リアーナの流儀

ロビン・フェンティが描く未来のキャップ スタイル

  • 文: Durga Chew-Bose & Erika Houle

大文字のMのような山の頂の形をした、リアーナ(Rihanna)の唇は独特だ。カッコよく、常にピンと尖った、彼女の存在を象徴する唇。ここ10年間、彼女は自分のポジションを最大限に活かして、ある特別なスタイルを私たちに提供してきた。

その「リアーナの流儀」をここに紹介しよう。

コートサイドからレッドカーペットまで、全身スウェットのときもピンヒールにシルクのロングドレスのときも、リアーナは常に、口紅かグロスにベースボール キャップを合わせるという2ステップのコーディネートを採用してきた。顔の大部分をキャップの丸いつばの下に隠すことで、完璧に彩られた彼女の唇はさらに明るい煌めきを放つ。この組み合わせを使えば、ほとんど労力をかけることなく、彼女はメイクもばっちりだと人々に思わせることができる。人に見られたくない、朝帰りで疲れた顔は隠してしまう。これなら、どこかに逃げ出すのも、誰かを避けるのも簡単だ。自信を振りまいて注目を集めるが、プライバシーはしっかり守る。誰がやっても、しくじらない。必然である。ブラなしで出かけたり、あるいはメイクには必ずハイライトを入れるなど、リアーナはただ流行を作り出すだけではなく、ルール自体を作り変える。世界の前に再び姿を表す際に、自分のほんの一部しか他人に見せないという、これほどシンプルで、手間いらずの防御手段を考えついてしまうのは、彼女のような天才だけだ。

リアーナと、発売開始から2ヶ月で1億ドルの売り上げを突破した、史上最もインクルーシブなコスメ ブランドFenty Beautyへのオマージュとして、SSENSEが彼女の6つの定番スタイルを紹介する。

画像のアイテム:帽子(Nike)、Fenty Beauty Gloss Bomb

毎日のお使いスタイル

絶望的な場所で好きな人を見つけてしまうという設定は、リアーナの大ヒット曲のおかげで広く人の知るところとなったが、意外にも、彼女による発明ではない。古き良き時代の運命の出会いシーンをあげると、映画『ウェディング・プランナー 』で、Gucciのヒールがマンホールにひっかかってしまったジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)を、マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)が、坂道を転がってくる大型のゴミ収集箱から救う場面がそうだ。本物の恋は、文字通り、どこで始まるかわからない。リアーナによれば「今すぐにもキスされたい気持ちになる」という、この官能的でバラのようなヌードカラーのリップグロスの写真を、世界中の女性たちが専用タグ#glossbombaroundthe🌎使って、インスタに投稿しているのは偶然ではない。このような出会いが最もよく描かれているのは、それほど有名ではないが、本来ならもっと評価されるべき彼女の楽曲、「We All Want Love」だろう。誰だって密かに、スーパーで同じチンゲン菜の束に手を伸ばして、運命の人とかすかに手が触れ合うような出会いを願っているものではないだろうか?あるいは、コインランドリーで可愛い男の子に「思いがけず」激しく衝突してしまうとか? いちばん単調で、ありきたりな雑用をしているときに、ロマンチックな瞬間が訪れるという考えには、うっとりするような魅力がある。そして、ついつい機能性重視の服装をしがちな、そういう瞬間に着るべくして作られたのが、アスリージャー スタイルだったのではないだろうか。そんなときに口紅は重すぎる気がするし、場違いだ。だが、最低限のナチュラル メイクさえしていないところを「不意打ち」されるのは避けたい。となれば「JUST DO IT」、これがぴったり。ちょっとルミナイザーを塗って、未来の恋人の目に映る輝きになろう。

画像のアイテム:スカーフ(Gucci)帽子(Noah)、Fenty Beauty Mattemoiselle "Saw-C"

