ファッション小話6篇

2018年秋冬コレクションの注目アイテムのバックストーリーを紹介

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム

eコマースはスピーディーで便利だ。その便利さゆえに、オンライン ショッピングはやめられない。だが、このハイスピードを実現するためには、レイヤーの一部を削らざるをえない。そして、こうしたレイヤーの中で真っ先に削られやすいのが、その歴史、服の存在意義である。SSENSE エディトリアル チームは、「アイテムの裏側を読む」と題し、2018年の秋冬コレクションから、背景の補足説明に値する6つのアイテムを取り上げる。違法キーホルダーから、注目の復刻アイテム、特別なコラボレーションまで、アイテムの縫い目の裏側には、人が考える以上に多くの物語が詰まっている。今回は、それをSSENSEウィキペディアで公開する。

画像のアイテム:T シャツ(Yang Li)

Yang LiとサイキックTV

伝説のバンド、スロッビング・グリッスル(Throbbing Gristle)とサイキックTV(Psychic TV)のファンがラグジュアリー ファッションのサイトで買い物したとしよう。その際にYang LiのSamizdatとサイキックTVのコラボTシャツを目にして「またこの手か」と思ったとしても不思議ではない。だがこれは、よくあるような、ハイエンド ブランドが、自分たちとは何ら関係のないカウンター カルチャーから臆面もなくいいとこ取りをするという話とは少し違う。デザイナーのヤン・リ(Yang Li)は、音楽シーンと繋がりが深く、筋金入りのノイズやインダストリアル ミュージック ファンなだけでなく、ジェネシス・P・オリッジ(Genesis P-Orridge)の友人でもある。この長袖の「Hero」TシャツのコラボレーションはサイキックTVのヨーロッパ ツアーのグッズを思わせるデザインになっており、前面は若かりし頃のジェネシス、背面はBBCラジオのジョン・ピール(John Peel)からの不採用通知となっている。そして、このコレクションは、昨年ジェネシスが白血病と診断され、サイキックTVが中止したツアーに対するトリビュートである。リは、TV9月にオークションを企画し、個人で所有するスロッビング・グリッスルとサイキックTVのアーカイブをSamizdatとサイキックTVのコレクションの商品と一緒に販売し、現在行われているジェネシスの治療に向けて資金集めを行なった。これこそ、コラボレーションのあるべき形というものだ。

Colmar A.G.E. by シェーン・オリバー

90年以上にわたり家族経営を行ってきた、イタリアのラグジュアリー ブランドColmarは、ハイテク スキーウェアのデザインで知られており、とりわけ、空気抵抗の少ない流線型のシルエットを得意としてきた。老舗ブランドが「旬」な今、アルペン競技用のウェアを現代に応用したデザインがシグネチャのこのブランドも、当然のようにコラボレーションに行き着いた。ただし、予想外なのはここからだ。Hood by Airの創設者、シェーン・オリバー(Shayne Oliver)がColmarのチームに加わり、ブランドのオリジナルのデザインからインスピレーションを得て、最新プロジェクトを立ち上げたのだ。コレクションには、Colmarの十八番ともいえるゲートルのようなキルト トラウザーズや、「Thirring」というケープに影響を受けた、デザイン性の高いコートなどが並ぶ。このケープは、1930年代のグライダーの翼を備えた、モコモコとしたコウモリの形をしている。コレクションのアルペン競技に対するノスタルジーは明白とはいえ、もうひとつ、思い起こさずにはいられないシルエットがある。『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーだ。裾が広がったプラスチックの足に紫色の翼。宇宙のため、スキー場のため、あるいはシェーン・オリバーのために作られたデザイン。これを着て空高くテイクオフだ。Hood by Air仕様で、永遠の彼方のそのまた向こうまで飛んで行け。なんちゃって。

画像のアイテム:ベスト(Helmut Lang)

Helmut Lang ブレットプルーフ ベスト

確かな見識眼を持つファッション オタクにとって、ぜひともコレクションに最も加えたいアイテムのひとつが、 Helmut Langの「防弾」ベストのオリジナルだろう。このベストは、1997年の秋冬コレクションでデビューし、90年代後半には、ラングのコレクションにおける定番アイテムとなった。それ以来、リサーチに余念がない年季の入ったファッション コレクターやストリートウェア キッズの間では、長らく喉から手が出るほど欲しい一品となっている。その希少性から、このベストのオリジナルはネットで見つかったとしても、580ドル(Grailed)から4,500ドル(eBay)の値がついている。今では、デザイナーが軍服やタクティカル ギアからインスピレーションを得てデザインに取り入れるのは普通のことで、むしろ期待されている節もあるが、これに最も影響を与えたのがHelmut Langのベストなのだ。昨年、Helmut Langはこれを復刻し、キム・ジョーンズ(Kim Jones)とマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)のDiorからはサドルバッグが戻ってきた。そしてエディ・スリマンは最初期のCelineのロゴをリバイバルするなど、最近では、盛んに過去のアーカイブの掘り起こしが行われている。それでもオリジナルがもつ排他的な性質は健在で、ファッション純粋主義者たちは、ビンテージのMargielaタビ ブーツは、新品よりもずっとかっこいいと言うだろう。とはいえ、今ではどこにいようが、ファッション史に残るアイテムの復刻版を手に入れられ、それが自宅にデリバリーされる時代なのだ。

