モワローラ・オグンレシのすべて
ナイジェリア出身のデザイナーが作る、理想の世界のための服
- インタビュー: Durga Chew-Bose
- 写真: Roxy Lee
- 写真: Tomas Turpie (ランウェイ)

モワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)は、良い意味で、レザーをケチる。今月初め、このナイジェリア生まれのデザイナーは、ロンドンの才能ある若手デザイナーの育成を目的とした非営利プロジェクトの草分け、ファッション イーストの合同ショーで、ロンドン ファッション ウィークにおけるデビューを飾った。そこでのオグンレシのショーは、まさに、めくるめく万華鏡のようなマインド トリップの世界だった。ピッチリとした小さなレザー スカート、カットアウトのトップス、クロップ丈のジャケット、ロングブーツなど、ミニサイズの服のインパクトは絶大だった。Tバックのストラップや骨盤の骨、体のくびれ、乳首、ジッパー、ずり下げられたローライズのレザーパンツ、そして下にほとんど何もつけずに着る刺激的なトレンチコート…、いずれも、無防備なまでに「性」を晒している。そして、どの服も優雅で、思わせぶりで、まるでレザーの幻覚を見ているかのようだ。ターコイズ、脈動するグリーン、イエロー、そして熱を発し、PVCの土っぽいブルーとレッド。色調は力強く、その勢いは止まるところを知らぬかのようだった。オグンレシの手にかかれば、クラシックな白シャツですら、王道を行くものやクラシカルなものは作らないという、自身の名を冠したブランドのコンセプトに見事にはまってしまう。Mowalolaの白いシャツは開け放たれ、ひとつの蝶結びでかろうじて止められているにすぎない。スリットが入ったスリムなシャツは、胸当てのようでもある。楽しい。決して見飽きることのない服だ。意図的にショッキングで、80年代、夜を思わせる。身体にぴったりと張り付いて、肌を見せつけるレザーは、どこか闘争的だ。
ショーの1ヶ月前、この第三世代のデザイナーに話を聞くため、ダルストンにあるオグンレシのスタジオ兼アパートを訪れた。スケプタ(Skepta)やカニエ・ウェスト(Kanye West)もファンとして名を連ねるオグンレシは、修士過程に入って1年経った頃にセントラル・セント・マーチンズ大学を中退している。そんな彼女と、語りかけてくるような服を作ることについて、緊張感や境界、フェラ・クティ(Fela Kuti)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)など、彼女のインスピレーションの源について話した。
ドゥルガー・チュウ=ボース(Durga Chew-Bose)
モワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)
ドゥルガー・チュウ=ボース:家族もファッション関係の仕事をしていたのよね?
モワローラ・オグンレシ: 80年代、ナイジェリアで祖母がウィメンズウェアのブランドを立ち上げて、そこで私の母も働いていたの。ふたりともデザイナーだった。父はメンズウェアをやってた。伝統的なナイジェリアのメンズウェアよ。わが家では、服が本当に大きな位置を占めてたわ。でも子どもの頃は、シーズンやデザイナーみたいなファッションのことは、よく知らなかった。ナイジェリアにいたから、外の世界からは隔絶されてたの。うちにはWi-Fiもなかったし、見てたのはテレビだけ。両親は、本当に素晴らしいものに集中できるようにと、私をイギリスに行かせてくれた。ナイジェリアでは、ファッションはお金をかける価値があるものとは考えられてないし、そのために勉強したり、発展させたり、誰も考えてないから。
今でもそう?
私や私の知る他のナイジェリア人たちが、ファッションでも成功できることを証明してきたから、親たちは、子どもに自ら探求させたらどうなるかっていう、別の可能性を理解するようになってきた。でもナイジェリア人は、子どもの人生がうまく行かないことをとても恐れているから、まだまだこういう成功例が必要よ。お金がすごく重視される社会なの。子どもたちがクリエイティブなことをするようになれば、色んな意味で世界は変わる。私はクリエイティブ産業の中で働いて、この旅路に乗り出せて本当に幸せ。世界がどんな風であってほしいかについて、ますます深く考えるようになったし、私がやろうとしているのは、その世界を、自分の仕事を通して作り上げることなの。



ずっとファッションの仕事をしようと思ってたの?
