川久保玲の理念

New Icons: 頑なに曖昧性を貫くComme des Garçons

  • 文: Benjamin Barlow
  • 写真: Kenta Cobayashi

新たに登場したアイコンが語る、
今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

今年のメット ガラは、ファッションに対する川久保玲の謎めいた貢献を讃えた。1981年に初めてパリでショーを開いて以来、川久保のブランドComme des Garçonsはシーズン毎に「新たな」シーズンを披露しては、倦怠気味のエスタブリッシュメントに波紋を投げ続けてきた。彼女のデザインは異次元の空間から現れたかのようだ。あまりの斬新さゆえに、それを理解したいという強い願望と遮断したいという気持ちを、同時に喚起する。しかしなぜ、彼女のコレクションには、他のファッション ブランドが辿った軌跡とは一線を画す新しさがあるのか?

実のところ、メット ガラではごく少数のセレブリティしかComme des Garçonsを着なかった。この事実こそ、Comme des Garçonsが体現する新しさのヒントになる。メトロポリタン美術館のレッド カーペットは、ファッション教養人たちの爆心地だ。カメラのシャッター音とフラッシュが炸裂するなか、幾多の視線の先にセレブリティが立ち、纏った衣服について延々と批評される、そういう場所なのだ。カメラの背後では、何百万人ものインスタグラムのフォロワーが「新しい」スタイルを見つけ出そうと、憧れのセレブの細部までに目を凝らす。そこでは、不可解は大敵であり、ラディカルな新しさはいとも簡単に、それも瞬時に、失敗とみなされる。

Comme des Garçonsが頑なに貫く曖昧性は、川久保が形成してきたファッション批評家や業界人との関係にも浸透している。川久保は難解な一枚岩だ。インタビューを受けることはほとんどない。制作過程について語ることを拒否する。だが、2017年春のComme des Garçons Homme Plusのランウェイ ショーでは、その不透明な伝統を捨てたように見えた。滅多に配布されることのないショー ノートには、こう書かれていた。「いとも容易く情報が手に入る今日の世界は、おそらく情報が過剰でしょう」

川久保のデザインは、単に斬新なだけではない。ビニール ピグメント コートは、このブランドの独特で「異質な」新しさを理解する扉を開いてくれる。コートの背面は完成しているように見えるものの、透明な前面は未完成を暗示する。ポリビニールを覆う格子状のパターンは、仕上がる前にコートがマネキンから剥がされたような印象を与える。始まりと終わりのあいだの曖昧な場所。明確に突き止められない場所。そこから新しさのオーラが立ち昇る。川久保にとって、「新しさ」は衣服が及ぼす効果であり、衣服に帰する結果ではない。15年前のショーで、川久保は簡潔に述べている。「構築半ばの衣服には、常に、次に来るものが問われます」

  • 文: Benjamin Barlow
  • 写真: Kenta Cobayashi