ダニー・ボーウィンと絆のレシピ

スタイル アイコンの有名シェフは、エキスパートにも年寄り臭い親父にもなる気はない

  • インタビュー: Precious Okoyomon

ひとりもお客さんのいない「ミッション チャイニーズ フード」の店内で、友人のダニー・ボーウィン(Danny Bowien)と私は2メートル離れて座り、ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)のビデオを観ている。外の光景は世界の終末みたいだ。ここ2か月というもの完全に人けが途絶えたニューヨークの通りのあちこちに、今は新しい午後の陽光が降り注ぎ、まだらな陽溜まりができている。おまけに日曜日。2012年に初めてオープンして以来栄えある賞に輝いてきたレストランで、ダニーはキッチンを出たり入ったりしている。ちなみに、最初のレストランは後にロウワー イースト サイドへ移転し、現在はチャイナタウンとブルックリンに2店がある。ダニーはと言えば、活躍が期待される30才以下のシェフ、続いて40才以下のシェフの両カテゴリーでジェームズ・ビアード賞を受賞したほか、数々のプロジェクトで絶え間なく賛辞を贈られてきた。一方でファッション界が愛する、貴重なアイコンでもある。数例を挙げるだけでも、Eckhaus Latta、Alexander Wang、Sandy Liangのランウェイを歩いた。彼のファッション感覚は、彼の料理と同じく民主的で、ハイとロー、伝統と革新のフュージョンが際立つ。

ビデオ鑑賞のおつまみに、ダニーはニラネギの甘酢漬けを作ってくれていた。とってもシンプルで、自然と繋がった気持ちになる。齧ると、それだけで心が優しく溶け出していく。悲しみ、切ない憧れ、普通の生活を懐かしむ気持ちが胸を灼き、果たして世界が動く理由が愛よりほかにあるだろうかと思う。そこへ、豆腐とレンコンのカレーと紫蘇梅ライスが運ばれてくる。嬉しい。1999年の「Alive」のビデオを見るともなく眺めている小さな友達の輪の中にいながら、私は可笑しなくらい猛スピードで体を飛び出して、通りの反対側、建物の屋上に立ち上がった壁から対話を見守る。ときどき話の流れがわからなくなったが、意識のほとんどは明るく点滅するスクリーン、人気のないレストランで酢漬けのニラネギに降り注ぐ春の光に奪われていた。そして私たちは、この世ならぬ世界を抱擁する途方もない仕掛けみたいに笑う。

インタビューの最後に、ダニーが教えてくれた梅干し、海苔、甘酢漬けニラネギ入りのパラパラ紫蘇チャーハンの作り方をご紹介しておこう。

プレシャス・オコヨモン(Precious Okoyomon)

ダニー・ボーウィン(Danny Bowien)

プレシャス・オコヨモン:最近は何をやってるの?

ダニー・ボーウィン:料理の本を準備してる。締め切りは4月1日だったけどね。中味は全部、植物ベースのビーガン レシピだ。僕はビーガンじゃないけど、食生活はかなりビーガンなんだ。で、シェフっていうのは、プロジェクトを思いついたら、それをできるだけ難しくする癖があってさ。今回は、シェフの基盤を根こそぎ無しにする料理本にしようと決めた。先ず動物性の油、それから肉や乳製品を無しにする。これは結構大仕事だよ。だから、レシピをいっぱい試作してるし、子供用の食事もたくさん作ってる。息子のミノは今学校へ行かないで家で勉強してるから、交代で、水曜から土曜は全部子供食、日曜から火曜は本のレシピの研究開発。

ミノを説得して、色んな食材を食べさせるのは楽しいよ。カリフラワーとか、ミノが大好きになったものもある。カリフラワーは、最初、白いブロッコリーだと言って食べさせたんだ。

1歳から7歳までがいちばん味覚が鋭敏なんだって。人生でいちばん敏感らしいわ。ところで、あなたが作る味を色やスタイルに喩えると?

熱反応のハイパー カラーだな。温度で色が変わる。

ファブリックに触ると、手の温度で色が変わるみたいな?

汗をかいたら腋の下の色が変わって、誰かが手を置くと色の違う手形が残るんだよ。これって、多分、今僕がフードに向かう姿勢に似てるんじゃないかな。もちろん色んな人がいるけど、僕の場合は、伝統を守るシェフの下でたくさん働いてきた。長いあいだ、寿司バーとか、あちこちの日本食レストランで働いてたんだ。そういうところでは、家伝の調理法を受け継いだり、そうじゃなかったら料理長みたいな人に仕込まれる。ひとつの決まったやり方を教えられるんだ。だけど僕が今やりたいのは、僕のまわりの人たちと関係しつつやり方を変えることなんだ。必ずしもシェフとは限らなくて、僕の身近にいる人たちね。だから、さっき話したファブリックみたいに、触れ合うと色が変わる。

「僕はエキスパートじゃない」って言うし、実際そのとおり

つまり、シェフとしてのトレーニングより、環境がもっと大きな影響力を持つってことね。

「僕は人に教えられるようなエキスパートじゃないです」って、みんなに言ってる。実際、そのとおりだから。別にずっと料理を勉強し続けて今みたいな料理を作ってるわけでもないし、料理が上手くなったわけでもない。基本的に、周囲の人たちが出発点だ。まわりの人をハッピーにしたいし、友達に電話して「今作ってるものがあるから、ちょっと味見しに来いよ」って感じで作り続けてる。相手の反応を自分の目で見る必要があるんだ。普通シェフは厨房にこもって、実際に人が食べる場所へは出ないだろ。僕の場合は、大事にしてる人たちの意見で、勇気が出る。

あなたのファッション感覚はどこから来たの?