寄宿学校のあと何を勉強したいのか、自分でもわかってなかった。形成外科医になるのもいいかなと思ってたし。
それは面白い。
全国統一試験(GCSE)を終える頃、私は『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』を見まくってたの。それで、この仕事は本当に面白そう、人を切り刻むのってすごく楽しそう、なんて思ってた。実際、セントラル・セント・マーチンズ大学に基礎を学ぶために行ったときも、専攻はファッションじゃなかった。テキスタイルを選んだのよ。それから、ファッション テキスタイルを学ぶ道へ進んだの。
セントラル・セント・マーチンズ(CSM)はどうだった?
実践的ではなかったわ。自分次第の学校ね。何か求めるものがあるなら、自分で掴まなければならない。そのために努力しなきゃいけなかった。あそこにいたことで、人間として本当に成長したと思う。自分が好きなものが何かわかったし、自分が何を求めているのかもわかった。誰かのために働くのではなく、自分自身のビジョンを追求したいと、自分が思ってることにも気づいた。だから2017年に大学院に入って、[2018年に]やめた。私がやろうとしてることは理解されてなかったから。
どうして?
彼らはちょっと時代遅れすぎたの。指導教員でいえば、多様性にも欠けていたし。皆が白人でイギリス人だった。それか、白人のヨーロッパ人。黒人で教えている人なんてほとんどいなかった。でもね、私はレバという先生に出会ったの。彼女はカルチュラル スタディーズを教えていた。レバ・メイバリー(Reba Maybury)よ。彼女は素晴らしい先生だった。作家で、BDSMみたいなヤバいこともしてた。彼女は、私たちが自問しようとすら思わなかったような問いを、自らに問いかけることを教えてくれた。私は自分が好きなものが何か知っていたけれど、「なぜ」それを好きなのか疑問に思っていなかった。彼女のおかげで、私は少し独りよがりでなくなったわ。

あなたにとって特に重要だった「なぜ」はある? 目が開かれたような、マスターキーみたいな問いは?
あるわ。どんな世界で私は暮らしたいのか、私は何を見たいのか。それがいちばん大切なことだった。自分の求める世界のためにデザインをしているのよ。自分の作る服でどんな風にして世界を変えたいか? 何を伝えようとしてるのか? 私がデザインをするときは、いつでも理由がある。それをうまく言葉にはできないから、服にメッセージを込めるの。
自分の服の受け取られ方についてはどう思う? あなたの意図は伝わってる? あなたにとってそれは重要なこと?
絶対に重要よ。私がなぜこんなことをやっているのか、人々はよく理解してると思うわ。おかしいのが、ナイジェリアの叔母たちに、私のコレクションの話をしていて、メンズウェアにレースを使いたいって話すと、みんな、「なんですって? どういうこと? そんなの変じゃない。男の人はレースなんて着ないんだから」って感じなの。私は彼女たちに、ジェンダーを構成する概念においては、服を制限としてとらえる必要ない、人は何を着たっていいんだっていうことを説明しようとするんだけど、彼女たちは理解しようとしない。でもコレクションを見せると、彼女たちは「わー、とってもいいわね。今ならわかるわ。あなたのメンズウェア、いいと思う」ってなるの。こういう人たちの考えを変えることができるなら、もしかすると、何度も何度も対話しようとするんじゃなくて、服を作ることこそが、変化を起こす方法なのかもしれない。
ファッション イーストについて少し聞かせてくれる?
