SSENSE 2019年春夏トレンドレポート PART 2

次シーズンと未来のスタイル ガイド

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム
  • イラストレーション: Tobin Reid

ベラ・ハディッド(Bella Hadid)がホテルから出てきて車に乗り込むまで3.5秒。それだけの時間があれば、新たな隠れトレンド、あるいは一大トレンドが生まれるには十分だ。オンライン メディアがパパラッチの写真に飛びつき、そのファッションに名前をつければ、れっきとした新スタイルの登場である。今年は、トレンド サイクルが嵐のようなトレンド サイクロンとなり、流れについていくだけでフルタイムの仕事になっていた。この調子で数が増えていくとしたら、毎シーズンあたり一体いくつのトレンドを追うことが可能なのだろうか、そして、この大量のトレンドの中でより長く続くのはどれか、と問わずにはいられない。そこで、迫り来るヒット商品の波に乗り遅れぬよう、SSENSEエディトリアル チームが大きなトレンドから小さなトレンドまで幅広くピックアップし、2019年春夏トレンドレポートとしてお届けする。

ラバライト

Landlordの2019年春夏ショーでは、頭や体にカラフルなパラフィン ワックスを塗ったモデルがランウェイを歩いた。パラフィン ワックスは、おなじみラバライトの中で漂うさまざまな色や形状の浮遊物「ラバ 」に使われる材料だ。温度の上下にしたがって形や密度や色が変化し、水中を浮き上がったり下降したりする。「ライト」と言っても、照明器具というより永久に変化を続けるインテリア、「物珍しさ」がセールス ポイントだ。その意味で、60年代のスタイルがやたら多く転用されるこのシーズンに、ぴったりのシンボルと言えるだろう。Loeweのクロシェット、KwaidanMarniのサイケデリックなフローラル柄、Missoniのウォーター マーブル。Dries Van Notenは、ヴェルナー・パントン(Verner Panton)が色鮮やかな曲線でデザインした、「着る感覚」のインテリア作品にオマージュを捧げた。グラデーションの曲線は、ラバ(lava)の「a」に似ている。2019年は、ライトの中を循環するラバと同じように、サイケデリアが浮き上がってくるだろう。少なくとも、しばらくのあいだは…。

CDG Nike Shox

スニーカーは、未来を予言するものだ。そのデザインは、同時代の兆候だけでなく、将来に起きることをも映し出す。川久保玲(Rei Kawakubo)は、Comme des Garçons 2019年春夏コレクションに、チャーム ブレスレットでチューンアップしたNike Shoxを登場させた。チャーム ブレスレットやベストフレンド ブレスレットに象徴される無垢な時代に私たちが抱くノスタルジア、そして私たちを支配する突然変異的テクノロジーという奇妙な組み合わせを、川久保はいかにも彼女らしい詩的な手法で完璧に反映したわけだ。21世紀の幕開けと同時に生まれたShoxは、2000年問題への懸念を総括するにふさわしいシューズだった。2010年代最後の年を迎えて、私たちは再び、将来への不安に苛まれている。だから、賛否両論はさておき、社会の混乱に耐えうるクラシックなスニーカーへ戻ろうではないか。かつてShoxがトレードマークだった、NBAスター プレイヤー、ヴィンス・カーター(Vince Carter)も、またShoxを履き始めた。ヴィンスのニックネームが「狂気の沙汰 – インサニティ – 」と組み合わせた「ヴィンサニティ」なのも、決して偶然ではない。2019年へようこそ。

