素敵なレイブ

ミラノの夜は
レイブに浸る

  • 文: Julia Cooper
  • 写真: Piotr Niepsuj

レイブの会場に最適なのは、荒廃した産業地区だ。 かつては人々と労働に溢れていた建物が晒す剥き出しの骨組みは、別れた昔の恋人と同じく、美しい亡霊だ。今夜、倉庫はブルーの光に照らされ、ダンスだけの場所になる。ヨガのインストラクターはいつも「今ここに存在しましょう。不要なものを手放しましょう。余分な力を抜きましょう」と繰り返すけど、今夜はそうできるかもしれない。見知らぬ人々に囲まれた場所、月曜日の朝からいちばん隔たった時。誰でもない誰かへ溶けていく合図が鳴り響く。甘美なセカンド ライフ、レイブが始まる。

12:08 AM

時間のいましめから解き放たれて、空間を浮遊する。時計の針が進んで明日になるまさにその時刻、パーティーへ足を踏み入れる。24時間で構成されたリズムは狂う。バランスを求めないのは、とてもいい気分。

1:42 AM

海面のように、頭と肩が揺れ動く。渾然一体。深く轟く音楽が絶えず続く波のように押し寄せ、時々心地よいアクセントが入る。目立つより、群衆の中に埋没するほうがいい。誰か有名な人が、そう言ってなかった?

2:37 AM

iPhoneは午前3時の20分程前を表示する。今画面は発光してるけど、一瞬前までは闇だった。時は停止して、ある瞬間を長く引き伸ばし、次の瞬間を速める。それにしても、この曲はいつから続いてるのかしら?

3:59 AM

ティンダー アプリは、人が人と一緒にいる必要性を証明してる。でも、人は結局最後はひとりだということの証明だとしたら?

4:01 AM

あの水を飲んだのは、いつだったかしら?
すごく美味しかった。

4:43 AM

もう誰も見分けがつかない。みんな、一緒にひとりぼっち。だから、お互い名前も知らないけど、孤独じゃない。

6:00 AM

会場を出ない限り、週末は永遠に終わらない!

7:35 AM

タクシーの座席が最高に柔らかい。今度はいつ来ようか? iPhoneのカレンダーをチェックする。延々と、忙しい週末が続いてる。スクロールする。親指を動かすだけで、週が飛び去り、月が飛び去る。スクロール、スクロール、スクロール。年が飛び去る。今ここに存在して、不要なものを手放して、余分な力を抜く。

  • 文: Julia Cooper
  • 写真: Piotr Niepsuj
  • スタイリング: Valeria Semushina
  • モデル: Valeria Semushina