SKIMSは
ハリウッドの自信:
撮り下ろしキム・カーダシアン・ウェスト

快適なラウンジウェアがとりわけ大切な今に

  • 文: Darcie Wilder
  • 写真: Sandy Kim

SSENSEに新しく登場するSKIMSを記念して、『literally show me a healthy person』の著者でもあるライターのダーシー・ワイルダー(Darcie Wilder)に、記事の執筆を依頼しました。テーマは、私たちが着るものと世界観の関係。ロサンゼルスを拠点とするフォトグラファー、サンディ・キム(Sandy Kim)のビジュアル エディトリアルと合わせて、記憶を遡るおうち時間から不動産物件のスクロールまで、SKIMSの解決志向なブランド精神を考えます。

Kim Kardashian West 着用アイテム:ブラ(SKIMS)ソング(SKIMS)ローブ(SKIMS)シュシュ(Maryam Nassir Zadeh) 冒頭の画像 Kim 着用アイテム:ドレス(SKIMS)ソックス(Maison Margiela)ピアス(Jacquemus)

着用アイテム:T シャツ(SKIMS)ブリーフ(SKIMS)

家での暮らしというのは、厄介だ。特に今年みたいに、望むと望まないにかかわらず家の中へ放り込まれた場合には。言うなれば、高速を走っていたら前方で盛大な交通事故が起こって、どんどん事故現場に近付いていく車から仕方なく飛び降りて、「今日はいいお天気ね。そよ風が気持ちいいし、久しぶりに外へ出て心配蘇生するのにぴったり。ほんと、大好きな季節だわ!」みたいな会話をしている感じ。

勘違いしないでほしいのだけど、実は私は家にいるのが大好き人間だ。家で過ごすというアイデアも雰囲気も、憧れも敬意も、それぞれの個性も、全部ひっくるめて大好き。太陽星座が牡牛座の私としては、とにかく本当に、家時間の何もかもが大好き。

「汝再び故郷に帰れず」、要するに「記憶のなかの家に戻っても、その家は今では昔のままじゃないよ」という古い言い回しがある。ちなみに、これをきちんと噛み砕いて教えてくれたのがムーディー・ブルースの「You Can Never Go Home」だった。1000回聴いても1度も聴いたことがなくても同じように耳に響く歌、それほど「聴いたことがある気がする」歌だ。

キム・カーダシアン・ウェスト(Kim Kardashian West)の幅広い活躍の中で、私が特にいいなと思ったことがある。なんと彼女は、母クリス・ジェンナーの誕生日のために、成長期を過ごした家を上から下までリメイクしてのけたのだ。かつて両親と暮らした家を貸し切って、昔と同じように装飾し直した。ディテールにこだわるキムだから、もちろん、当時家族が使っていた車も込み。はっきり言って、こればかりは羨ましかった。SKIMSの最新の「Velour」コレクションについて、キムはこう話している。「SKIMSは2000年代初めの頃へのオマージュよ。私の人生の大切な一時期を思い出して、色んな思い出を辿って、そこからコレクションとキャンペーンを作るのはとても楽しかったわ」

蟹座がアセンダントの私は、過去に執着する。昔は、レシートからチケットの半券まであらゆるものを捨てずにとっておいたし、あらゆる出来事を忘れないように書き残した。だけど、ソーシャルメディアのモニタリングや監視が高まってからは日記の投稿を止めた。私の考えていることや感じていることが、更新日時や位置情報に変えられるのはゴメンだ。

今年はよく眠れない。「1日にふさわしいことをやってないから、いつまでも1日が終わらないんじゃないかな」と言う人もいた。

トレンド記事によれば、最近は不動産情報サイトで物件を見るのが流行っているらしい。

他の人たちがどんな家で暮らしているのか、いつも興味があった。友人や知り合いだけではなく、あらゆる人が生活している場所を知りたい。ビルのアパート暮らしでいちばんもどかしいのは、部屋の中がちらりと見えることもあるほど近くで生活していながら、生活の中へ踏み込む勇気はないことだ。もちろん、コロナウイルスの問題もある。

今やベッドルームはビデオ チャットの背景だ。だから、お互いに、もっともプライベートな空間のレイアウトを徐々に整えてきた。次は、チャット用のウェアを整える番だ。着心地のいいウェアはもはや、だらしなさや恥さらしではなく、ゆったりと寛いだ姿を見せあう親密な関係を意味する。ランジェリーがセクシーな秘密であり、考え抜いた気配りと計画の産物であるなら、まさにそのとおり、SKIMSは意図のあるラウンジウェアだ。いちばん生身でいちばん正直な日常を分かち合う誘いだ。「みんなが自信を持って、自分であることに満足してほしい」と、キムは言う。「これからも私の世界を分かち合っていくつもり」