『グレイ・ガーデンズ』的キャップ使い

『グレイ・ガーデンズ』のファッションは、すでに散々引き合いに出されているが、彼女たちが疲れているのは明らかだ。それに怠惰だ。もちろん、私たちのせいでもあるのだが。それでもやはり、リトル・エディ(Little Edie)ことEdith Bouvier Beale (エディス・ブヴィエ・ビール)の重ね着や、ゴールドのブローチに対するこだわり、頭に巻くスカーフ、ぴっちりとした服の組み合わせが、彼女のぎろりと睨む視線を完璧なまでに引き立てているのを見て、そこからインスピレーションを受けずにいるのは難しい。だから最初で最後だとしても、このスタイルを取り入れてみる。少なくともリアーナの場合は、古いものでも、いつでも新しく見えるのだから。『グレイ・ガーデンズ』的なキャップ使い。方向性としては、ビール ストリートの女性風のスタイルなのだが、リアーナ特有の突っぱねるような目つきが特徴だ。今年の春、マンハッタンのアパートから出てくるところを写真に撮られたリアーナは、オリーブ色Supremeのキャップを被り、その上から花柄のスカーフを頭に巻いていた。華やかさという点でいえば、彼女は「完璧」だった。やや風変わりだが、人を寄せ付けない雰囲気があった。シルクのスカーフは、自信に満ちた隠者のような、捉えがたい雰囲気を象徴している。彼女には、他人を喜ばせたり、もてなしたり、役に立ったりする必要などないのだ。

画像のアイテム:帽子(Burberry)、Fenty Beauty Mattemoiselle "PMS"

増幅する冷たい視線

もしリアーナが冷たい視線を投げかける写真が撮れたなら、中指を突き立てる絵はもう必要はない。もちろん、中指を立てたリアーナも素敵なのだが。おそらく彼女は、キャップの陰から魂を打ち砕く意地の悪い表情を投げかける方法マスターできた、唯一の人間だ。彼女は誰よりもエレガントに、人を小馬鹿にした視線を送る。ネット上には、リアーナが嫌な顔をして写ったパパラッチ写真から作ったミームが無数に存在する。たとえば、昨年、ニューヨークで撮られた、Burberryを美しくまとったアイコニックな写真。おそらく、そのときの問題が彼女にちょっとしたインスピレーションを与え、数ヶ月後に発売開始となった、Fenty Beautyの口紅に、いみじくもPMSと名付けられた、あのダークブラウンに近い深紅色を加えることにしたのではないだろうか。Burberryのクラシックなプリント全体に広がる繊細なストライプという形であっても、不機嫌な赤色はドスが利いており、余計なことはするなと釘をさす。さらに、その気分を自分の口で表現すると、強力なメッセージとなって伝わるのだ。あたかも、リアーナからディスられるのを想像するだけでは、辛さが足りないかのように。血の色に染まった唇から出てくるとき、「ファックユー」は2倍強く突き刺さる。

画像のアイテム:帽子(032c)、Fenty Beauty Stunna Lip Paint

クラシック

赤い唇の癒し効果は、いくら過大評価してもしすぎにはならない。ここでのカラー「Stunna」は、クリーミーなスカーレットに、マットな質感の赤だ。危険なまでに効果絶大だが、徹底的にクールでもある。最もニュートラルな、普段の赤と同じ色だ。多くのクラシックなアイテム同様に、どうしても手に入れたいものだ。赤色が希少だからではない。赤色が率直であるがゆえだ。それは1本の501や、白のTシャツ、しっとりした肌にも通じる。暑い日の湿った髪の毛のようでもある。赤い唇には中和する役割もあるという意味では、クラシックでもある。「赤い唇」という表現ですら、ただのコスメ以上の意味がある。それはひとつの姿勢なのだ。鋭い切り返しの言葉。何かを要求するときや、気の利いた仕返しを目論んでいるときに言う言葉。言ってみれば、赤い唇は、間接的作用で魅力を呼び覚ますための手段のひとつなのだ。人目にさらされ、そこでの存在を主張するためだけに、ストローに跡をつけて残す手段だ。Fentyの「Stunna」は声高にリアーナを主張する。リアーナは本当に何をするにつけても、例えば、月曜日の朝にソーホー地区で鳥に餌をやっても、ハート形のSaint Laurentのファーのケープ1枚を身につけて出歩いていたとしても、普段の行動から外れたことをしているように、全く見えない。これは、もはや彼女の著作権と言ってもいいような、卓越した才能なのだ。リアーナにとっては、それが普通の月曜日なのだ。このクラシックな赤にぴったりなのは、使い古して少し傷んだようにも見えるキャップだ。このキャップもまた、新品に見えるのを拒むという点において、クラシックである。長年かけて着古したような、元カレからくすねてきたような一品。032cの、ブリーチで染み模様をつけたようなコーデュロイのキャップ。これは、実はベッドから一歩も出てすらいないのに、「今、車の中!」とメッセージを送ったときに被るものだ。外出はしたいけれど、布団から出るのは嫌。そういうときは、この赤を唇に塗ってしまおう。溢れるほどに。なんてね…

