時をかけるPhlemuns
ケルシー・ルーからリコ・ナスティまで、ジェイムズ・フレモンズのPhlemunsは、未来のファッションをも形作る
- インタビュー: Sanam Sindhi
- 写真: Daria Kobayashi Ritch

この世界は一定した24時間周期のリズムで進み続ける。けれど、ジェイムズ・フレモンズ(James Flemons)は時間の制約にとらわれることがない。時間のほうがジェイムズに従い、彼は自分に便利なように時間を利用し、歪曲させる。広範なアーカイブを作成し、ファミリー ネームと同じ発音のアパレル ブランド「Phlemuns」を立ち上げたジェイムズは、単なる服作りではなく、息の長いコミュニティー作りに関心がある。「僕にとって、服とは、時間に関係なく後々まで残る刻印だ」と、彼は言う。「僕は、道しるべに、パンくずを落としながら歩き続けてるようなもんだ」
ロサンゼルスのダウンタウンにあるオフィス ビル。Phlemunsのスタジオは、モノで溢れている。緻密に仕上げられた服がかけられたラック、マフィンの箱、有名無名の顔が並ぶモデルのキャスティング ボード、洗剤と同じ匂いがするパープルのパール ジェルを入れたハチミツのプラスチック ボトル。その真ん中にジェイムズがいる。無名時代に設立間もないPhlemunsのキャンペーンに起用され、その後一線で活躍するようになったモデルが一人ならずいることから明らかなように、ジェイムズには予知能力があるらしい。そのおかげで彼は、若きデザイナー集団の第一波として、ロサンゼルスに押し寄せるファッション ルネッサンスの先駆けとなった。だがジェイムズは、特定の時代と結びつかないノスタルジーを理解し、それをデザインに織り込むことができる。そうやって、設立時の2013年から5つのコレクションを完成させてきただけでなく、セカンドライン「Phlemuns NonBasics」も誕生した。リコ・ナスティ(Rico Nasty)、パロマ・エルセッサー(Paloma Elsesser)、ケルシー・ルー(Kelsey Lu)らがポケットバッグやドゥーラグを愛用し始めたことは、ジェイムズの作品に、単なるデザインを超えた魅力があることを示唆している。着る人を選ばない手頃な既製服に関して、ジェイムズのビジネス感覚と一貫して最前線に立ち続ける能力には、驚くばかりだ。

James Flemons 着用アイテム:シャツ(Ksubi)、トラウザーズ(Marine Serre) 冒頭の画像のアイテム:T シャツ(Telfar)、ジーンズ(Helmut Lang)
サナム・シンディ(Sanam Sindhi)
ジェイムズ・フレモンズ(James Flemons)
サナム・シンディ:何かをアーカイブしたり収集したりすることは、私にとって、とてもカタルシスなんだけど、あなたも同じみたいね。
ジェイムズ・フレモンズ:僕は常にコレクターだよ。子供の頃も、バッジやら、おもちゃの車やら、消しゴムやら、いつも何かを集めてたね。もう少し大きくなって、絵を描き始めてからは、自分が描いたスケッチやいたずら書きを集めて、整理して、保存した。
いちばん最初に描いたスケッチを覚えてる?
両親によると、3歳の誕生日の招待状を描いたらしい。デザインという意味なら、小学校からミドルスクールにかけての期間だけで、多分200枚以上のスケッチがあったと思う。
画像は?
ファッション写真のアーカイブを始めたのは、カレッジへ行ってファッションを勉強するようになってからだね。だけどそれも、小学校やミドルスクールの時代に、好きなバンドとかミュージシャンとか、ポップ カルチャーの画像を集めたのが始まりだな。保存した画像が全部入ったCDを、今でも持ってるよ。
フロッピー ディスクの時代が終わって、外付けハード ドライブが出る前ね。残したいものはCDに保存しなきゃいけなかった。
そうそう。僕は最初、デザインより前に、画像に入れ込んでたんだ。カレッジ時代、僕と一緒に暮らしたやつらに聞いてみるといいよ。みんな口を揃えて、あいつはコンピュータの前に座り込んで、あちこちの掲示板を覗いては雑誌のページを保存してたって言うはずだ。
そういうのは、どうやって見つけたの?