画像のアイテム:レギンス(Yohji Yamamoto)

Yohji Yamamoto ブラック ウーブン パッチ レギンス

ファッションにおける世紀の友情について取り上げる際、 山本耀司(Yohji Yamamoto)とアズディン・アライア(Azzedine Alaïa)の名前が挙がることはほとんどない。だが、これは大きな間違いだ。このレギンスは、その他のYohji Yamamoto2018年秋冬コレクションのアイテムと同じく、一部キュビズムからインスピレーションを得ると同時に、長年にわたるアライアとの友情を表すものでもある。現に、昨年アライアが亡くなくなると、世界中で彼を記念したコレクションが作られた。山本も、このコレクションのショーを「最愛のアズディン」に対するオマージュとしてデザインした。 80年代後半から友人だったふたりは、ともに人目につくのを嫌い、信頼のおける小さなグループの中にとどまっていた。Yohji Yamamotoのコレクションはどれも特別だが、このコレクションは、哀悼とひとつの時代の終焉を表現しているという点で、とりわけ特別なものなのだ。

画像のアイテム:キーチェーン(Balenciaga)

Balenciaga グリーン レザー ツリー キーチェーン

1952年、ナチスの手を逃れたドイツ系ユダヤ人の化学者が、研究していたアルプスの木の香りの化学的な合成に成功し、「リトルツリー」という針葉樹の形をした使い捨て芳香剤を作った。90年代になると、リトルツリーには、ベイサイド ブリーズ、ココナッツ、バニラロマ、ニュー カー スメル、ブラック アイスなど、数多くの香りが登場していた。リトルツリーの匂いでミレニアル世代が考えるのは、2000年代の記憶、狭い車の中でマリファナをふかした10代、そして、ラグジュアリー ブランドが懐かしのアイテムを再利用し続ける時代だろうか。その痕跡はいたるところにあるのだが、その大部分はBalenciagaのものだ。このグリーン レザー ツリー キーチェーンは、私たちが見慣れている、あの車のルームミラーにぶら下げられ、色あせてしまった芳香剤と、ほぼ完全一致と言っていいほどそっくりだ。あまりにリトルツリーに瓜ふたつなので、現在、このエアフレッシュナーの企業は、顧客がうっかり定番の車用エアフレッシュナーと間違えて値段が100倍近くする商品を買っては困ると、Balenciagaを訴えている。この訴訟の結果、このキーホルダーは全品がリコールの対象となり、店舗から回収されている。最近カナダでは大麻が合法化されたことだし、Balenciagaとは無関係に、今後もリトルツリーの需要はなくならないだろう。

画像のアイテム:ヘアクリップ(Ashley Williams)

Ashley Williams ダイアモンド ヘアピン

言葉を選び、それをクリスタルで形にし、そのピンをポニーテールにつければ、文化的な最終攻撃のレシピが完成だ。あるいは、Ashley Williamsは、2018年で最も美しく、そして不可欠な、宝石を散りばめたヘアクリップで、社会に対する意思表明を行なっていると言うべきか。セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)の例が典型だ。今年の初め、あいかわらず陰険なステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)から、Instagramのコメント欄で「すごいブス(really ugly)」と揶揄されると、彼女は「UGLY」の文字のダイアモンドのアクセサリーをきれいに整えたツヤツヤのロックヘアに飾って反撃に出た。それに『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のスター、ブリア・ヴィナイテ(Bria Vinaite)もいる。その生き生きとした魅力と、屈託のない脱力系メンタリティで知られる彼女が、Ashley Williamsの2019年春夏コレクションのオープニングで披露したのは、突っ立てたポニーテールの前につけられた「SAD」と「FUCK」という言葉だった。この取り合わせは、私たちにものごとの表面だけではなく、その奥底まで見る必要性を再認識させた。またラッパーのベイビーマザー(bbymutha)は、SSENSEのエディトリアル記事で、カーリー ヘアに「SEX」という言葉をつけることで、セックスについて悪びれることなくあけすけに語ることに対し、イエスを表明していた。彼女は、文字通りの意味で輝いていた。髪留めを使えば、ストーリーは自分で作れるのだ。

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム