ロゼッタ・ゲッティと女性たちの世界
デザイナーがロサンゼルスへの愛と大好きな女性アーティストを語る
- インタビュー: Reva Ochuba

ロゼッタ・ゲッティ(Rosetta Getty)が、女性画家や女性アート ディーラー、女性アート ディレクター、女性彫刻家、そして女性ギャラリストを好む理由は、傍から見ても一目瞭然だ。ゲッティは非常に落ち着いた雰囲気で、穏やかな話し方をするうえに、すがすがしいまでに平凡な視点を持った女性だ。穏やかに話すと言っても、自分の知識に自信がないからではなく、他の人が、自分の話に耳を傾けるようにするためだ。
彼女の家に行くと、そこがサンセット ブールバードからすぐ入った所だったので驚いたのだが、そこですぐに、玄関の位置が家の裏側にある理由がわかった。門に近づいて用件を伝えると、目の前の門がゆっくりと開く。その様は、一見、他のハリウッド ヒルズの私有地と同じ光景だった。だが、マット ブラックのポルシェ 911 カレラの横を通ったとき、少し立ち止まって周囲を見回して、色々なことに気づき始める。まず一つ目が、そこにある車はすべてマット ブラックだということ。二つ目は、私はこれからゲッティにインタビューをしようとしていること。ゲッティ女史本人が姿を見せる前、彼女の家で働くジョンが私に挨拶に来た。それから、彼女の下でずっと働いているらしいジョナサンも。この2人の男性は、彼女の生活において中心的な役割を担っているが、それでもなお、彼らのポジションはアシスタントだ。


彼女は私の想像と違っていた。私の妄想では、ロゼッタ・ゲッティがメリル・ストリープで、私はアン・ハサウェイだった。私はと言えば、映画でハサウェイが演じていた野暮ったいアシスタントを地で行くような出で立ちだったが、現実のロゼッタ・ゲッティは映画とは異なり、威圧的などころか、むしろ安心させてくれるところがあった。携帯のバッテリーが残り2%になり、Pradaのウールニット パンツ全体に汗をかいていると、突然ゲッティが現れた。彼女は、私のだらしない服装を見ても、面白がるようにも混乱したようにも見えなかった。次の瞬間、私の手には充電器があり、トレイの上には熱いコーヒーとアイスティーがあった。彼女との20分間のインタビューは1時間に伸びたが、ソファーに深々と腰掛け、アートやファッションなどについて話すのは心和むものだった。


ふたりともロサンゼルス生まれだったので、街がようやく自らの土台を築き始めたことなど、話の種は尽きなかった。私たちはギャラリーSprüth Magersの女性たちについて話し、彼女たちのアートに対するビジョンがどれほど重要かについて話した。またそれ以外にもClub Pro、Karma International、House of Gagaなど、街の新進のギャラリーについても話した。「すごく面白いことがたくさんここでは起こりつつあるわ」と彼女は言う。インタビューから1週間が過ぎて、ようやく私は、彼女が話題に挙げたアート作品が、すべて女性作家によるものだったことに気づいた。これが偶然だったはずはない。彼女の名を冠したブランドRosetta Gettyのデザイナーとして見た場合、彼女の性格に見られる繊細な強さは、そのファッションに対するアプローチにもそっくりそのまま現れている。この現在のスタイルに落ち着く以前、ゲッティはふたつのブランドを持っていた。いずれも長くは続かなかったが、成長して今のデザイナーになるためには重要な過程だった。彼女のデザインは、女性が持つシルエットを手品のトリックのようにごまかしたりはしない。昼も夜も、女性が止まることなく努力し続けるのと同じように、彼女のデザインもまた進化を続ける。徹底的に研究されたミニマリズムから生まれるからこそ、彼女は自分のデザインを様々に定義することができる。何かを判断する際のこうした感性は、彼女が関心を持つあらゆる女性の領域に当てはまる。そして、その根深さが特にあらわになるのが、彼女のアートコレクションだ。

