明日へと引き継がれる僕たちのレガシー

Our Legacy創設者らがインスピレーションの再解釈を語る

  • インタビュー: Felicia Granath
  • 写真: John Scarisbrick

Our Legacy本社の2階のスペースには、誰かの自宅のような雰囲気がある。 遊んだり、想像力を働かせたりできる、秘密の場所。一時は子どもに占拠されていたこともあるが、今では当時の名残をとどめるばかりだ。

Our Legacyを率いるのは、クリストファー・ニーイング(Cristopher Nying)、ヨックム・ハリン(Jockum Hallin)、リカルドス・クラレン(Richardos Klarén)の3人だ。2017年には、このスウェーデン初のブランドの共同経営開始から10年目を迎えた。この会社は服を専門的に扱っているのは確かだが、実際にOur Legacyが扱ってきたテーマの軌跡を見ると、ファッションの常識から逸脱することを厭わないのがわかる。「ファッション ブランドというよりは、プロダクト重視の会社」であり、アンチ ファッションであることは、ブランドを支える信念のひとつである。今日に至るまで、まだ一度としてOur Legacyのファッションショーが行われたことはない。

プロダクトとプロセスに重点を置くことを明確にするため、3人は、彼らが「ワークショップ」と呼ぶスペースをストックホルムにオープンした。そこで彼らは、先のコレクションのアイテムの再構築を行なっている。ここでは、ブランド全体をリスクに晒すことなく、小規模で、細部まで配慮が行き渡る規模で、自由に実験を行うことができる。フェリシア・グラナト(Felicia Granath)が、Our Legacy のクリストファーとヨックムに話を訪問し、「ワークショップ」について話を聞き、欲望の支配関係が創造物を不朽のものへ変える仕組みを紐解く。

「ワークショップ」を作ろうと思ったきっかけは何ですか。

クリストファー:僕たちには世界中に卸売業者を抱えていて、最初、「ワークショップ」はもっと日常的に実験ができるようにするためのプロジェクトだった。それが、リサイクル ショップみたいになった。何がどこからくるのか、すぐにわかるのはいいことだと思う。でも、大量販売したり、第三者にプロセスの一部でも依存している状況だと、それを明確にするのは難しくなってしまう。

ヨックム:この作品は、ハンス・イサクソン(Hans Isaksson)というアーティストが作った物で、僕たちのブランドのスーツを解体してる。根底にある考えは、僕たちの古いアイテムに新たな価値を与えることなんだ。別の手法を加えることで、その価値を高めることができる。これは金銭的な価値という意味ではなくて、それに何かを加えることで、美的価値が高まるという意味だ。素材は古いOur Legacyの服でもいいし、前のシーズンで使った生地を新しい服に縫い込むというのでもいい。僕たちがやっているのは、自分たちの足跡の管理なんだ。

デザインに象徴的意味を取り入れるのが好きですか。

クリストファー:僕たちはとても古典的な要素を使っていると考えていて、僕の考えでは、それはとても象徴的なものだ。ステレオタイプには、象徴的意味が多く含まれているものだからね。でも、僕たちが方向性を与えてると考える方が好きだな。あるシーズンでアーミー コレクションをやったんだ。主にピンクのミリタリー ジャケットだったんだけど、多分、ピンクはミリタリー ファッションではあまり見ないよね。

ヨックム:これは、僕たちが「ハイブリッド ファッション」と呼んでいるものの活用の仕方のひとつでもあって、例えば伝統織物のような、ごくごく標準的なアイテムを取り上げて、 それを従来とはまったくことなるアイテムに適用するんだ。こうすることで、生地に意外性が生まれる。その逆も同じで、高度に洗練されたデザインで作った独創的な服に、日常的に使われるような普通の生地を使う。僕たちはこういう手法でやることが多い。

クリストファー:春夏コレクションでは、僕たちの関心は「少年の部屋」にあったんだ。デニムをたくさんブリーチしたよ。ミリタリー シャツも縫おうとしたし。

ヨックム:そういうのすべてが少年の部屋だね。そこで大人になるような部屋だ。10歳から17、18歳の間の、家を出て独り立ちできるようになる頃に築くスタイルだ。

クリストファー:それをこのコレクションにも適用したんだ。それに、タイに行くような、初めての旅も加えた。バックパック旅行も念頭にあったからね。僕たちが若い頃、90年代後半は、すごく流行ってた。

それにあなたが関心をもつ理由は何でしょうか。

ヨックム:若い頃は、服に際限なくお金をかけられるほどの予算がないだろ。服にはほんの少ししかお金が使えない。だから、クリエイティブになるしかなかった。両親から服を借りたり、兄弟から借りたり。友だちから服を借りたりね。母親の服を借りて、フェミニンなニットを他の物に合わせて着たりしてた。そうして自分のスタイルが作られ始める。多分、最初は古着屋で買い物したり、軍の放出物資の店で買って自分の着ている服にミリタリー要素を加えたりすることから始まると思う。そういうものをすべて合わせたのが、このコレクション全体でやっていることなんだ。

お二人ともが「90年代に今の自分ができた」と話しているのを何度か読みました。 それは、90年代にあなた方の今日のあり方の土台があるということでしょうか。それとも、今も変わらず当時と同じものに興味があるということでしょうか。

クリストファー: 今になってはっきりと、自分の基礎となっているものが何かわかったんだ。[90年代から]距離を取りたいと思っていた時期もあった。好きじゃなくなった、とてでも言うのかな。でも、ある程度の長い期間それから離れていたら、また戻ってくるんだよ。それが戻ってきたときに、再発見する。自分が歳をとってきて、以前ほどは不安じゃなくなっているせいかもしれない。