最後のフロンティア:デスバレー

1850年代、横断を目指した開拓者13人が命を落としたころから、不毛な荒野が広がる盆地には、いかにもアメリカ的な「デスバレー:死の谷 」の名が付けられた。海抜マイナス86メートルという北米でもっとも低いこの地では、1913年に地球上で最高の気温56.7度が記録された。年間の降雨量は8センチにも満たない。すべてがエクストリーム。したがって、驚くに値するものがほとんどない昨今、強烈なデスバレーの要素がデザインに現れるのも頷ける。デスバレーの粘土から抽出した色素でレッド オークルに染色したAcne Studiosのレザー ワークウェア ジャケットは、日光にさらされ、土埃にまみれているようだ。Marniの色褪せた蛍光色は、熟していないバナナの粉っぽく無気力な味、あるいはほんの一口でも水分を渇望する乾いた口の中の味を思わせる。あるいは、古着屋の日の当たるウィンドーに、あまりに長く放置されたようなウィンドブレーカー。店内にあるブーツは、たとえばMargielaの最新ブーツに似ているだろう。ウェスタンに憑りつかれた2018年が、最後のフロンティアに足跡を残すブーツだ。故意にフィットを崩したオーバーサイズのスーツは、誰か別人のために作られ、結局、他人の手に渡る運命を辿った古着を思わせる。レモン イエローやサンド カラーの抑えた色調は、再度デスバレーを目指すにふさわしい完璧な迷彩色となって、灼熱の太陽からも、清冽に澄み渡った夜からも守ってくれる。いつまでも「パリ、テキサス」を目指すトラヴィスのように、どこまでも歩き続けよう。

ネオ マトリックス

ゲームが直接の原因で離婚する割合が上昇し、デジタル世界と現実世界の境界がどんどん曖昧になっていく時代であれば、私たちもそれにふさわしい服、すなわち戦闘服を着続ける。過去数シーズンにわたって、デザイナーはあらゆるファッション ツールで私たちを装備してきた。ユーティリティ ウェア、テクニカルなディテール、迷彩、ビニール…。ファッション界が愛する架空キャラクター、リル・ミケーラ(Lil Miquela)は、空気力学を考慮したサングラスで朝食に現れ、バーチャル世界で無慈悲な対決を続け、すでにファッション インフルエンサーの座を手にしている。黙示録後の世界では、人間もサイボーグもおしなべて、頼りにできるのは自分だけ。だから、1017 Alyx 9SMMISBHVA-Cold-Wall*といったブランドのパフォーマンス ウェアをずらりと取り揃えて、サバイバルに備えよう。

Mowalola

ナイジェリア出身のモワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)は、5月、セントラル セント マーチンズ卒業コレクションとして発表したメンズウェアで、瞬く間に観衆の心をとらえた。ロンドンで活動するこの新人デザイナーは、2019年に向けて、楽しみな注目株のひとりだ。特にサイケデリアと男性のセクシュアリティを尊重したデザインは、ソランジュ(Solange)、デヴ・ハインズ(Dev Hynes)、ケレラ(Kelela)といったファンを得ている。リスクのない正攻法を志向しがちな分野で、オグンレシは待望の新鮮な視点を提案してくれる。「私は、自分が暮らしたい世界のためにデザインして創造するの」と、オグンレシは032cのインタビューで、語っている。「黒人のアートが価値を認められて、黒人の手に留まって、盗用されない世界。男性も女性も、非難されたりレッテルを貼られることなく、自分のセクシュアリティを表現できる社会。私たち人間は誰もが多元的な存在で、社会が決めた条件には、あてはまらないと思うの。ひとりひとりがパワーを持っているのだから、みんなが自分自身を信じて、自分の考えを信頼して、声をあげるようになって欲しい」。2019年もその先も、Mowalolaのマニフェストに私たちは賛同する。

案山子

案山子は、元来、カラスを追い払う目的で考案された。人間に似せたダミー人形を作る材料は、手近に転がっている材料だった。古いキッチン タオルをパッチワークした服、使い古したペイズリー柄のバンダナ、油染みのあるジーンズ、破れたシャツ、そしてもちろん麦わら。ChanelやJacquemusAmbushまで、春夏コレクションには素朴な麦わら帽が登場した。麦わらで編んだ大ぶりのトート バッグも少なからず見受けられた。そして、骨ばった肩から垂れ下がるエクストラ ロングの袖。体にフィットしていないオーバーサイズのスタイルは、不要な材料を寄せ集めて作った案山子を思わせる。Bodeはハンドメイド タッチのキルトのコートやシャツを提案し、Loeweはダイアモンドのパターンにパッチワークしたサテンのガウンを披露した。まさに、案山子風シック! だが、鳥たちが見慣れてしまえば、案山子の威力は弱くなる。ファッションとて同じこと。2019年の春夏シーズンは、パッチワークとペイズリーと麦わらで周囲を驚かせよう。まさかこんなことをいう日が来るとは思いもよらなかったが…今、案山子が旬のトレンドです。

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム
  • イラストレーション: Tobin Reid