アリシア・クウェード
「私はアートとファッションがぶつかるあらゆる場所にとても興味を持っているの。例えば、私はアリシア・クウェード(Alicja Kwade)のようなアーティストとコラボレーションをしてきた。彫刻に対する彼女のミニマルなアプローチや、現実をシンプルに抽象化するやり方は、私が作る服に対して持っているビジョンと完璧に一致する。DISのようなアーティスト集団からもすごくインスピレーションを受けているけれど、それは彼女たちがアートとファッションを分けては考えていないから。今日のデザイナーとアーティストの制作プロセスはとても似ている。四つん這いになって切ったり縫ったりしているデザイナーなんて、もはや完全に過去のものだわ。もしデザインをやってなかったら、おそらく、私は建築をやっていたと思う。線と形によく注意して、皆とは異なる方法で何かを理解するっていうのは、私にはとても自然なことに思えるから。そういうことについて、いつも考えてるし、年をとるにつれ、ますます考えるようになってる」

トリシャ ・ブラウン
「誰にでも、もっとセクシーで表情豊かになりたい瞬間というのがある。トリシャ ・ブラウン(Trisha Brown)は、イヴォンヌ・レイナー(Yvonne Rainer)やルシンダ・チャイルズ(Lucinda Childs)と並び、ポストモダン ダンスの先駆者だった。私の2016年の春コレクションでは、トリシャ ・ブラウンと、彼女のペルソナ、そして身体表現を研究した。私は、ダンサーがステージでも着られるくらい身軽な服を作ることを重視したの。動けることは重要よ。女性はあまりに長い間、着心地の悪い女性用の服に自分を合わせてきた。今になってようやく、女性を抑圧するのではなく、支えるための靴が注目され始めている」

シャンタル・ジョフィ
「彼女の多くの作品において、ファッションが重視されている。彼女の絵画作品に『Esme』という彼女と彼女の娘を描いたものがあって、本当に衝撃的だった。私はその絵に感動したの。そこには彼女の人生が、というか私の人生が描かれていて、私は彼女のその描き方に感動した。この作品は特に、私がやろうとしていたことの多くを思い出させた。過度には性的ではないけれど、ちらっとセクシュアリティを覗かせるというスタイルね。私のデザインは、自分の美点を見せるのか、見られたくない場所を隠すのかという点において、バランスを取るのがうまいの。彼女の色彩感覚も素晴らしくて、そこからもたくさんのインスピレーションを得ているわ」

シャンタル・アケルマン
「シャンタル・アケルマン(Chantal Akerman)の映画は素晴らしかった。誰も日常の中の複雑さなど気にかけない中で、彼女の映画では、本当に普通の女性たちの人生を味わうことができる。『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』という映画では、主婦ではないけれど、子どもの面倒を見る女性を追っているの。映画は4時間ほど続く。ゆっくり、ゆっくりと彼女の1日をずっと見せている。彼女がミートローフを作っているシーンは、それだけで20分くらい続く。彼女の現実の体験にどっぷりと浸かっていると、そういう人生を生きるのがどういうものか感じられる。彼女の他の映画にもっと自伝的なものがあって、それもまたとてもゆっくりと進む。女性映画監督が、自分の作品の展覧会のためにベルギーの家に帰るという物語で、1日を通して、すべての出来事がリアルタイムで表現されているわ。もう二度と、彼女の天賦の才能が余すところなく開花した作品を見られないのは残念ね」

ベティ・パーソンズ
「ベティ・パーソンズ(Betty Parsons)は20世紀初頭の草分け的なアーティストであり、アート ディーラーであり、コレクター。彼女はすごいアート ギャラリーを持っていて、そこでジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)やロバート・マザウェル(Robert Motherwell)、クリフォード・スティル(Clyfford Still)、他にも数人の抽象表現主義の天才的なアーティストを紹介した。彼女は、アーティストたちが確実に才能に見合うキャリアを築けるように尽力したのだけど、彼女自身は波瀾万丈の人生を送ったの。私は2度目のコレクションのためのリサーチをする中で彼女のことを発見した。すばらしい自分のスタイルを持っていた彼女は、私がデザインする際に考える女性として、完璧なモデルよ」
Reva Ochubaは『Novembre』、『032c』などに執筆しているフリーランスライター。またコンテンポラリー ファッション ブランドIfeomaのディレクター兼デザイナーを務める
- 画像提供: Rosetta Gettry
- インタビュー: Reva Ochuba