Our Legacyを始めたときに、その原点となる場所への帰り道を見つけたのでしょうか。

ヨックム:それは経験と考え方に関係してる。何か強烈な体験をしたことがある場合、それと違うことをしたいなら、それを完全に壊す必要がある。全体像を掴み、それから距離を取ることで、良い要素が復活するんだ。僕たちは自分のために服を作っていたけれど、最初はそれだけでなく、僕たちが望むような資質を持ち合わせながら、それを開花させていない人物というキャラクターも一緒に作り上げた。僕たちはまだ目標に達していなかったから、その架空の人物に服を着せたんだ。

今では成長して、その人になれたと思いますか。

ヨックム:わからない。その人は何か別のものになってしまったのかも。

昔のルックブックを見て、どう思いますか。

クリストファー:『Self Titled』の本と並んで、これなんかが一番面白い気がするな。この「潜入捜査」というアイデアがあって、キーワードは、マネーロンダリングと尾行、つまりは監視だった。それに、スウェーデンの伝統的な卒業記念パーティーで写真を撮って載せたんだ。僕が気に入ってるのは、本の見開きの中に、どれが僕たちの服でどれがそうでないか、はっきりと区別できないページがあるところだ。

自分たちの服が明確にわかるようにしなかったのはなぜですか。

クリストファー:それは単に、実際にはどのように見えるのかを示すためだよ。演出を施したくなかった。ここの見開きなんか、これが僕たちの作ったシャツだと考えた人がいたけれど、実際は違った。これはかなりうまくいったと思う。

「望んだものがそこに欠けているからこそ、本当に欲しいものをはっきりと伝える方法を知った」 。『Self Titled』でこの一文を読んだとき、私は立ち止まってこの文について考え込んでしまいました。この一文について話してもらえますか。あなたが望んだものとは何でしょうか。

ヨックム:ここ12年間でさまざまな段階を経てきて、その過程で多岐に渡るものが僕らには不足していた。最初の頃は、自分たちの資金で経営していて、大手の投資家に金銭面で自分たちのやりたいことを支えてもらっていたわけじゃなかった。だから、創造的自由という面では、好きなことが何でもできた。僕たちにあれしろ、これしろという人はいなかったからね。僕たちが「足りない」と感じた服を作った。僕たち自身が着たかった服だ。それが、僕たちに欠けていたものかな。この考えは、スタイルに関する考え方として常にあった。

本にある写真シリーズのひとつはスウェーデンの故郷で撮影したものだと読みました。それはどこですか。

ヨックム: ヨンショーピングにあるヒュースクバーナで撮影したものだ。写真を撮ったのはミカエル・オルソン(Mikael Olsson)で、彼は傑出した建築写真家だよ。

クリストファー:このコンセプトは、僕たちふたりが良い経験と悪い経験をした場所を見に戻るというものだった。僕たちの街には至るところに教会があって、僕はこの宗教的な精神性が身近な環境で育った。それぞれの写真に物語がある。小川のあるこの写真。ここでは人が殺されたという噂があったから、子どもの頃は、当然、誰もが怖がって近づきたがらなかった。

ヨックム:ホッケーのリンクの写真もある。実は、僕たちが初めて出会ったのは、ヨンショーピングのジュニアチームでホッケーをやっていたときなんだ。

クリストファー: ここのこの写真はエロセンターのものだ。ヒュースクバーナのポルノショップで、滅茶苦茶に荒らされたことがある。経営していた男も襲われて、たくさん殴られた…これはヒュースクバーナの森中を通り抜けている太いパイプで、ここを汚水が流れている。すごく憂鬱な子ども時代だったから、僕たちはあんまり子ども時代を美化しないんだ。

ルックブックを元に実際の本を作り始めるようになったのはなぜですか。

クリストファー: 僕はずっと写真集が好きで、僕たちはファッションショーをしてなかったから、この本が僕たちのコミュニケーションの手段になったんだ。

ヨックム:何か実体のあるモノを作る行為というのは、最初からブランドのDNAの中に存在していたと思う。長持ちする、地球に優しいものが作りたかった。人に受け継がれるようなものを。ショーはほんの短い期間で終わってしまって、その写真が出回るけど、それもあっという間になくなってしまう。

これらの本は販売しているんですよね。つまり、通常ルックブックの冊子は小さなカタログとして無料で配布されますが、これはそうではない。購入する、お金を出すとなると、そこに別の価値を見出しているということだと思います。本として扱うということは、ルックブックを違う視点で見ているということですから。

ヨックム:この本の全体の構想はそこにある。これは服にも言えることだけどね。ちらっと見たら、そのままゴミ箱に捨てて、なくなってしまうようなものは作りたくないんだ。

「ワークショップ」のアイテムは、Our Legacy自体や、ブランドのどのような信念を語るものだと思いますか。

ヨックム: ある部分で予想がつくのは仕方ないとして、それ以外の部分は、もっと予想に反するだったり、全然予想もしていなかった角度に切り込むようなものであってほしい。それが僕たちがやっていることのすべてだと思う。正しいことや、期待されていることだけをやっていたら、つまらないものしかできない。ある時代の間違った要素を取り出して、何か異質なものと組み合わせる。そうやって新しいものを作るんだ。

Felicia Granathは編集者兼ライターで、雑誌『Recens Paper』制作チームの一員であり、Walletの創刊にも携わる

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