ちょうど大学院にいたとき、私はCSMではショーをやりなくないんだとわかったの。あそこのプラトフォームが好きじゃなかったのね。私には窮屈すぎて。私を理解してくれる人、もっと自分の波長に近い人と一緒にやる必要があったんだと思う。だから退学して、ファッション イーストに応募したの。そしてルル[・ケネディ](Lulu Kennedy)と出会った。彼女はエネルギー溢れる人よ。[ファッション イーストは]あらゆる面で、とても力になってくれる。すごく親身になってくれるの。彼らにお金を払っているわけでもないのに、みんな私のために本当によく働いてくれる。ファッション イーストがなかったら、今ロンドンで活躍している新しいデザイナーたちは存在しなかったと思う。あのサポートは本当に貴重よ。だってBurberryやCelineみたいなブランドは、今はかなりつまらないから。見てても全然ワクワクしない。今本当にワクワクするのは、AsaiやCharlotte Knowlesだけ。どれもファッション イーストから生まれたブランドよ。魅力的なものは、ここから出ているの。


ファッション イーストでどんな指導を受けているのか教えて。
自分自身のブランドを持つことは素晴らしいけど、考えるほどには利益は上がらない。そして、たくさんの損失を出す。だから、ファッション イーストがとても良いのは、ブランドのセールスに対する考え方や、自分の身を守るには何が必要かを知る手助けをしてくれるところね。学校でもこういうことを教えるべきなのに、ファッションの学校では学ばないことよ。そして、ビジネスだけでなく、ブランドとして、あるいは個人として、自分自身をプロモーションする方法も教えてくれる。
自分自身のプロモーションは得意な方?
プロモーションこそ、私のやりたいことよ(笑)。自分のプロモーションをするのが好きなのは、それが何にも増してインタラクティブなものだから。楽しいわ。コレクションを作るのはすばらしいし、ファッションもすばらしい。でも、私は映画やクレイジーなフォトブックも作りたい。私にはいつでも「これが終わったら」やるべきアイデアがたくさんあって、一刻も早くそのときが来てほしいと思ってる。これはまだ私がちゃんとやる初めてのシーズンにすぎないのよ。
緊張は?
してない。
仕事で緊張したことは?
学部生の最初の頃は、よく緊張してた。Loeweと一緒にプロジェクトをやったときなんか、緊張しすぎて、自分のアイデアを話すことすらできなかった。以前の私だったら絶対無理だった。でも自分のコレクションのおかげで、まったく新しい自信が持てるようになった。自分には何ができるかを知ってるし、自分の価値がどこにあるのかもわかってる。喜んで自分自身について話せるし、自分の考えも述べられる。もう怖くない。

ナイジェリアに帰る頻度がますます減っているということだけど、それはあなたのデザインにどんな影響を与えていると思う? それとも影響はない?
私はこの先もずっとナイジェリア人よ。でもリサーチ面では、特にファッションに関するリサーチについては、変わっていくだろうな。ナイジェリア人が何を着ているか、自分が今後もずっと注視していくとは思わない。私の頭はとてもあちこちに向いてるの。私の考え方はまだナイジェリア風だけど、私がそこから取り上げるものや、注目するものは、その時々によって何でもありうる。あちこち飛び回ってる感じ。音楽の趣味と一緒ね。
仕事中は音楽をかける?
もちろん。でもスピーカーを壊しちゃって、今は辛いわ。パーティーのやりすぎね。だから今はノートパソコンのスピーカー頼りなんだけど、音が全然違う。私は朝起きたらすぐに音楽をつけるタイプなの。それで気分が決まる。私の初コレクションはアフリカのサイケデリックの気分だった。でも、今回のコレクションは、ロックや80年代のエレクトロ ミュージックが中心。ナイン・インチ・ネイルズの「Closer」とか、何回も何回もひたすら聴いていられる。ザ・プロディジー(The Prodigy)の「Smack My Bitch Up」も。こういう音楽の方向性が、今回のコレクションでちょうど私がやっていることなの。カヴィンスキー(Kavinsky)の「Nightcall」しかり。このコレクションは晒さされることがテーマよ。それと危険であること。暴力的だけど、挑発的でもある。
暴力的というのは?
