キーチェーンの心理学

鍵に繋がった世界

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Rebecca Storm

鍵をたくさん持ち歩いている人は、何となく立派に見える。どうして、そんなにたくさん行く場所があるんだろう? 信頼して鍵を渡してくれる人が、そんなにたくさんいるんだろうか? 刻みを付けられた金属片のひとつひとつが、果たすべき役割、別の世界への扉、大切な所有物を意味する。鍵には、いつ何時でも、私たちの生活を中断したり進めたりできる力がある。指紋認証やタップ & ゴーの時代になったとはいえ、鍵は依然として重要なIRLだ。メルセデス ベンツは1998年に初めて「キーレス」なドア ロックの解除を導入したが、デバイスが誤作動するリスクを考慮して、車体の隙間に鍵を潜ませる非常手段を講じたのは、なんとも皮肉な話である。鍵への依存は消滅することなく、鍵が私たちと無関係になることは決してないだろう。スナップチャットでのライフ コーチングが人気を集めているDJ カレッド(DJ Khaled)が言う通り、「鍵はあらゆる鍵を手にすること」。そうであれば、あらゆるキーチェーンも持つべきだろう。信頼を託す鍵に繋げるキーチェーンは、鍵を安全に保管し、美しく装飾する。私たちから片時も離れず、何処へでもついて来る。外見重視のポン ポンから記念の栓抜きまで、私的な宝物あるいはアイデンティティの小さな延長として、キーチェーンは無限の目的を果たす。私たちがキーチェーンを選ぶとき、そこにはどんな心理が働いているだろうか?


紛失者から発見者へ
おそらく、鍵を失くしたことに気づいたときほどパニックすることはない。ところがフロイドによると、紛失は故意であるらしい。つまり「隠れた、しかし強い動機で」私たちは物を失くす。著書『日常生活の精神病理学』には、ひとりの男性の症例が記述されている。あるイベントに出席することを妻に強要されたその男性は、出かける直前に車の鍵を紛失した。「何かを、その目的ゆえに失念するのです」とフロイドは言う。多分、真実だろう。この次必死に失くしたものを探しているときに、それを自分に言い聞かせてみてはいかがだろう。その後は、心して、鍵を必ず安全に保管するようになるかもしれない。カラビナやメタルのチェーンなら、どのタイプを選ぶにせよ、故意でない限り、鍵が失くなることはない。

画像のアイテム: キーチェーン (Loewe)


内面の象徴
昨年、Thom Browneは、ミニチュア ダックスフンド「ヘクター」を親友兼ミューズとして作品に登場させた。以来、胴長なペットへ捧げるオマージュとして、「ヘクター バッグ」の新バージョンを作り続けている。2017年秋冬シーズンでは、ゴールド トーンの立体的な「ヘクター キーチェーン」も登場した。何ものも本物のヘクターに取って代わることはできないだろうが、ヘクターの複製はひとつの真実を指している。つまり、愛するものを模ったキーチェーンであるなら、それ自体も愛情に値する。「心の内を隠さず」見せようと思うなら、よく目につくキーチェーンで愛情を表現してもいいではないか。

カラビナやメタルのチェーンなら、
どのタイプを選ぶにせよ、
故意でない限り、
鍵が失くなることはない

コレクターの至福
ギネス世界記録によれば、キーチェーンの最多コレクションはスペインの小さな町コンセルが持っている。人口わずか3,869人の自治体に、47,200種類の小さな飾り。収集には、現実から巧みに逃避できる一種の純朴さがある。埋もれるほどの収集物は、収集への献身を立証している。コレクターはひとつひとつを手に取り、名前を与え、自分だけが理解できる世界を構築する。それがポケットに入る大きさの世界なら、どこへでも持って行ける。突如として、コレクターは自らの歩く幻想と化す。そして、コンセルを離れて、文字通りどこへでも行ける。

画像のアイテム: キーチェーン (Miharayasuhiro)


機能主義
バッグの中身、手放せない必携品...女性誌が頻繁に取り上げるテーマだ。無理もない。複雑でスピーディーな現代では、常に対応できる準備を整えておく必要があるから、瞬く間にバッグはいっぱいに膨れる。最近の調査によると、小型車の値段に匹敵する価値の品物を、バッグに入れて持ち運んでいるイギリス女性もいる。ここで役に立つのが、二重機能のキーチェーン。ヘッドフォンやコインの中からキーチェーンを探り出す必要がなければ、どんなに助かるだろう。容器を兼ねたキーチェーンなら、小銭が散らばることも、口紅が行方不明になることもない。

もちろん、私たちは携帯品の総計より
はるかに大きな存在ではあるが、
私たちの行為は目に見える形をとる。
その中心にあるのは、自己主張だ

自己認識
自分に望むものを物が示すとすれば、デザイナー キーチェーンは興味深い伝達媒体だ。ラグジュアリーな世界への敷居は高いが、キーチェーンによって手の届く存在になりうる。そして選んだブランドがあなたのアイデンティティになる。ケンダル・ジェンナーとカーラ・デルビーニュが愛用する毛皮の「カーリト」は、ふたりのファッションの父とも言えるカール・ラガーフェルドに似ていることを見れば一目瞭然だ。もしかしたら、Gucciのクラシックなストライプ、Loeweの大ぶりなノット、Miu Miuの若々しいリボンの何かが、理想のあなたと結び付いているのかもしれない。もちろん、私たちは携帯品の総計よりはるかに大きな存在ではあるが、私たちの行為は目に見える形をとる。その中心にあるのは、自己主張だ。


会話の担い手
毎日の通勤に利用するバスや地下鉄では、やることがたくさんある。メールに返信したりツイートに目を通しているとき、「今ここ」に注意を払うことは難しい。もし「運命の人」とすれ違いながら、まったく気づかなかったら? 時代遅れな出会い系など、頼りにできない。だが、キーチェーンを使えば、見ず知らずの人と話し始めることも可能だ。きっかけを作るには、エレファント型のポーチが最大の威力を発揮する。自信を持って選ぼう。何を言いたいにせよ、何を言おうとしてるにせよ、キーチェーンはロマンスのお守り。賢く選ぼう。

画像のアイテム: キーチェーン(Loewe)

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Rebecca Storm