Reebokのパフォーマンス、Vetementsのアティチュード
ゲーリー・ウォーネットが解説する、Reebokポンプ シュプリームの系譜
- 文: Gary Warnett
- 写真: Rebecca Storm

頭から爪先まで全身をコーディネートするVetementsであれば、スポーツ フットウェアへの進出は当然の成り行きだ。攻撃的なシルエットと粗暴なスローガンを典型的な特色とするトライブ御用達のアスレティック シューズこそ、ふさわしい選択である。Reebokは、ファッションとそれよりはるかに慎ましい分野の両方に存在してきたおかげで、競合ブランドに欠けている深みを長らく持ち続けてきたし、解体された東欧圏では大きな役割を演じた。
クリエイティブ集団Vetementsのトップであり渉外の顔でもあるデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)と彼の弟グラム・ヴァサリア(Guram Gvasalia。Vetements最高経営責任者)は、ジョージアの出身。国籍不明のその他のメンバーは表舞台に登場しない。高感度ファッション誌「ファンタスティック マン」などに掲載されたデムナの言葉によれば、妥協を許さない環境と経済状況下で成長したことが、分かちがたくVetementsの世界観を形成した。
1991年のソビエト連邦崩壊に続いてジョージアが独立した後、ヴァザリア兄弟はロシアに居を定めた。ソ連が健在であった時代でも、モスクワで手に入る商品がジョージアまで流通することは稀だった。全く新しい世界を象徴する西欧のスポーツウェアは、闇市でもてはやされた。
イギリスで誕生し、後にアメリカ企業に買収されたReebokは、新ロシア経済という未知の領域へ最初に飛び込んだブランドのひとつであった。最大のライバルNikeやLA Gearを始めとする新進ブランドとの業界戦争でがんじがらめのReebokは、潜在リスクに関わりなく、常に、発展途上経済での足がかりを求めた。
1992年、ロシアで最初のReebokストアがモスクワにオープンした。中間レベルのフットウェアとアパレルを注力製品とし、サンクトペテルブルクおよびオデッサまで拡張する予定だった。新登場したスポーツ パフォーマンス ロゴの適用と時を同じくして、1993年初頭にはロシア オリンピック チームと4年契約を結んだ。これには、バレーボール チームのトレーニング用として、サンド コート施設の建設が条件に含まれていた。大多数のロシア人はとても最高級シューズに手を出せなかった状況で、市場の成長に賭けた投機的取引であった。
Reebokがロシアへ遠征した期間中、もっとも革新的なデザインのひとつが発表された。1994年のReebokインスタポンプ フューリーである。骨格が外側に出たようなデザインのフューリーは、とてつもない高額価格にも関わらず、市場に歓迎された。80年代後半の導入時は触覚的な仕掛けと思われたテクノロジーが、空気を入れてフィットさせるフレームワークとカーボン ファイバーのミッドフットによって、実質の機能を備えたデザインへ転換されていた。日本や香港の先取り的消費者に喜ばれるだろうことは、疑いの余地がなかった。シューズの外側のポンプ装置を含め、水疱のようにあちこちが膨らむ大胆なフューリーが豪華なファッション雑誌に取り上げられることも必至だった。
売れ残り在庫や高価な輸入ものの再販バージョンがファッショナブルなステートメントになった。1995年頃には、常に進歩的なビョーク(Bjork)が愛用していた。ロンドンの閉鎖的な会員制クラブから千鳥足で出てくる有名人が例外なくテクニカル スポーツ フットウェア、Maharishiのバギー パンツ、Helmut Langという出で立ちだった時期には、ほぼ定番のフットウェアになった。2003年には、Cを組み合わせたロゴを上品に取り入れた公式Chanelバージョンが、ファッション ショーのステージを歩いた。
それから20年あまり。依然としてフュリーの精神は健在であり、DMXなどの新テクノロジーで新生を続けている。ポンプ シュプリームはフュリーの系譜に連なるが、現在も奇妙なままのスタイルに、敢えて挑戦する正常を持ち込んだ。Vetementsが発表した新たな表現は、オリジナルの奇異な要素をすべて削ぎ落として、優れた効率を実現している。
7月に開催された同ブランドの2017年春夏ショーでは、ブランド コラボレーションによる18点が登場した。インスタグラムに投稿された1枚の写真には、スポンサー名が所狭しと並ぶNASCARの表彰台さながらに、多数のロゴを書きなぐった紙が写っている。月並みなブランドが劇的に姿を変えた。Reebokのトラックスーツは、老舗Lucchese Boot Companyの腿までの長さのカウボーイ ブーツと組み合わされた。
Vetementsが明確なラインで表現したポンプ シュプリームは、大仰で過剰な奇抜がなく、オリジナルのフュリーの誇張とは対照的なシンプルさである。右足と左足が、見た目も感じも事務的にマークで区別されている。受け継いだ血統は疑うべきもないが、決してレトロではない。実際のところ、決定的に非センチメンタルである。
ボーナスもある。現代ファッションに横溢するニヒリズムとデスメタル タイポグラフィにうんざりしている諸君、ポンプ シュプリームは履いて走るためにある。遠慮なく、その忌々しい闇の世界をランニング マシンに乗せてくれたまえ。
- 文: Gary Warnett
- 写真: Rebecca Storm