友情はエンジン オイルの匂い
ベテラン写真家クレイグ・マクディーンとByredoの創設者ベン・ゴーラムが、コラボと最新カプセル コレクションを語る
- インタビュー: Jo Barratt
- 写真: Christian Werner

ファッションと同じく、クルマも欲望の対象や空想の道具になりうる。心惹かれるシルエットと曲線と加速で魅了する。肉体の延長として、自分の内なるパワーを体感させてくれる。カルト的な信奉者を持つ著名なファッション写真家でありスピード狂でもあるクレイグ・マクディーン(Craig McDean)は、新刊『Manual』で、ファッションと車というふたつのスピード世界をぶつけ合い、素晴らしいストーリーを編み出した。
『Manual』は、マクディーンと高級フレグランス ブランドByredoをスタートさせたベン・ゴーラム(Ben Gorham)の、生産的なパートナー関係の延長でもある。ふたりは初めて会ったときから意気投合し、その後10年にわたって友情を築いてきた仲。Byredoが2017年に発表した初のレザー バッグ コレクション「Accelerated Culture」も、マクディーンがアメリカ南部のドラッグ レースにオマージュを捧げた写真集『I Love Fast Cars』(1999年)に触発されたものだ。『Manual』では、マクディーンの輝かしいキャリアから躍動感あふれるファッション写真を選び出し、- 未公開作品を含めて - マクディーンの第二の情熱である「マッスル カー」の勇姿をとらえた画像と組み合わせた。
ロンドンとパリを皮切りに、モントリオール、ニューヨーク、ミラノ、ソウル、東京を巡回予定の出版記念イベントで、ゴーラムは『Manual』に呼応したレース記念グッズのカプセル コレクションを公開した。内容は、Tシャツ、マフラー、メカニック ジャケットのほか、お馴染みの炎をあしらった保冷ドリンク カバーやライターなど、キッチュでお洒落な小物も揃っている。
パリ ファッション ウィークの開催中、Byredo旗艦店にマクディーンとゴーラムを訪ね、ふたりが分かち合うクルマへの情熱、過去が蘇るリミックス、共にクルマを駆けた日々の思い出に耳を傾けた。

ジョー・バラット(Jo Barratt)
クレイグ・マクディーン(Craig McDean)、 ベン・ゴーラム(Ben Gorham)
ジョー・バラット: ふたりが知り合った経緯は?
CM: パリの友人を通じて知り合ったんだ。もう10年くらい前になるかな。
BG: 有難いことに、その後、Byredoのキャンペーンを撮影してもらえてね。
CM: お互いさまだよ、本当。ベンは、僕が知ってるなかでも、最高に寛大な人物のひとりだからね。まったく押し付けがましいところがない。完全にこちらの思うように仕事をさせてもらえるのは、この業界では滅多にないことだ。
BG: Byredoをスタートしたときの僕は、文字通り、まったくの物知らずだった。なんせ、それまではアスリートなんだから。ファッションに関しては、有名な写真やモデルやディレクターを、外側から眺めてるだけの完全なアウトサイダー。今度のコラボは、クレイグの昔の作品を見直したり、新しい作品を撮影したり…一緒に仕事をするのは、すごく勉強になった。クレイグの新しい本も、まさにそれだと思うんだ。つまり、歴史を見たり、一歩先のことをやったり、あるいは過去を振り返ったりしながら、未来と過去が交差する場所で本当に興味を刺激するものを見つけること。写真家として30年も40年も写真を撮り続けてると、ものすごい数の作品が蓄積されてる。時々、そのことを思い出してもらう必要があるんだ。本人は撮影マシンと化してるからね。
CM: 今回の本のコンセプトは、僕の写真を元来の文脈から取り出して、新しい場所へ置き換えることだった。 ステラ・テナント(Stella Tennant)の写真はもちろん『ハーパーズ バザー』の広告にもぴったりだけど、背景にクルマを置くこともできる。もうファッション誌という環境だけで、写真を見てほしくないんだ。モデルとクルマを組み合わせることで、新しいストーリーが生まれる。
BG: 僕は、10代の頃に目にしたドラッグ レースとドラッグ レースの直線コースが、すごく鮮やかに記憶に残ってるんだ。だから、クレイグの本に合わせたグッズのカプセル コレクションを作ってみた。基本的に、ふたりで、アート作品と記念グッズという別々のタッチポイントを作ってるわけだ。

