iPhone Xのソフトな「ウェア」

ポートレートモードに見る、メイクアップとテクノロジーの進化

  • 文: Rebecca Storm
  • 写真: Rebecca Storm
Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

ソフトウェアとは、ユーザーが他のものがそれ以上必要なくなるよう、余計なものを削ぎ落とした上で、より多くのことができるようになるためのものだ。犬、プリズム、キラキラ、顔写真加工など、写真アプリのフィルターが徐々に浸透してきていることを考えると、新しく公開されたAppleのポートレートモードは、美容に関するテクノロジーの最先端を行くといえるだろう。IT業界と美容業界が同時に急成長を続けるこの時代、両者を切り離して考えることはほとんど不可能だ。いや、そもそもそんな必要もない。現に、ウェアラブル技術のイノベーションの原動力のひとつは、虚栄心なのだから。

SSENSEの最新エディトリアルで、レベッカ・ ストーム(Rebecca Storm)がiPhone Xのポートレートモード使って4人のモデルを撮影し、メイクアップというウェアラブル技術を分析する。

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:サングラス(Gucci) 冒頭の画像:イヤリング(Balenciaga)

この1世紀の間、共に進化を続けてきたテクノロジーとメイクアップは、ここに至って、ひとつの頂点に達したように見える。もはや、どのようなメイクをするかだけが問題なのではない。どのようにしてその効果を得るかもまた変化している。私たちの関心は次々と登場するデバイスに左右され、業界大手は、注目を集め続けるために抜かりがない。L’OrealとYSLはアプリも公開しており、デジタルのフェイス マッピング技術を用いて、顧客や購入を検討している人が、特定の製品を使うと実際にはどう見えるか、プレビューできるようになっている。これは、良く言えばバーチャル リアリティの実現だが、悪く言えば画像が粗くて使いものにならない代物だ。

テクノロジーは、シンプルになればなるほど、欠点が目立つようになるものだ。多様性に欠け、時代遅れであると悪名高いコスメティック産業にとって、最近発売された、40色展開のファンデーション、Fenty Beautyは大きな衝撃だった。それに対し、Appleの新しいポートレートモードは、ボケ気味に映る写真の不具合ばかりが話題になっているが、タイミング的に言っても、そもそもイノベーションと呼べるか、甚だ怪しいだろう。というのも、Fenty Beautyが今まで市販品では手に入らなかった色調も含め、あらゆる肌のトーンに対応しているのに対し、Appleのポートレートモードでは、今なお、肌の色が濃い人や髪の毛がまっすぐでない人の場合、見た目通りに写真に映ると限らないからだ。これまで共に進化してきた両者だが、ここにきてメイクアップが集団から抜け、一歩先んじた感がある。

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:イヤリング(Sophie Buhai)

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:時計(Gucci)

テクノロジーのおかげで発展してきたのであれ、テクノロジーに応じて発展してきたのであれ、コスメは常にテクノロジーと切り離せないものだった。マスカラの広告に見られる物理の方程式、お気に入りの口紅のカラーラスティング技術など、例を挙げればきりがない。自分の人生の細部を作り上げるのと同じように、自分の顔もまた、メイクで飾り、新しく作り上げることができる。ウェアラブル技術の中でも、メイクアップは確実に、最も柔軟性があり、適応範囲の広い技術である。それが故に年齢や骨格、肌の色の限界をものともせず、正確に見せたい姿を作り出してくれる。メイクアップは不具合を起こさないのだ。

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:イヤリング(Saint Laurent)

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:イヤリング(Saint Laurent)

Softwear: Apple’s iPhone X’s Eerie New Portrait Mode

モデル着用アイテム:イヤリング(Helmut Lang )

Rebecca StormはSSENSEのフォトグラファー兼エディター。「Editorial Magazine」のエディターも務める

  • 文: Rebecca Storm
  • 写真: Rebecca Storm
  • ヘア&メイクアップ: Ashley Diabo / Teamm Management
  • モデル: Djamilla Touré / NEXT, Anabelle / Folio, Ashley Diabo / Teamm
  • 制作: Erika Robichaud-Martel