服装の政治学
フランス人集団Études、そのアトリエと心の内側
- インタビュー: Jina Khayyer
- 写真: Andrzej Steinbach

Étudesは、グルノーブルで成長したフランス人男性6人組の集団だ。全員がご近所どうしの90年代育ちで、グラフィティへの愛で繋がった真のボーイズ クラブ。オレリアン・アルベ(Aurélien Arbet)、ジェレミー・エグリ(Jérémie Egry)、ニコラ・ポワイヨ(Nicolas Poillot)、ジョゼ・ラマリ(José Lamali)、アントワーヌ・ベレキアン(Antoine Belekian)、マルク・ボトレル(Marc Bothorel)の6人は、Étudesを「現代男性」のブランドと定義する。親しみやすいアパレルから先頃設立されたばかりの出版事業まで、彼らはいくつものクリエイティブな領域で連携する。ドイツ人アーティストのアンジェイ・スタインバック(Andrzej Steinbach)とのコラボレーションからは、政治的ビジュアルで表現した新シリーズが誕生する。フーディ、Tシャツ、長袖Tシャツなど、SSENSEのために制作したこれらの限定アイテムは、欧州旗を配したスペシャル エディションである。クリエイティブ ダイレクターを務めるジェレミー・エグリによれば、欧州旗を使うアイデアは、政治的行為として計画したわけではなかった。しかし、スタインバックとのコラボレーションは、もっとも今日的なトピックである社会的人種差別に目を向けている。そしてÉtudesは、重要な時事性を持つそのテーマを引き受ける決意だ。

ジナ・カイヤー(Jina Khayyer)
ジェレミー・エグリ(Jérémie Egry)、ニコラ・ポワイヨ(Nicolas Poillot)
Jina Khayyer (ジナ・カイヤー):Étudesのビジュアルのコンセプトは、非常に政治的ですね。フーディを威嚇と勘違いされて、殺されたアフリカ系アメリカ人の少年トレイボン・マーティン(Trayvon Martin)への追悼の意を込めて、アメリカの裁判所で黒人活動家ボビー・ラッシュ(Bobby Rush)が上着を脱いでフーディを被るシーンと結び付いています。今回のコラボレーションを始めるにあたって、あのシーンのどこにアイデアを刺激されたのでしょうか?
ジェレミー・エグリ(以下、JE):このコラボレーションのアイデアやビジュアルは、アンジェイ・スタインバックといっしょに練ったんだ。アンジェイはアイコニックなファッションの決まりごとも利用するけど、政治的なテーマについて話すこともできる。だから、コラボレーションの相手に選んだんだ。目のつけどころがすごく良くて、人の性格とその人が着ているものを関連させることができる。身に着けるものって、どんなものでも、政治的な行為なんだ。だから、今アメリカのような場所で、黒人がフーディを被ってたら、警察に殺されることだってある。僕たちは人種差別の社会なんかで暮らしたくないから、自分たちなりに、認識の向上に貢献しようとしているんだ。だけど、説教臭くなる気はないよ。どこからこのアイデアが生まれたのか、分からない人だっているだろうね。それでも、力強いイメージは目に入る。
今までに、あなたたち自身が社会的な人種差別を体験したことはありますか?
ニコラ・ポワイヨ(以下、NP):自分では感じたことがないけど、僕の恋人は黒人だから、彼女を通して差別を感じる。屈辱だよ。人種差別は教育の問題だ。僕の母は、人を勝手に判断したり、自分には権利があるとか人より優れていると思ってはいけない、って教えてきたから、感謝しないといけないね。
社会的な差別は帰属感の問題でもあります。あなたたちは、自分たちがどこに属すと考えていますか?
NP:僕はフランスで生まれたけど、フランス人というより、ヨーロッパ人だと感じてる。自分のことを、フランス人と言うより、ヨーロッパ人だと言う方がしっくりくるんだ。
今、ヨーロッパ人であることは、何を意味するのでしょうか?
JE:僕たちが生まれたときには、まだ国と国のあいだに国境が存在していた。それが秩序正しく廃止されていくのを見ながら育つのは、素晴らしい経験だった。ヨーロッパの人間であることは誇らしいことだよ。ヨーロッパ出身であることは名誉だ。同時に、とても心配している。どうすれば、オープンな国境を維持して、新しいフェンスや壁の建設を阻止できるんだろう?
そういう思いから、欧州旗をプリントしようと決めたんですか?
NP:イエスであり、ノーだね。あれは、自分たちがフランス人ではなくヨーロッパ人だと思っていることに気付いたとき、決めたんだ。ヨーロッパを賞賛する手段として。国境を閉鎖しようとするヒステリーが起こるずっと前。パーソナルは必ずポリティカルだろ、そうじゃない?