画像のアイテム:帽子(Nasaseasons)、Fenty Beauty Mattemoiselle "One of the Boyz"

クラブという特別な空間

かつてヴァージニア・ウルフ(Virgina Woolf)は、服装について、こう語った。「それは、私たちの世の中に対する見方を変え、世の中の私たちへの見方を変えることもある。」この考察は、確かに的を得ている。女性が、とっておきの勝負服を、女性同士が集まる場で自慢するためにキープしておくというのは、よくある話だ。Tinderで出会った相手と気軽にデートする程度の服は、女子会のために満を持して披露される出で立ちには、到底太刀打ちできない。ダイアモンドのジュエリー、ふわふわのスリッパ、ブラトップ…そして鮮やかなパープルのリップスティックを想像してみれば、一目瞭然だ。そして結局のところ、人がもっとも気楽でいられるのは、クラブの中だ。バーのカウンターでマリファナのジョイントを丸めること然り。浴びるようにお酒を飲むこと然り。人前でイチャイチャすること然り。ついでに言えば、子犬の里親になることも、クラブでなら、あり得る。「証拠画像がなければ、なかったも同然」という暗黙のルール通り、明け方近くの時間帯に何が起きようとも、建前上は、あなたとその仲間内だけにとどめられることだろう。とはいえ、容赦なく注がれる他人の視線がある以上、用心するに越したことはない。そんな時は、キャップのブリムが生み出すバリアを活用しよう。例えば、リアーナがこのところずっと愛用しているNasaseasons の「I came to break hearts」と書かれたキャップ。「私に近づくと火傷をするわよ」と警告を発するキャップのブリムがうまい具合にパーティションの役割をはたしてくれる。これをかぶっていれば、あなたが一目惚れの相手に恥ずかしい秘密をささやいていたのか、それともこっそりキスをしていたのか、誰にもわからないだろう。

画像のアイテム:帽子(Balenciaga)、Fenty Beauty Mattemoiselle "Clapback"

リアーナ ネイビー

ピーター・バーグ(Peter Berg)の映画『バトルシップ』に海軍兵曹役で出演するずっと前から、リアーナが、海軍に由来する「リアーナ ネイビー」と呼ばれる熱狂的なファン層を持つに相応しい理由は無数に存在した。彼女はずっと、すべての最高のムードボードやミーム、#goalsのタグの陣頭指揮を執る、われらが艦長だった。ワイン片手に、彼女が数々のパーティーに姿を現したとき、そしてパーティーを去るとき。皆の前で悪魔に「すぐにうせろ」と発言したとき。クリスタルだけでできたドレスで、CFDAのファッションアイコン賞を受賞したとき。メットガラを席巻したとき。最初のグローバル アンバサダーとして、 教育のためのグローバル・パートナーシップに参加したとき。Pumaのクリエイティブ ディレクターになったとき。業界を一新するコスメティク ライン、Fenty Beautyを創立したとき。ハーバード大学のヒューマニタリアン賞を受賞したとき。自分のランジェリー ブランド、Fenty × SAVAGEを立ち上げたとき。ドレイク(Drake)を振って、それからもう一度、ドレイクを振ったとき。伝説は無限に続く。リアーナは、疑いなく歴史に名を残すことになるだろう。ネイビーの名にふさわしい口紅をつけて彼女とともに立ち上がるのだ。世界を変えたいなら、まず自分が変わらなければ。

  • 文: Durga Chew-Bose & Erika Houle