A-Cold-Wall*はタイム ゾーンを超える
Designer Samuel Ross Speaks About Urban Rebirth and a Designer's Duty in a Skype Transmission to Japan
- インタビュー: Tiffany Godoy

グラフィックが多用されるストリートウェア界で、サミュエル・ロス(Samuel Ross)は新たな領土を主張しつつある。この弱冠25歳のデザイナー兼アーティストが率いる活きのいいブランドA-Cold-Wall*は、イギリスの労働者階級や若者文化、そして往々にして見逃される都市環境の要素を肯定する。一着一着が建築的体験であり、都市景観に存在する質感の衝突である。例えば、むらのある染色、露出したステッチ、マスキング テープ、グラフィックをあしらったアシンメトリなTシャツ。一着ずつが微妙に異なる。
最初に私の注意を引いたのは、ハイブリッドな性質だった。加えて、ロスの経歴と多様な才能のおかげで、このブランドには生来の好ましい要素がある。かつてヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の右腕だったロスは、ファッション デザイナーであり、ミュージシャンであり(彼のホームページをチェックのこと)、つい最近は、コンクリート製のインテリア オブジェ シリーズを立ち上げたばかりである。彼は、あくまで自分流のやり方を守って、ファッション界のシステムの中に自分だけの道を見つけていく。
ロスと私が初めて会ったのは6ヶ月前。場所は東京の居酒屋。ほどなくして、私たちはパリのアパートで時間を共にした。そこは彼の秘密のショールームだった。この記事が読まれる頃は、ロンドン ファッション ウィークで初のショーを終えているだろう。ランウェイ デビューを飾るコレクションからピックアップしたアイテム、ロス自身が写した愛する街ロンドンと愛する仲間たちのスナップ写真を含め、このエディトリアルの撮影は、一週間ほどの時間をかけ、3都市で行なわれた。
Tiffany Godoy
Samuel Ross
ティファニー・ゴドイ: 実際に話をして、テキストを交換して、メールをやり取りして…。いろんな街を行ったり来たりしながら私たちが行なったやりとりを合計すると、数時間に及ぶのではないかしら。最初にこのプロジェクトが話に出たとき、あなたは即座に地理に着目するアイデアを思いつきましたね。なぜその方法を取ろうと思ったのですか?
サミュエル・ロス:僕が魅力を感じるのは、A-Cold-Wallが提示する関連と地理的風景との関連がとても一致している点なんだ。例えば、初期の作品やアイデアは、文字通り、壁面の色をベースにした。だからすぐに、「壁を地理的な環境の標点にする」という小さなアイデアから取り掛かれた。でも、あちこち旅をするうち、僕たちが布地で複製している建物の区域や建築が、実は世界中で目にする状況をかなり含んでいることに、かなり早い時期に気付いた。どこでも、コンクリート ブロックや、様々な色合いのスレートや黄褐色でスタートする。つまり、僕たちは資本主義環境で生活しているから、いろんな大陸でA-Cold-Wallが見つかるんだ。メキシコ、パリ、日本、ロンドン。どこへ行っても資本主義の構造物を目にする。つまり、労働者階級のサブカルチャーがあるということだ。
私たちは地理や場所やアイデンティティの感覚を失いつつあると思いますか? ロンドンと東京は、どちらも変容が起きている都市のように感じます。パリはいまだにミュージアム的な都市のままだけど、今回撮影した他の2都市は、全くノスタルジックな場所ではないですね。
それは多分、ジェントリフィケーション(都市の中産階級化)と関係があるし、それが実際に意味するものに関わってくるね。ある時代に、ある地域で、特定の階級が代表的であったとする。一般的には、そういうエリアで、変化が始まったり、新しい現象が発生することが多い。だから、君の言う通り、確かに東京やロンドンは継続的に生まれ変わり続けている。必ずしも良くなるわけじゃないけど、とにかく生まれ変わり続ける。例えば、ブリクストンというエリアは、ニューヨークのハーレムと同じように、ロンドンでも黒人が集中している場所だった。僕は、ブリクストンに子供時代の思い出が本当にたくさんあるんだ。僕の家族はブリクストンの出身だったから、僕は子供のときに多くの時間をあそこで過ごしたんだ。でも今はジェントリフィケーションが進んで、もう以前のようなアフロ カリビアンの雰囲気はない 。アフロ カリビアンのコミュニティは存在するよ。でも、外側へ押し出されたんだ。都市は進化と発展を続ける。だから、そういうエリアは、変化に翻弄されて転々と移動する。





このインタビューが公開される頃には、あなたはロンドン ファッション ウィークでの初めてのショーを終えていますね。
ありえないよ、本当。自分でも実感がないんだ。もちろん僕はデザインを勉強して、プロダクト グラフィック デザイナーの仕事もした。ヴァージルと働く前の数年は、広告の仕事をやった。ファッション界で認められるのは、すごく大きな意味があるんだ。当然、細部まで見極める目が大きく評価される場所だ。それから、自分の意見もね。グラフィックデザインをやってたとき、特に広告業界で気付いたのは、それがかなり旧態依然とした業界だということ。「ファッションはスピードアップしなくちゃいけない。現状が変わらなくちゃいけない」という意見を聞くことがあるかもしれないけど、ファッション業界と比べたら、グラフィック デザインや広告産業は本当に古めかしい業界なんだ。だから、今回、きちんとしたひとつの形としてファッション業界へ参入してみて、商業的にもインディペンデントの文脈でも、表現豊かで実験的なアイデアが支持されることが分かって、すごく嬉しい。
あなたは全く異なる視点からスタートしたわけですが、最終的に、この経験からどういう結果を期待しますか?
僕の仕事は、歪曲して解釈されたり、誤解されたり、存在自体が知られていない大量の情報を表現することなんだ。存在すら知られていなかったイギリス文化の新しい局面を、改めて紹介したり評価すること、と言ってもいいかな。新しいアイデアを提示したり、もっと急進的なアイデアや過激なものをプッシュするのが、僕の仕事のような気がする。学のない若造が同じような考えを示そうとしても、無視されるかもしれない。アイデアを吟味するプロセスを経ていないから。でも僕はそのプロセスを経てきた。だから、僕の頭の中にあるもののもっとも純粋な形を、確実に適切に表現して示すことが、僕の仕事なんだよ。僕のすべきことは、必ずしも人々を心地よく感じさせることじゃなくて、何か新しいアイデアや新しいやり方を提示することなんだ。言うなれば、物事を前進させるってことかな。





新コレクションで、あなたがハイライトだと思うのは?
ショーで、Nikeとのコレボレーションを始めて発表するんだ。徹底的にデコンストラクトしたAir Force 1 High。昨今、Nikeのシューズは色々アレンジされてるよね。それ自体は素晴らしいことだよ。でも、繰り返しになるけど、僕のデザイナーとしての仕事は、時間を少し遅らせること。時代の先端とか流行を狙う気はないんだ。それより、美しく年を経るものにしたい。スマート スニーカーという観点から僕にできること。そのことついてずっと交わしてきた対話を総合する仕事。僕の言う「スマート」は、商業的に生き残れるだけじゃなくて、本当に望まれるという意味だよ。




- インタビュー: Tiffany Godoy
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