それは、1960年代後半の学生運動や女性運動の政治的な議論ですね。
JE:残念なことに、僕たちは過去に逆戻りして、今また、親たちが闘った同じ問題と闘わないといけない。すごく皮肉だよ、親の世代がますます保守的になるのを目にするなんてね。
政治に関わるのはデザイナーの役割でしょうか?
E:政治に関心を持つことは、人間としての役割りだよ。もしデザイナーが自分を人間だと思うなら、答えはイエス。政治と関わることが彼の役割りなんだ。ファッションは、自分の声を発する素晴らしい機会を与えてくれる。確かに、ファッション業界にいて、資本主義のおかげで生活の糧を得ていたら、葛藤することになるね。偽善者にはなりたくないし、かといって自分の店に来るお客さんを失望させたくもない。ただ、商品を売るためだけに、自分の価値を放棄するなんてしたくない。
ウェブサイトで、自分たちは現代男性のファッションを作ると言っていますね。では、Étudesがコンテンポラリーである要素は、何ですか?
JE:僕たちのアイデアは現在から生まれる。僕たちの仕事はノスタルジックじゃない。今を語りたいんだ。今起きていることに対して、敏感に反応する。例えば、家を出て、地下鉄に乗って、駅から仕事場まで歩くあいだに、何を目にすることができるだろう? そうやって見て感じたものを、どうやって自分の仕事と結び付けられるだろうか? それとも、何かのプロダクトに転換することができるだろうか? 何かを作る人間にとって大切なのは、日々の生活と繋がっていることだと思う。
今、男らしさとは何を意味すると思いますか? あなたたちが大きくこだわっているテーマだと思いますが。
JE:いや、そんなことないよ。確かに僕たちは男だ。そして、男性の服をデザインしている。でも、男らしさなんてことは気にしてない。これが男の服だ、というふうには考えない。もちろん、男らしさという規範は社会に存在してるよ。でも、そんなことにはたいして興味がないんだ。僕たちはジェンダーについて考えるより、自分たちが表現したいこと、探求したいことにもっと関心がある。それに、結局、服は生地の固まりだ。そこへいろんなことを詰め込む気はないしね。Étudesの目標のひとつは、ステレオタイプな思考をやめることなんだ。関心がある規範は、現代社会に存在する規範だけだよ。ジェンダーに関して言えば、現代社会のジェンダーは流動的であるべきだ。
Étudesには6人のメンバーがいます。それぞれ別の部門を担当していますが、最後は、6つの意見ですよね。序列はありますか?
NP:ないね。スタートしたときから、ずっとチームとして仕事をしてきた。自分たちのエネルギーを共有したいから、自然と集団になることを選んだんだ。


集団としてのビジョンはありますか?
JE:あるよ。Étudesでの目標は、クリエイティブでありながら親しみやすいものを提案すること。
パリを拠点にしようと思ったのは、なぜですか?
JE:良い質問だ。最近、僕たちも同じことを考えてたばかりなんだ。誰ひとりとしてパリ生まれじゃないのにね。若い頃はずっと、開かれた国境を利用して、ヨーロッパの色々な場所で暮らした。僕たちはみんなグラフィティ アーティストだから、白い壁と寝場所さえあれば、どこでもよかったんだ。フランスに戻って、パリへ引っ越すことに決めたのは、Étudesを設立したとき。僕たちはパリのイメージが好きじゃなかったから、ちょっとした実験だったんだ。でも今はハッピーだよ。ここ数年で、この街はずいぶんと良い方向へ変わってきた。過去2年に起きたことがとても辛い経験だったとしても、パリがそれを乗り越えてタフになるのはいいことだ。困難が与えてくれるエネルギーは創造を助けるんだよ。

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- 写真: Andrzej Steinbach