New Icons: 甲冑となったジャケット

デザイナーの Kerby Jean-Raymond とアーティストの Gregory Siff が、Pyer Moss の 2016 年春コレクションで発表されたモーターサイクル ジャケットと、アメリカの人種差別について語る

  • インタビュー: Natasha Young
  • 撮影: Nik Mirus / L'ELOI
  • スタイリング: Oliver Stenberg / L'ELOI

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

モーターサイクル ジャケットは、不屈の反抗精神を主張するうえで、最もふさわしいアイテムではないでしょうか。モーターサイクル ジャケットがギャングのアイコンからワードローブの必須アイテムに転身して長い年月が過ぎましたが、James Dean から Mad Max、そして Ramones に至るまで、モーターサイクル ジャケットが危険なオーラを失うことはありませんでした。ブラックのレザーとジッパーは Easy Rider の劇中で謳われた自由の象徴であり、オフィス ワーカーとは対極的なライフスタイルを持つミュージシャンたちは、未だにモーターサイクル ジャケットに身を包みます。

モーターサイクル ジャケットの衰えぬ人気は、ファッション的にも社会的にも、そして自由をシステマティックに抑圧しようとする勢力に対しても、「自由」が究極の通貨であることを示しています。

Pyer Mossの 2016 年春コレクションは、アメリカ全土で横行する警察の暴力に対比させる形で、1900 年代初頭にブロンクス動物園で猿とともに「展示」されたコンゴの部族民である Ota Benga の物語を紹介しました。昨年 9 月に行われたパワフルなプレゼンテーションでは、警察の人種差別的な暴力に反対するために制作されたドキュメンタリー映像に続いて、デザイナーの Kerby Jean-Raymond によってラグジュアリーに仕立てられたアスレチック ウェアとミリタリー ウェアに身を包んだモデルたちが、ランウェイを闊歩しました。それらのウェアには、印象的なレッドやホワイトの差し色とともに、ロサンゼルスのストリート アーティストである Gregory Siff が手掛けた大胆なアートが描かれていました。警察の暴力を映した生々しい映像の中には、Eric Garner や Oscar Grant など、暴力の犠牲となった人々の家族のインタビュー映像も収録されていました。Pyer Moss のコレクションは我々に対し、Ota Benga を動物園に展示した時代から社会がどれだけ進歩したのか問いかける一方で、もう一つの痛烈な疑問を提示しました。その疑問とは、「罪の姿形を法執行機関が恣意的に決め付ける社会において、反抗の美学を追究することには、どのような意味があるのだろうか」ということです。

ここで紹介しているモーターサイクル ジャケットは、Siff 自らがハンドペイントして仕上げた、11 着のリミテッド エディションの一つです。Ota Benga の逸話について Jean-Raymond と語り合った Siff は、そのときに得たインスピレーションに突き動かされるままに、渦巻く炎、国旗、スカル、各種のメッセージをジャケットの表面に描き込みました。

Jean-Raymond と Siff は SSENSE のインタビューの中で、このジャケットとコレクションに込めた自分たちの想いについて語りました。

Kerby Jean-Raymond

Gregory Siff

ある日、Instagram を見ている最中に、友人の James が投稿した Gregory のスケッチが目にとまりました。直ちに私は James に頼み込んで Gregory を紹介してもらい、ロサンゼルスのシャトー・マーモントで会うことになりました。顔を合わせた我々は、Ota Benga の逸話にからめ、アメリカの黒人に対する人種差別が 1906 年当時からいかに改善されていないかについて、数時間も語り合いました。

コレクションの制作は、大規模な抗議運動に発展したファーガソンの Mike Brown 事件に加え、Trayvon Martin や Freddie Gray など、黒人に対する警察官の暴力が大論争を巻き起こしていた時期と重なっていました。我々は大掛かりなアート作品を投入することに決めて、あのドキュメンタリー映像を制作しました。ドキュメンタリーの主役は Gregory でしたが、Usher や Marc Ecko も出演しましたし、聖職者を始めとする多種多様な階層の人たちにインタビューを行い、正義と平等の意味、アメリカ社会が黒人に対して抱く印象、そして恐怖と課題を克服して真に団結した社会を築く方法について質問しました。すべては Gregory と交わしたアートについての会話から始まりました。そこから、ここまで発展したのです。

君はドキュメンタリーの企画をあきらめかけたよね...