インターネットは、なんとなく得意なんだ。これ、本当。別に秘密というわけじゃないけど、インターネットで見つけた『Vibe』マガジンのアーカイブまで持ってるからね。全部の号が揃ってる。『Vibe』は、ファッションと音楽の両方の記事があったから、特に好きな雑誌のひとつだったよ。ファッションと音楽は僕自身の世界でもあるし…。僕が見つけた掲示板には、マガジンやモデルやフォトグラファー毎のスレッドがあってね、ファッション記事に出た全部の人物に関してスレッドが立つんだ。で、僕はスキャンを保存して、ファイル名を作る。例えば、イタリア版『ヴォーグ』2月号だったら、「vit_feb01」。そのファイル名の後にエディトリアルを「01」、「02」、「03」と続けるのが、僕のファイルの作り方で、もっと詳しく、「Alexander McQueenのドレスあり」みたいなメモを書き加えることもある。夢中でやってたよ。学校へ行ってるか、家でファッション画像のアーカイブを整理してるか、どっちか。それから何年か後に縫製をやり始めてからは、アーカイブの代わりに、縫製に毎日精を出すようになった。
つまり、デザインを始める前に、もうアーカイブをしてたわけね。
そうだよ。
整理整頓して目録を作るプロセスが大好きなのは、今の仕事にどう反映してる?
コレクションを作るとき、座り込んで、あちこちからイメージを探してくる必要がない。全部、僕がこれまで目にしたものの積み重ねだよ。そういう積み重ねを表現する方法として、収集した画像を自分なりに吸収して、一か所でまとめて見られるTumblrは、ものすごく役に立った。テンプレートを使ったレイアウトだからコラージュのスタイルだけど、僕自身の中で消化した後の視点で並べ替わってる。見直すと「ああ、これはあそこから。あれはあそこから。これはあれがヒントだな」と、すぐにわかるんだ。だけど、どうすれば僕自身のものに変えられるか、ということも考える。これは、ずっと周囲から仲間外れのように感じてたこと、自分が仲間になりたい世界に入る方法を探してたことと繋がってると思う…僕がその一員になれるように、世界を作り変えるんだ。
あなたがデザインする服は、ファッション業界の人にも業界に無関係な人にも、とても身近に感じられるわ。それって、とても素晴らしいと思う。今の時代はとにかく、人を超えること、人を追い越すことが要求されるから。
そうだね。僕は、みんなが経験したり目にしたりするものを使いたいと思うんだ。そうすれば、誰でも、何らかの意味で関連を感じることができる。つまり、すでに自然や社会にあるものの見方を変えるだけなんだ。そういうやり方で、僕の仕事は根を下ろすことができたと思う。僕は別に夜空に輝く星を目指してるわけじゃない。手の届く範囲で手に入れられるもの ─ それが僕の目標だ。
身近で着心地のいいものを大切にする考え方は、「オレは第二のトム・フォード(Tom Ford)を目指すんだ」なんていうのより、はるかに立派よ。実は、私が最初に買ったのもあなたの服だったのよ。GucciやSupremeやComme des Garçonsを買ったのは、その後。先ずPhlemunsのジャケットを買って、一週間着続けたわ。そして、みんなに写真を撮らせた。
嬉しいなぁ。
私、どうすればファッションをコミュニティへ貢献する方法に変えられるかということに、すごく関心があるから。あなたはそれを実践してると思う。それも、人の目の前に突きつけるようなあからさまな方法じゃなくて、とてもデリケートなやり方でね。わかる人にはわかるし、あなたの価値を理解する人にはとても愛される。あなたのやっていることは、私たちにとって、とても大きな意味があるのよ。
