BodeとGreen River Projectの物語

ファッションと家具デザインの真正コラボレーション

  • インタビュー: Max Lakin
  • 写真: Heather Sten

コラボレーションが過熱状態の昨今、ブランド提携のスニーカーをうまくボレーして、返すバックハンドでヒットを飛ばすのは、どの程度の難事業なのだろうか? 実は、それほど難しくない。ファッションは有名ブランドがタッグを組むドリーム チームが大好きだし、ドリームチームを暗示するだけでも大歓迎だ。だが本当のコラボレーションは、それほど簡単には実現しない。アイデアを共有するには開かれた姿勢が必要だが、神のごときクリエイティブ ディレクターからのご託宣に左右される組織では、容易に期待できるものでもないからだ。だが、人を押しのけて我先に陣取りするのではなく、午後の柔らかな日差しのように、そっと自然に入っていく方法もある。デザイナーのアーロン・アウジュラ(Aaron Aujla)、ベン・ブルームスティーン(Ben Bloomstein)、エミリー・ボーディ(Emily Bode)という3人のデザイナーは、そんなふうに出会い、10年にわたり創造的で実り多い関係をゆっくりと育んできた。

アウジュラとブルームスティーンが初めて出会った9年前、どちらもコラボを考えてはいなかったというのだから、今考えれば不思議な縁だ。美術を志していたふたりは、ギャラリーのオープニングで知り合って、ブルックリンのベッドフォード=スタイベサント地区にあるスタジオをシェアすることにした。互いの興味がぴったり同じなのも好都合だった。アウジュラはアーティストのネイト・ロウマン(Nate Lowman)のアシスタントをしており、ブルームスティーンは、最初はマッカローネ ギャラリーで、その後彫刻家ロバート・ゴーバー(Robert Gober)の下で、アウジュラと同じような仕事をしていた。ふたりとも、居住空間や記憶、共有された歴史をコンセプトとした彫刻作品を制作している点は共通だった。

アウジュラは、ブルームスティーンと出会う1年前から、ボーディと知り合いだった。やがてボーディはブルームスティーンとも親しくなり、彼とアウジュラがいつかはパートナーになることを確信した。「僕たちが今の仕事を始める前から、きっとそうなるはずだ、ってエミリーはずっと思ってたんだ」。アウジュラは言う。「僕とベンが作っていたアート作品は、基本的に、彫刻的な家具のカテゴリーに入るものが多かった。『あなたたち、インテリアだけに絞ったら、きっとすごく成功するわよ』って言われたのを、覚えてる」

Green River Projectがやっているのは、まさにそれだ。アウジュラとブルームスティーンは、モダニズムの影響を受けた家具をデザインし、制作する。非常に明確なコンセプトをシンプルな形状へ落とし込んだ、彫刻のような家具である。ニスを塗装していないマツの一枚板を使い、斜線で構成されたラウンジャー チェア。固い背もたれで、禁欲的な、オイル仕上げのブラックのラウンジャー チェア。作品には泰然としたナチュラリズムが漂い、アクセントに置くチェアはそのままアートになる。「グリーン リバー」という命名は、ニューヨークの北方、ブルームスティーンの生家の近くを流れる川からもらった。

ボーディは、2016年、自分と同名のメンズウェア ブランドBodeを立ち上げた。素材として使うのは、ニューイングランドで開かれる物々交換の催しやフランスの蚤の市で探してくる、アンティークの生地だ。Bodeは、コレクションを発表するときのユニークな演出でも知られている。モデルたちがゆっくりと動く活人画のようなステージは、ファッション ウィークのランウェイではなく、「記憶の演劇」を見ているようだ。ニューヨークでの最初の頃のショーは、アウジュラとブルームスティーンが制作したセットに助けられ、コンセプトの枠組みのなかで、非常に私的な創作世界を構築することができた。夜明けや日没に、ボーディの母が育ったケープコッドの家へ差し込んだ柔らかい光。フランス南部の叔父を訪ねたとき、いつもボーディが寝起きした屋根裏の部屋。そんな思い出から着想を得た、脱構築したセットの中で、歩いたり、電話の受話器を取り上げたり、シングル ベッドに横になったり、起き上がったりするモデルの群像は、さながらイプセン(Ibsen)の幽霊だ。