ええ。そしてその夜、私は警官に銃を向けられたのです。その日、私は Gregory に電話して、黒人の差別問題に関する企画は中止しようと伝えていました。そのとき私は手を骨折してギプスをはめていたのですが、アーティストである私はギプスを黒く塗ったうえで、全身をブラックのウェアで統一していました。私はギプスをファッショナブルに見せたかったのです。しかし警官はそれを銃だと勘違いしました。その結果、私は自分のビルの前で 6 名の警官に銃を向けられることになりました。その瞬間、私はまるで宇宙が反転したように感じました。社会的地位を築き、恵まれた生活を送っていた私はどこかで、その種の問題は他人事だと思っていたのです。しかしあの瞬間、すべての問題は私を含む誰にでも起こりうる話であると心の底から信じられるようになり、私は現実を直視するようになりました。

私は Kerby が語ってくれた Ota Benga の逸話に聞き入りました。帰宅後、私は Ota Benga について自分なりに調べ、この逸話を風刺に終わらせるべきではないと確信しました。この逸話は現実です。実際に起きたことなのです。Ota Benga の写真を観て、彼の物語を読んだとき、私は Vincent Van Gogh のような情熱に溢れるクリエイターを思い起こしました。人から誤解されることはあっても、本当に特別な魔法の力を秘めたクリエイターです。観客を怖がらせるアトラクションとして、Ota Benga の歯は牙のように尖らされていました。しかし私はそれを違う意味を込めたモチーフとして取り入れました。彼は野獣ではなく、人間だと。私はポートレートを描くとき、対象をリアルに描きたい。そして私は、対象をリアルに描く自分のスタイルを貫くと同時に、当時の人々が Ota Benga に押し付け、その結果として彼を激怒させた作り話を象徴するようなモチーフを求めていました。私の記憶が正しければ、彼は最終的に自ら命を絶ったのです。

我々は葬儀に臨むときと同じように、Ota Benga の人生に敬意を払いました。彼の名前を描くのは勇気のいる作業でしたが、ファッションを知り尽くした Kerby が支えてくれました。私は絵を描くことを愛しています。洋服に絵を描くのは魅惑的な体験でした。洋服はメガホンのように、より多くの人々にメッセージを届けてくれます。人々の注意を引くことに成功したら、次はどんなメッセージを発信しようかと楽しみになります。

Gregory がニューヨークにある私のスタジオを訪れました。その日、私はブラックのレザー ジャケットを着ていました。そして、彼と人種差別について話している最中に、彼は会話の内容すべてをモチーフにして、私のジャケットに絵を描き始めたのです。

まず「We already have a black designer(ここで黒人のデザイナーも活躍しているぞ)」と描きました。

そのシルバーにペイントされた私物のジャケットが着想の元になりました。私は Gregory にリミテッド エディションを制作しないかと持ちかけ、結果的に 11 着のリミテッド エディションが誕生しました。そのうちの 10 着は店頭に並び、残りの 1 着は Carmelo Anthony に贈られました。

私にとって満足できる作品かどうかの基準は、手放すときに苦痛を感じるかどうかです。私は自分のジャケットだと思ってリミテッド エディションにペイントを施しました。私がこのジャケットをどのように着こなしたいか。そして、このジャケットが Kerby のコレクションに通底するメッセージをどのように体現しているか。このジャケットは甲冑です。私はここに詩を描きましたが、この詩は心で感じるものではなく、袖を通すためのものです。この社会を蝕む問題に立ち向かうすべての人々に、このジャケットを贈ります。

  • インタビュー: Natasha Young
  • 撮影: Nik Mirus / L'ELOI
  • スタイリング: Oliver Stenberg / L'ELOI