手近にある椅子を利用して、アヴァンギャルドかつ極めて自然で魅惑的に体を配置しよう。ポーズをとって、そのまま待ちたまえ。

さて、ジムに来てから数時間が経過した。そろそろ外の世界の知り合いを目にし始める頃だ。君は確かに彼らを知っているが、実際には彼らに会いたくないという事実によって、事態は複雑になる。知り合いはいろいろ形をとって現れる。去年のトレーニング代をまだ支払っていない体重100キロを超す巨漢トレーナー、いつも自分が行ったコンサートのビデオを見せたがる職場の同僚、そして最悪なのは君の元彼の親友だ。こいつは(君の元彼に対して)誠心誠意を誓っているから、君としては何としても会話を避けたいはずだ。そうできない場合は、着ているものや物腰で何気なさを保ち、恐れを悟らせてはならない。「元気にしてた?」「まあね」「別れてから、ふたりで話したことあるの?」「オレは別に悪く思ってないよ!」「誰かと付き合ってるの?」「いや別に」「先週の土曜日に君がつねっていた男は誰?」「オレの歯科矯正医」「どこで出会ったんだい?」「陪審員になったとき」。こういう質問は無礼で、耐え難い。だが、やつと君の元彼のつながりは君の秘密兵器だ。シャツを捲り上げ、数ヶ月を費やして作り上げた大胸筋と骨盤を強調するブランドものの下着を見せつけて、威嚇してやろう。顔の汗を拭く。「ここ、暑くないか?」「少しね」「よく来るの?」「時々」「君の上腕二頭筋を見れば分かるよ」「ありがとう」「君のこと、いつも良いなと思ってたんだ」「本当?」「じゃあ失礼して、僕はシャワーを浴びてくるよ」。これで君の勝利だ。

今日、君は非常にたくさんの人間を避けて、いくらか軽いエクササイズもできた。ロッカー ルームに戻った途端、突如として社交的な気分になるかもしれないが、それは自然なことだ。ローブを羽織って、リラックスしよう。サウナでダイアモンド ゲームでもやって、人間観察でもしながら、プロテイン ピザをオーダーしよう! 今こそ、寛ぎのとき。リラックスして、ジムでの最後のイベントに向けて準備をする時間だ。そう、風呂の時間! 全部の服を脱ぎ捨てる。裸が許され、ファッションの重要性が大幅に減じる時間だ。たとえそうでも、愉快なアクセサリーで自分の関心を示すことを恐れちゃいけない。蒸気が立ち込める公衆浴場でも、君がファッションを楽しんでいる姿を見るのはいいものだ。ファッショニスタの仕事に終わりはない。

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III
  • モデル: Michael the III
  • スタイリング: Michael the III
  • ヘア&メイクアップ: Michael the III