「私はいつも、居住空間に関心があるの。私たちの関係性が面白くなる場所だから」。ボーディは言う。「ベンはゴーバーみたいな人のところで働いた経験があるでしょ。ゴーバーは、公の場と私的な場を対比して考える。ゴーバーのそういう考え方に関連させた最初のショーは、モデルの動きでそれを表現したの。家の中では当たり前のことが、人に見られる場所では、意味不明な、よくわからないものになるのよ」

2018年秋シーズンのコレクションは、ひとりの友人との対話から花開いた。その友人は、ハーバードで民族植物学を学んだにも関わらず、今はキルトの販売を手がけている。私たちの大多数が子供から大人になる過程で捨ててしまう、「感嘆」の気持ちを持ち続ける人物だ。ショーの中心となるセットはGreen River Projectが制作した。ニューイングランド風の羽目板張り、コート掛け、クロゼット、そして、ガラスのケースがあり、水の流れる音が聞こえる温室らしき場所...。6メートルあまりのジオラマみたいなセットは、居住空間というより、失われつつある居住空間の記憶を思わせる。1940年代、大学生のスタイルだったウールのスーツ、パッチワークのベッドカバーから作ったカー コート、レースのようなテーブルクロスを縫い合わせたシャツなど、ボーディの作品は背景に溶け込んでいるようにも、背景から浮き上がっているようにも見える。寛いでいるようでもあるし、切迫しているようでもある。「ある意味で、演劇を制作してる感じ」と、ブルームスティーンは言う。「台本はないけど、物語はある。背景のセットは、物語の構成から考えたけど、美的な見地からも考慮されている。物語と美学が重なり合って、ふたつの目的を果たしてるんだ」

その次のシーズンでは、インドの家系に連なるカナダ人のアウジュラとの関係をテーマにして、イギリス領インド帝国が崩壊した後の輝きを表現した。軽やかなカディ地の角張ったシャツ、この上なくエレガントなシルクのトラウザーズ、クリーム色のワッフルニットの半袖シャツ、透けるほど薄いゴッサマー地にベンガル刺繍をほどこしたシャツ。Bodeの世界の雰囲気に合わせて、Green River Projectは四角く仕切った積層板の長椅子を制作した。すっきりと直線的なデザインは、60年代のサタジット・レイ(Satyajit Ray)の映画で目にした列車のファーストクラスによく似ている。そして、ラッカー仕上げの竹で骨組みを組んだクラブ チェアは、ジャック・アドネ(Jacques Adnet)を連想させる。布張りの部分は、豪華なサフラン カラーのリネンや粘土質の土壌に生息する苔と同じ色合いのベルベットだ。竹製の衝立もある。3面のパネルに使ったBodeのテキスタイルは、コレクションのパンツにも使われているカディや、ビンテージのサリーだ。全体に、アウジュラが2016年に行なったギャラリーでのインスタレーションの名残がある。ル・コルビュジエ(Le Corbusier)が描く20世紀中頃のモダニズムを体現した、チャンディーガルのパンジャブ大学図書館内には、ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)のデスクがあった。これをMDFボードで再現した作品で、アウジュラはそこにインド絨毯のサンプル生地を散らした。

Green River Projectの家具はフォルムを重視するが、明確な感覚の表現が犠牲にされることはない。どっしりした木材のダイニング テーブルは、せせらぎが長い年月をかけて流れの道筋を作ったかのような、中央が浅く掘られている。これらの写真に見られる直線的なアルミニウム テーブルは、ジャン・ミシェル・フランク(Jean-Michel Frank)がデザインした留繋ぎと同じように、角に柔らかさを持たせ、流れの中に置かれている。文字どおり自然への回帰だ。撮影したアンドリュー・ジェイコブス(Andrew Jacobs)はファッション フォトグラファーで、Bodeのルックブックも撮影している。自分たちの作品は、フィルムに焼き付けられた連続した繋がりとして捉えてほしいと、ブルームスティーンは言う。そんなふうに考える人がたとえひとりもいなくても、だ。「そうすることで、より長い歴史の中へ織り込むことができる」

Green River Projectはファッションの世界で作品を発表するだけでなく、1年に4回のコレクションを中心にスケジュールを組んでおり、デザイン界よりはファッション界に歩調が合っている。そしてブランドのコレクションで、ブルームスティーンとアウジュラは初めて服の領域にも進出した。それが、自分たちがスタジオで着る溶接用防護服をモデルに、ボーディのアドバイスを取り入れて作った一連の溶接ジャケットだ。コーヒーミルク色の毛羽立ったシープスキンや斑模様のカウハイドを使った、豪華な仕上がりになっている。

