このスウェットシャツは、ジェットセットたちの記念碑

Cali Thornhill Dewittとのコラボレーションから生まれた「032c」スウェットシャツは、名声の暗い輝きを賛美する

  • 文: Bianca Heuser
  • 写真: Haw-lin Services

新たに誕生したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

「Romy(ロミー・シュナイダー)は人生をとても愛していた。そして、それに殺されたんだ」。親友であったフランス人俳優Jean-Claude Brialy(ジャン=クロード・ブリアリ)は、42歳でYves Saint Laurentを身に纏いながら机で遺体が発見された映画女優を、25年後に回想した。彼女の物語は、悲劇ではあるが、格別珍しくない。俳優である両親の元に生まれ、修道院付属の寄宿学校で学び、16歳で若き皇后の伝記映画「Sissi(シシィ)」を演じて有名になったSchneiderは、以後もそのキャラクターから逃れることはなかった。ドイツを嫌悪し、最終的にその地を去った彼女は、パリへ、そしてパートナーであったAlain Delon(アラン・ドロン)の腕の中へと逃避した。圧倒的な名声、感情、酒と闘い続けたSchneiderの人生は、自由と悲劇の物語だ。20世紀に活躍した多くの輝かしいスターたちは、同じ心の脆さを共有している。Marilyn Monroe(マリリン・モンロー)、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)、Whitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)、Sharon Tate(シャロン・テート)、The Notorious B.I.G.(ノトーリアス・B.I.G.)、Philip Seymour Hoffman(フィリップ・シーモア・ホフマン)、その他数えきれないほど...。

セレブリティと悲劇の神話は特定の文化に限定されないが、発祥の地はハリウッドだ。広々としたハイウェイ、燦然と輝く夜のロサンゼルスのスカイラインを背景に、陶酔を誘うカリフォルニアの特性はすべての出来事を拡大し増幅する。「完全に環境的なモノだよ。エゴとか、セレブリティへの執着とか」。LA生まれのアーティストCali Thornhill Dewitt(カリ・ソーンヒル・デウィット)は 、2015年の初め、雑誌「032c」との初のコラボレーションとしてNico(ニコ)、Mies van der Rohe(ミース・ファン・デル・ローエ)、そしてひときわ華麗な栄光に輝くRomy Schneiderをピックアップしたメモリアル スウェットシャツの展示で、そう語った。名声につきまとうダークな一面に目を向けて、これらのカルチャーアイコンを始めとするセレブリティたちに捧げたDewittのモニュメントは、とても人間的な何か、そしてとてもハリウッド的な何かに触れた。その結果、Kanye West(カニエ・ウェスト)の目に止まり、「The Life of Pablo」に関連した商品のコラボレーションに誘われることになった。「実際のところ、俺のシャツのデザインは、80〜90年代にロサンゼルスのギャングが着ていたスウェットシャツが原型なんだ。誰かメンバーが死ぬと、残されたメンバーが死者を悼むためにスウェットシャツを作ったのさ」と、Dewittはデザインのルーツをあけすけに開陳する。

Dewittと「032」のコラボレーションは、ジェットセットたちが憧れたドイツ人女優への、言うなれば着て歩けるメモリアルだ。観衆を魅了して止まない夢幻のようなヨーロッパ銀幕スターのひとりであったRomy Schneiderは、何気ない仕草と言葉少ない告白だけで、ドイツのテレビ史を作った。国民的なトーク番組のセットで、反逆児Burkhard Driest(ブルクハルト・ドリースト)が着ていた黒いレザージャケットの腕にそっと触れて、彼女は言ったのだ。「Sie gefallen mir sehr(あたなのこと大好きだわ)」。そして今、スウェットシャツの背中にゴシックのレタリングで華々しく飾られたその賛辞は、円を描いて、この世を去った女優の元へ舞い戻る。彼女の魅力は、今日なお、色褪せることがない。Brialyが言った生への欲望? それは、彼女が天国で安らいでいる間も、彼女の存在で美しく飾られたスクリーンからまごうことなく溢れ出している。

  • 文: Bianca Heuser
  • 写真: Haw-lin Services