二通りの人がいるよね。声高に主張して、自分がやりたいことを押し付けるタイプと、物静かだけど、着々と深い影響を及ぼすタイプ。それぞれ共感する人が違うから、両方とも大切だと思う。否定的にも肯定的にも、アピールする対象が違うんだ。僕自身のやり方は、どちらかというと「君の前に、何気なくそっと静かに、これを置いておくよ。いつか君にとってこれが当たり前になるまで、続けるからね 」というスタンス。色々なタイプのモデルを起用するのも同じなんだ。「僕はこういうふうにモデルに多様性をもたせています」と声高に主張するわけじゃない。ただ…
…自然にそうなるだけ。
これも、ずっとのけ者の気分を味わって、いつも仲間に入れてほしいと思っていた過去に繋がるんじゃないかな。違いに価値を認めるオープンなコミュニティを作りたいという気持ちがあるね。僕はいつも変人扱いされてたから、仲間として認められる気持ちを感じるには、自分のコミュニティを作るか、コミュニティに貢献するか、そのどちらかの方法しかなかった。僕自身の基盤を利用して他の人たちを押し上げたい、成功を応援したい、という気持ちは、いつも感じてたね。実際のところ、僕は、本当に誠実に僕に接してくれる人たちに応えてるだけなんだ。僕をサポートしてくれるのは、1000ドルのジャケットを買える人たちじゃないと分かってるから。それが現実だ。では、本当に僕の支えとなって、応援し、商品を買い、参加してくれる人たちのために、高級ブランドのような魅力があり、なおかつ身近で手頃なものを提供するにはどうすればいいか? それを僕は考える。
そういうコミュニティが与えてくれたものを、今度は逆に与えて、1000ドルのジャケットを買える場所に育てる?
そのとおり。
Phlemunsの未来図は?
成長。僕は、どん底で途方にくれた場所から出発したんだ。こんなことをやり続けて意味があるんだろうか?と考えたりもしたよ。はっきり言って、僕はアートで食べていこうとしてるんだから、かなり難しいよね。ファッションはアートじゃないという人がすごく多いけど、僕は自分をアーティストだと思ってるし、そういう視点を確実に理解している。だから、成長を続けて、新しい技術の進歩に合わせていくこと。常に冷静に、活動し実践していくこと。
将来のあなたは、何を着てるかしら?
自分がデザインした服を着ることはめったにないから、将来は、Phlemunsでお洒落にきめるよ。上から下まで全部Phlemuns、おまけに、アーカイブしてある憧れのビンテージ デザイナーの服も全部手に入る、そうなったらいいね。
現実にはまだ存在しないファブリックをデザインしたり、着たりできるとしたら、どんなものにする?
変形する服をデザインしてみたいね。構造や機能次第で、形が変わる服。
形状変化ファブリック?
そう。形やバランスが変化する。
今が2045年だとしたら、2019年のモノとして何をアーカイブしてると思う?
かつら。
あなたと時間の関係は独特ね。だけど、過去のことはたくさん話したから、将来のあなたがどうなってるかを聞きたいわ。
わからないよ。とにかく、時間という考えに縛られたことは、まったくないんだ。だから僕がデザインする服は、すごく懐かしい気がするのに、特定の時代に結びつかないんだと思う。例えば、僕が作ったある特定の服は、過去に同じものが存在したことはない。だけど、「ああ、これこれ…」という感じがする。
どこか親しみを感じる…。Phlemunsのジャケットは、2045年に着ても、まだファッショナブルに通用すると思うわ。
それが、僕がずっと大切にしてきたことなんだ。時代に左右されない服には価値があると思うし、時代に左右されない服を目指してきたよ。「オーケー。今はこれを着る気分じゃないけど、2~3年後にはきっと毎日着るようになるんじゃないかな」みたいな服。大切なのは、そういう気持ちと、記憶と、服を大切にすること、そして…
...ものを集めること。
そう、集めること。
- インタビュー: Sanam Sindhi
- 写真: Daria Kobayashi Ritch
- スタイリング: James Flemons
- ヘア: Tanya Melendez
- 翻訳: Yoriko Inoue