ベン、クレイグの本をテーマにしてフレグランスを作るとしたら、どういうふうにアプローチする?
BG: 『Manual』の本質は、視覚イメージをマッシュ アップして、ひとつの作品にすることだと思う。そこには、エネルギーという目に見えない要素が働く。率直に、オイルやエンジンや金属の匂いで表現することもできるけど、そこはもう少し洗練させて、エネルギーという抽象的な要素を表現するだろうな。
CM: え、何? オイルの匂いじゃダメなの?
BG: オイルの本じゃないんだからね、クレイグ。
CM: カストロール エンジン オイルの匂いなんか嗅ぐと、僕はもう血が駆けめぐるね。ファッションを撮影する場合は、いつまでも新鮮さを失わない作品を心掛けるけど、クルマっていうのは、それ自体が躍動すると思う。実に躍動する。躍動してページから飛び出してくる。クルマを撮りに現場へ出たときは、とにかくワイルドなんだ。そこら中で、色んなことが進行してる。ドラッグ レースってのは、実際には極めてベーシックなもので、あれこれ細かく組織化されてるわけじゃない。フォーミュラ1やインディ カー レースとは違うし、道路を走るわけでもない。レーシング カーを撮るのは、ドライバーになるのと同じなんだよ。レースの前にトラックを歩いて、曲がり具合やら、トラックのすべてを頭に叩き込んでおく。それでもなお、全部を計算するわけにはいかない。実を言うと、僕は別にカー レースの本を作りたかったわけじゃない。ただカーレースへ行ったときの僕の人生を記録しただけ。「僕は写真家だ。写真家だから写真を撮る」という感じだ。

ふたりは、ファッションを通じて知り合わなくても、どこかで知り合って友達になったと思う?
CM: 僕たちふたりの人生は、何らかの形で交差してただろうな。
BG: 僕は、多分、本のサイン会の列に並んでたんじゃないかな。だから絶対、出会ったはずだ。僕はいつでもどこかアウトサイダーだったし、それは今も変わらない。時々、ほんの駆け出しみたいな気がする。
クルマに関連したカルチャーで、懐かしい思い出はある?
CM: 僕は『バニシング ポイント』みたいな映画を見て育った世代だから、クルマとクルマ文化に対してロマンチックな思い入れがある。それを、自分の体で体験したいと思ってたね。
BG: クレイグは若い頃からレースに夢中だったということだけど、僕の場合はレースではなかった。11歳か12歳の頃にカナダからアメリカへ引っ越してすぐ、10代のはじめに、社会に占めるクルマの存在をつくづく思い知ったんだ。それまで映画を通じてクルマに繋がったことは1度もなかったけど、アメリカへ引っ越してから、クルマ、クルマが生活と文化に占める重要性が頭のなかに染み付いたな。
CM: 今でもマンハッタンからクルマを走らせたときのことを、覚えてるよ。シボレーの68年式カマロ。滅茶苦茶ふかしてたから、みんなが見てた。それで、ウォーターポンプがヘタって、ミッドタウンのトンネルの中で立ち往生。実に愉快だった。
BG: イギリスやヨーロッパで育った人間がアメリカへ行くと、ちょっと違うんだよね。文化の違いをひしひしと感じる。もともとアメリカで生まれ育った人間とは、クルマ文化の感じ方が違う。
CM: 68年式カマロとか、ダッジ チャレンジャーとか、フォード マスタングみたいなクルマに乗ってると、それぞれ、違う人種が話しかけてくるよね。そのクルマと、そのクルマにまつわる文化を体で知ってる地元の住民を引き寄せるんだ。フェラーリなんかだと、また別の人種が話しかけてくる。
BG: まさにファッションと同じだね。
CM: まったくファッションと同じだ。

- インタビュー: Jo Barratt
- 写真: Christian Werner
- 文: Rosie Prata
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: October 16, 2019