シェフもそうだけど、クリエイティブな分野の人間には偏執的なやつが多いんだ。僕もかなり長いあいだ色んなものに執着して、まさに溺れてたよ。飲めるだけ飲んで、食えるだけ食って、ありったけドラッグをやって。だけど先ず、飲むのを止めた。丁度、本気で服に入れ込み始めた頃だけど、あまり健全な話じゃなかったな。とにかく、今度はいちばんホットな最新のデザイナーものに夢中になった。特にデムナ[・ヴァザリア](Demna Gvasalia)。VETEMENTSの最新作も、ひとつ残らず手に入れなきゃ気が済まなかった。飲むのは止めても、ファッションみたいに、別のものが薬代わりだったわけだ。そうこうするうちに、もうカネがもたないところまで行ってようやく、どうして酒や服に走るのか考え始めた。要するに、証明したかったんだな。子供の頃は、Jordanとか、高い服が欲しくても買えなかった。ところが大人になったら、欲しいものを買えるようになった。今思うと、そうやって居心地の悪さをやり過ごしてたんだ。ゴメン、話が重くなったな。

全然、構わないよ!

「ミッション」はレストランだけど、クリエイティブな人種が集まる場所にもなって、すごくラッキーだと思う。ニューヨークのダウンタウンのデザイナーには、ある意味、すごく共感できる人が多いんだ。ファッションにレストランにフードって言ったら、すごく贅沢な生活みたいだけど、どれだけエネルギーを注ぎ込む仕事か、普通の人はあんまり知らないんじゃないかな。フードの世界も、ファッションとよく似てる。サイクルがあるし、若者志向だし、自分の価値を証明して、信用をつけて、その後はそれを維持しなきゃいけない。とてもじゃないけど、気楽にはやっていられない。人気を争うコンテストみたいなもんだ。上手くやればもっと先まで行ける。上手くやれなかったらお終い。僕がレストランという客商売に埋もれてたとき、恐ろしかったのもそれだ。最高に斬新なものを作れなかったら客に見放されるんじゃないか、ってのがすごく恐怖だった。だけどそれから、僕は別の価値を提供できるのに気がついた。

もっと軽い回答としては、年寄り臭い親父に見えないように、一生懸命頑張ってる。

ハハハ!

ホント、年寄り臭い親父に見えないように頑張ってる年寄り臭い親父に見えないように、頑張ってるんだ。だけどまぁ、僕自身でありたいってことだな。長いあいだ、僕自身であることが恐くてしょうがなかったんだから。

家庭でチャーハンを作るのは結構難しいが、このレシピのいいところは、料理の達人でなくても美味しいチャーハンを作れるところ。エキストラ バージン オリーブ オイルがなかったら、植物性バターで代用できる。その他にも、手に入らない材料はいちばん手近なものを使えばOK! 旨味(海藻)、酸味(梅干し)、甘味(甘酢漬けニラネギ)の順に味覚を感じれば成功だ!

梅干し、海苔、甘酢漬けニラネギ入りのパラパラ チャーハン
ちょっとした軽食4人分の材料は、以下の通り:

炊いた短種玄米 4カップ
エキストラ バージン オリーブ オイル 大匙1
バター 大匙1
縦方向に薄切りにしたニンニク 大匙1
種を取り除いた梅干し 8個
薄切りにした紫蘇 12枚
塩味韓国のり 110グラム
紫蘇昆布 大匙1
海塩 小匙1
お好みのふりかけ 大匙1

甘酢付け
ニラネギは短い期間しか出回らないから、手に入りにくいかもしれない。そういう場合は、赤玉ねぎや小玉ねぎの薄切り、その他好きなもので代用すればいい。漬け汁は、ほぼ何にでも使えて便利!
きれいに洗って上の部分を取り、縦方向にふたつに切ったニラネギ 1カップ
米酢 1カップ
ナチュラル ブラウン シュガー ½カップ
カラブリア唐辛子のオイル漬け(ホール) 4個

厚手のフライパンに砂糖と酢を入れて混ぜ合わせ、砂糖が溶けるまで弱火で煮立てる。砂糖が溶けたら火からおろし、ニラネギの上に注ぐ。唐辛子を加え、室温まで冷ます。

チャーハンの作り方:
ノンスティック加工のフライパンに、オリーブ オイル、ガーリック、バターを入れる。ガーリックを焦がさないように注意しながら、キツネ色になるまで弱火で素早く炒める。ガーリックの香りが出て色がついたら、火からおろして、炊いたライスの上にかける。残りの材料を混ぜる。味のついたライスをフライパンへ戻し、中火で約5分程度、ライスがパラパラになるまで炒める。生きて、笑って、愛そう。

  • インタビュー: Precious Okoyomon
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: July 3, 2020