このコートはあなたの安全地帯
わたしたちが求めるオーバーサイズな時間を体現した、Raf Simonsのダウン ジャケット
- 文: Bianca Heuser
- 写真: Haw-lin Services

新たに誕生したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話
成長する苦しみを知らないなら、あなたはまだ赤ん坊だ。すでに味わったことがあるなら、たとえほんのわずかであっても、しがみつける快適さの重要性を理解できるだろう。常に苦悩するRaf Simons(ラフ・シモンズ)は、理解している。このダウンジャケットの黒と黄色の縞模様は、ミツバチの縞模様と同じように、捕食者から身を守ってくれる。かくして、あなたは平穏を享受できる。都合のいいことに、バカでかいサイズはあなたが望むパーソナルな空間も確保してくれる。このコートは本当に大きい。郵便番号が必要なくらい大きい。「上着」の概念を、文字どおりに受け止め過ぎて、冗談になったみたいだ。コートとは、持ち運びできる安全地帯である。その中で冬を過ごすためのスーツである。袖のある毛布である。2本のスプーンのようにぴったりと重なり合うカップルの抱擁である。長い間、人々は快適性のために、そして極めてもっともな理由から、可愛さを犠牲にしてきた。しかし、このコートはその両方を手に入れる稀有のチャンスだ。
すべては、そのサイズにある。Raf Simonsが発表した2016年秋冬のデザインには、標準サイズなどない。縮んだようなパンツに、大き過ぎるセーター。今回のコレクションも、また、Raf Simonsの永遠のオブセッションである若者文化の周囲を旋回する。ランウェイを歩くモデルたちは、衣装に対して、大きくなり過ぎたように、あるいは、まだ成長が足らないように見える。このスタイルに見出す心地良さは、年上の兄弟から譲り受けたおさがりの、あの淡い記憶から来ている。あなたは、そんなオーバーオールなんか、大嫌いだったかったかもしれない。それでもなお、初秋の朝の匂いが遠い記憶の底から蘇る。正確には、ノスタルジーではない。むしろ、郷愁…を求める心だ。
オーバーサイズは、VetementsやLoewe、そしてもちろんRaf Simons自身によって支えられている流行であり、ムーブメントですらある。それは、気楽さと同時に、快適性と柔軟性を希求する社会の需要を意味している。オーバーサイズのコートやスウェットシャツは、あなたのお好み次第で、あっさりした黒いパンツでもレギンスでも上手くマッチする。次から次へと連鎖する疑問を断ち切る、ひとつの決断だ。
- 文: Bianca Heuser
- 写真: Haw-lin Services