見て、触って、感じる
Chopova Lowena

2人組デザイナーの手から生まれる至高のスカート

  • 文: Naomi Skwarna
  • ペーパー アート: Nell Jocelyn Slaughter

手の込んだディテールで手作りされるChopova Lowenaの服に、ふたつと同じものはありません。そんなデザインに敬意を評し、ニューヨーク シティで活動するペーパー アーティストのネル・ジョスリン・スローター(Nell Jocelyn Slaughter)に、Chopova Lowena 2021年春夏コレクションの紙によるリメイクを依頼しました。

着る前にしばらく手にとってみなきゃいけない服、動物や鉱物のレベルで理解しなきゃいけない服がある。なるべく面倒を避けるために、毎朝するりと穿いてしまうパープルのスウェットパンツは、この範疇に入らない。だが、少しばかり怠惰に降伏してしまったのは、私だけじゃない。2020年は市場におけるスウェットパンツの売上げ比率が大幅に上昇し、各ブランドがありとあらゆる種類の没個性なパンツを売り出した結果、膨大な選択肢があるかのような幻想が出来上がった。着てしまえばまったく目を引かず、体と一緒に消えてしまうデザインのせいで、私たちは自分の目にも見えなくなる。この自覚がグッと私に突き刺さるのは、英国に登場したChopova LowenaIのルックブックをクリックしていくときだ。このプリーツのスカートを手に持ったら、どんな感じだろう? 体の上でドレスの重みを調節するのは、どんな感じだろう? これがハンドメイドの途轍もないデザイン、見て感じなきゃいけない服の神秘的な引力なのかもしれない。

画像のアイテム:ドレス(Chopova Lowena)

Chopova Lowenaはふたりのデザイナー、エマ・チョポヴァ(Emma Chopova)とローラ・ロウェナ(Laura Lowena)が立ち上げたブランドだ。セントラル セント マーチンズ校で共同修士号を目指していた2017年のことだが、以来5つのコレクションを発表し、間もなく6番目のコレクションも予定されている。キャンペーンには英国のアクロバット乗馬チームが出演し、LVMH プライズで初の共同受賞者となり、『Vogue』では上半身裸のハリー・スタイルズ(Harry Styles)がスカートを穿き、『The Wall Street Journal』ではミカエラ・コール(Michaela Coel)がドレスを着るという活躍ぶりだ。ブルガリア生まれのチョポヴァは家族と共に7歳でアメリカへ移住し、セントラル セント マーチンズ校学士過程の初日に英国人のロウェナと出会い、熱烈なスカート愛でたちまち意気投合した。登校1日目にスカートが縁結びになるのも、ファッション校なればこそ。ふたりのコラボレーションは、体の中心で東欧のビンテージとスポーツウェアのスタイルを合体させる。デザインにはスカートが欠かせないばかりか、ひとつの現象ともなった。『ビッグ・リボウスキ』のデュードの名セリフではないが、スカートで独自の斬新なスタイルが見事にキマる。

いや、「スカート」という呼び名は控え目すぎる。Chopova Lowenaのスカートは、スカートというカテゴリーの頂点に位置する。私がこれまでに見た中で最上級のスカートだ。ショートもあれば、ロングもある。フレアもあるし、ペチコートみたいに膨らんだのもある。巻きつけるタイプだったり、バックル留めだったりする。ビエネッタのアイスケーキの天辺みたいに、襞が幾重にも折り畳まれていることもある。だがどのシルエットも、控え目とは言い難い。床に並べたら、上空から見下ろしたオランダのチューリップ畑みたいに見えるんじゃないだろうか。数個のメタルのカラビナで手なずけ、ウエストに巻き付けたレザーのベルトで手綱を引くスカート。格子柄とウールの万華鏡のようなキルト。だが頭に思い浮かぶのは、スコットランドのキルトよりもっと歴史を遡るバルカン半島のフスタネーラだ。当時は、男も女も、何重にも生地をプリーツした暖かい巻きスカート様の服にエプロンをつけていた。昨年チョポヴァが『Vogue』に語った説明によると、「私たちが作るスカートは、女性の体は冷やすなという東欧の古い言い伝えが基本」だそうだ。