最新コレクションには、高さの低い、ほとんど原始的な印象のスツールがある。材質は黒檀や黒色のオバンコールで、ダウンタウン マンハッタンにあるお洒落でミニマルなブティックにぴったりだ。コーヒーで着色したベイマツの半月形スツールは、シートの部分に、ボーディが手描きしたコーデュロイが張られている。ボーディは、小麦色のコーデュロイのパンツやジャケットに文字やシンボルで着る人の「自分史」を手描きするのだが、その延長だ。もとはといえば、20世紀の中頃、パデュー大学の学生たちが面白半分にやっていたことで、自分が信じる価値体系を示す歩く看板にもなる。ファブリックはGreen River Projectの大型作品にも登場した。チャイナタウンにあるBodeのスタジオには、フラシ天のソファやデイベッドが置かれている。

BodeとGreen River Projectが互いに与える影響は、販売する商品に限らず、それぞれの仕事に対する考え方にも及ぶ。3人共ハンドメイドを愛し、モノの見た目だけでなく、自分の持ち物や生活を共にするモノとの繋がりにエモーションを託す。「ベンやアーロンのそばにいて、洋服の着方、ふたりが気にかけることや気にしないことを見てるだけで、それが私の作る服に反映されてくると思う」と、ボーディは言う。「ふたりが買うものを選んで、それを着て、着ることで表現するやり方が、素晴らしいの。俗に言う男らしいシャツの選び方から外れることもある。パンツを切ってボーイッシュなショーツにしたり、角ばったシルエットのシャツだったりするけど、Bodeのシルエットはそういうのにかなり近いわ」。彼女がBodeとして最初に作ったシャツは、アウジュラのクロゼットにあった1950年代のシャツがインスピレーションの源だ。そのシャツは丈が短すぎたので、アウジュラは裾の部分を継ぎ足していた。

Green River Projectは、Bodeの2020年春シーズンのショーと連動して、パリで次回のコレクションを発表する予定だ。ファブリツィオ・カシラギ(Fabrizio Casiraghi)がキュレーションするインテリア デザイン ショー「AD Intérieurs」の2019年度展示会でも、作品が紹介される。Green River ProjectとBodeが選んだコンセプトは、ブルームスティーンの子供時代だ。スーフィー共同体で成長した。しかその場所は昔アメリカへ渡ったシェーカー教徒が暮らした場所だったというのだから、昔話さながらではないか。かつてそういう時があったけれど、今は記憶の中にしか残っていない、みたいな...。そうであり、そうではない。今なお残る歴史の余韻の中へ、BodeとGreen River Projectは足を踏み入れる。ボーディは言う。「みんな、自分が作るものはタイムレスだって言いたがるけど、私は、タイムレスっていうのは、写真に残っていてもいつの時代かわからないものだと私は思ってる。別に古く見える必要はないの。時間の流れとは関係ないんだから」

アウジュラとブルームスティーンのデザインに対するアプローチは、ボーディの仕事の仕方を目にして刻み込まれたものだという。エンド ユーザーにはわからないかもしれないが、ボーディと同じように、個人的な歴史が作品作りの出発点だと考えるようになった。陽極酸化処理をほどこしたアルムニウムを使い、ウーステッド ウールを張ったどっしりした椅子は、サウス ストリート シーポート地区で溶接工や船大工たちに混じって暮らしていたブルームスティーンの祖父の思い出だ。こんなエピソードは別に秘密ではないが、商品説明に書かれているわけでもない。歴史を商品のタグに貶めることはしない。ふたりが選んだ生き方の根底に染み込んでいるのだ。ビジネスは記憶を蘇らせる方法であり、思い出すことは前へ進む方法だ。「アーロンと僕だけじゃ、特定の場所から作品を作り始めることはしなかったと思う」と、ブルームスイティーンは言う。「エミリーがいないと、僕もアーロンもシニカルになる傾向がある。エミリーの誠実さから、僕たちは勇気を貰ってるんだ」

Max Lakinは、ニューヨーク シティで活動するジャーナリスト。『T: The New York Times Style Magazine』、『GARAGE』、『The New Yorker』、その他多数に記事を執筆している

  • インタビュー: Max Lakin
  • 写真: Heather Sten
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: October 2, 2019