何年か前は、何事にもやる気満々だった。フラッシュ撮影したサラダやメイクアップ用品を詰め込んだ引き出し。小物を並べた飾り棚。色々なクリームの効果に関する詳しい説明。本の栞を手に入れた場所。指を使ったすスマッジ メイクの方法。ヒューストン通りにアンティーク ショップがあるの知ってる? この女優って駆け出しだけど最高に堅実なのよ、こういうふうになれたらいいよね、まだ可能性はあるかも、等々。だが結局のところ、何になれるかは自分が持っているもので決まる。私は毎日同じ格好だった。タイトなブラックのドレスとタイツに、シュー レースをほどいたドクターマーチン。ブラウンの髪を長く伸ばして、アイラインは目じりがキュッと跳ね上がったキャットライン。

今はというと、すべてのやる気を消そうとしている。以前と同じように先へ進む動きではあるけれど、ゴールは消えつつある。常にもっと完璧を目指すのだから、何度振り返っても、最終地点に辿りついたかどうかわからない。

髪のブリーチとカットなんて簡単なことだった。喜んでスタイリストの練習台になった。「金星が逆行中」と警告してくれる人もいたけど、とにかく私はブリーチとカットをやり続けた。根元が伸びてきたらスタイリストの予約を取る。スタイリストが店を変えたら、その新しい美容室へ行く。根元を処理してカラーリング、根元を処理してカラーリング。髪が伸びすぎても、どうしようもなくなるまで粘って、なるだけ予約を先延ばしにする。そして自主隔離がやってきて、私は再びセルフカラーのやり方を覚えた。ハイスクール時代のヘアカットが蘇る。浴室の鏡の前に立つ私。洗面台は髪の毛だらけ。ブラシでブリーチをつけると、雫が垂れてきて、目に入る前に大急ぎで拭き取る。ピンクのヘア カラーが上手くいかなかった後は、洗い流して、他の色を試す。ブルー、ブロンド、オレンジ。そして、脱染剤の出番。

私だけじゃない。私のグループチャット仲間も同類でいっぱいだ。何人かの友だちは、小学校やハイスクール時代に憧れたセレブのスタイルを見返している。スウェットパンツの時代などというものは、なりたい自分になれた人だけのものだ。お洒落と着心地は両立しないと私は思っていたし、目の下のクマをコンシーラーで隠さずに人前で出たことは一度もない。当然、スウェットパンツなんか持っていなかった。でもひとりで過ごす時間やアパートをシェアしてる人と一緒に過ごす時間が長くなると、どうしても家事をこなせるウェアの必要に迫られる。生活できる服、快適で快感で、同時に心も魂も満たされる服が要る。

着用アイテム:T シャツ(SKIMS)

子供時代の記憶は、霧のように霞んだ視野に差し込む閃光みたいに、鮮明に蘇る。6歳のとき、家の中を走り回っていて、もう少しで縫わなければならないほどの怪我をした。家へ帰った私は、流し台が小さすぎるのか、私が大き過ぎるのか、どちらとも判断がつきかねていた。兄を呼んだ私は、「見てよ、この狭い部屋」と訴えた。90年代のあの日、あの部屋のドア ノブにぶつかって、私は目の周りに青痣をこしらえたのだった。

自粛要請にも関わらず、あちこち出歩いた人は沢山いると思う。私はそうはしなかった。

家にこもって、子供時代からのアパートの装飾を変えた。このアパートは持ち家ではなくて、ニューヨーカーのレガシーとも言うべき賃貸だけどね。それから、いざという時のために75ドルを確保した。毎日毎日、日を追うごとに、記憶にあったかつての家の姿を忘れていく。静かに物思うときは、元の場所に戻そうしてみたりもする。だけど、暖かさが胸いっぱいに広がるのは、カチリとドアの鍵を回した後だ。中に足を踏み入れると、フロアの上で爪をカチャカチャ鳴らしながら愛犬が出迎えてくれる。そこでは、そこはかとなく、でも確かに、おばあちゃんの家へ行ったときと同じ匂いがする。

「見つからない宝を探して泣くのは、もう止めだ
真実は雨と一緒に優しく降り注ぐ
木立の上高く、陽光の野原が広がる
秘密を知ったふたりはそこでひとつに結ばれる
何を探しているか、分からない
扉を開けたことは一度もないのだから」
— ムーディー・ブルース「You Can Never Go Home」

Darcie Wilderは、ニューヨーク在住のライター

  • 文: Darcie Wilder
  • 写真: Sandy Kim
  • スタイリング: Zara Mirkin / Streeters
  • セットデザイン: Heath Mattioli / Frank Reps
  • ヘア: Chris Appleton / The Wall Group
  • メイクアップ: Mary Phillips / Blended Strategy
  • ネイリスト: Kim Truong / Star Touch Agency
  • 制作: Holly Gore and Davin Singh / Rosco Production
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: December 9, 2020