攻撃的ということ。そこから感じるフィーリングというか、エネルギーが、いつでも私の制作の雰囲気になる。私は腹を立てるけど、怒りで自分が消耗することは決してない。怒りは、私が自分のやりたいことをもっとできるよう、後押しする力になる。ファッションの世界では、何もかも腹がたつことだらけ。人の技術やアイデアを真似する人はたくさんいるし。でも、私はそんなこと気にしない。自分のやりたいことのビジョンは再現不可能よ。人は私の頭を持ってるわけじゃないから。人は私がやりたいことを知らないし、私が考えていることだって知らない。だからそういうことに、私は固執しないの。
これまでに見てきた自分のデザインに対する反応で、いちばん良かったのは?
恐ろしい質問ね!私のデザインを着る人は誰でも、同じような体験をするの。自分が強くなった気がするって。男性モデルだって、私がTバックのショーツを穿くように言うと、「うわ、うわ、うわ、こんなのどうしたらいいかわからないよ」って感じなのに、ひとたび服を着ると、全員が写真を撮って、この完全なファンタジーの世界を楽しんでる。

憧れのキャリアを築いているデザイナーは、誰かいる?
グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)。CSMにいたとき、彼女のために働いていたの。インターンから始めて、3年くらい。リサーチの仕事をやっていたのよ。私はいつも、大きな会社で働くより、自分が何かを学びたいと思う人と仕事をするようにしてる。彼女のおかげで、コレクションの制作は服だけじゃなく、服に関わる物語全体なのだとわかった。彼女からはたくさんのことを学んで、それを私は自分なりのやり方で実行に移してきたの。彼女の場合は、もっと詩だったり読書だったりするのが、私の場合は、音楽やアーティストや、私が本当にワクワクするような人たちなの。たとえば、フェラ・クティ(Fela Kuti)やパーラメント(Parliament)、プリンス(Prince)、アンドレ・3000(Andre 3000)やジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)。
彼ら全員があなたのデザインした服を着てる姿が思い浮かぶようね。
でしょ! アンドレ・3000と撮影できる日を心待ちにしてるの。夢のコラボレーションよ。
誰かがあなたのデザインを着ることを、あなたはコラボレーションって呼ぶのね。
そう! 現にそうだもの! その人の中に、何か本当に私を感動させるものがあれは、それはもう結婚よ。自分がインスピレーションを感じない人とは、これ以上コラボレーションはしないつもり。
インスピレーションを感じない人があなたのデザインを着ているときは、どんな気持ち?
何も感じない。誰かと仕事をしていて、それがれっきとしたコラボレーションになるときが、いちばんの喜び。ときどきスタイリストが私の服を使うのだけど、それは私が求めていることじゃない。スタイリストの美学は私の美学じゃないから。ミュージシャンたちと一緒に仕事をしたり、本当にイケてる考え方の人と一緒に仕事をしたりする方が、私はずっと幸せよ。本当に一緒に何か新しいものを作り上げてるっていう感じがするから。自分のストーリーがどのように語られているかを自分でコントロールするのは、すごく大切なの。私は自分の服を誰彼かまわず着せるようなことはしない。雑誌に載ることは、そんなに気にならないけど。グレースから学んだの。本当に仕事は選ばないといけないって。自分の服は自分の作品であり、自分の赤ん坊なのよ。誰彼かまわず渡していいわけがない。特別なの。何もかもが、あらゆる人のためである必要はないわ。
Durga Chew-BoseはSSENSEの副編集長である
- インタビュー: Durga Chew-Bose
- 写真: Roxy Lee
- 写真: Tomas Turpie (ランウェイ)
- ヘア&メイクアップ: Daniel Sallstrom