ヨーロッパの職人、お針子、それにチョポヴァとロウェナ自身による手作りの過程は、あくまで緻密だ。2021年春夏コレクションで発表する144点の多くは、ロンドンのそれぞれのアパートで縫った。家族がキャバリア キングチャールズ スパニエルのブリーダーというロウェナの場合は、ボストン テリアの愛犬アイーダが作業監督だ。「このドレスは、4~5回ほどいては縫い直したと思う」とロウェナは言う。「しっくりこないまま続けるわけにはいかないから」。チョポヴァにとっては、そういう縫製の作業こそ、高級ファッションの最高度の表現にほかならない。イギリスのビンテージの布巾から何千個ものブルガリア製ビーズに至るまで、パッチワークとテキスタイルの綿密な組み合わせと素材のバランスを完成していくプロセスだ。「ビーズ織りとか、昔ながらのテクニックも使ってるのよ。おばあちゃんにやり方を教わった女性がいて、どのネックレスも、細い針でビーズをすくいながら作っていく。すごく贅沢だと思うわ」とチョポヴァは言う。

画像のアイテム:シャツ(Chopova Lowena)

画像のアイテム:スカート(Chopova Lowena)

当然のことながら、ある人が贅沢するには別の人が労働しなくてはならない。サステナブルなファッションは現在ようやく広まりつつあるが、Chopova Lowenaのデザインは最初からサステナビリティに根差していた。具体的には、素材には売れ残り在庫やビンテージを調達し、ファブリックの繊維に至るまで再利用する。Patagoniaなどのブランドは以前から繊維廃棄物を再利用しているが、ファッション業界主流ではまだ比較的新しい取り組みだ。ラグジュアリー ブランドは言うまでもない。Chopova Lowenaの作業過程には、コンセプトから作品の完成まで、廃棄物の減少と環境維持の姿勢が一貫している。一役買っているのが、引退して2017年にブルガリアへ戻ったチョポヴァの両親だ。陣頭指揮を執るのは潔癖なまでのこだわりを持つチョポヴァの母、イオランタ(Iolanta)。現地でビンテージを厳選し、買い取り、清潔な状態にするのを手伝ってくれる。「点検、繕い、刺繍、漂白、みんな母がやる。完璧主義者なのよ」

10代の頃には競技用に犬を訓練していたというロウェナは、デザインにスポーツの要素を注入する。ただし、斜に構えるでも生真面目になるでもなく、「毎シーズン、どこかに犬を潜り込ませるの」。肉体がぶつかり合うスポーツとナイロン製の装具も大好きだが、デザインに反映されているのはロック クライミングやローラー ゲームだ。ロウェナとチョポヴァが最初に刺激されたイメージのひとつは、1980年代にロック クライミングと登山で名を馳せたフランス女性カトリーヌ・デスティヴェル(Catherine Destivelle)の写真だ。この写真のデスティヴェルは、光沢のあるピンクのスパンデックス水着を着て、レッドのハーネスを穿き、ベルトからカラビナをぶらさげている。バンジー コードとハーネスは逞しく、セクシーで、思わせぶりでさえある。

一方で、Chopova Lowenaは時を遡るブランドの先駆けだ。ブルガリアの村の職人、打ち捨てられた生地の在庫、今や人々の手にしか残っていない伝承へ回帰する。過去を引用するように、幅広のピューリタン カラーやスモックの胴着などの古めかしいフォルムを使い、アバンギャルドなテクスチャや色使いと混ぜ合わせる。Chopova Lowenaの作品はすべて、アイデアと具象化の記録であり、過去と現在と未来の合成だ。自覚のないままに着たり、誕生の過程を無視したりできるデザインは、ひとつとしてない。

今年、心地よい柔らかさに引きこもったのは私だけじゃないはずだ。だが、垂直の岸壁にはりつき、目標地点を見据えたデスティヴェルの写真を見ると、おとなしくない服や活動へと気持ちが揺れる。私たちが考えている以上に私たちと着るものは同義だし、Chopova Lowenaのビジョンはかつてなく引力のある理想だ。私に単独登山ができるとは思わないし、パーティーに出かける自由はもっとありそうにない。だけど、30個あまりのカラビナに包囲されたプリーツのショートスカートを穿いたら、その両方をやれそうな気がするかもしれない。今の私に必要なのは、そんな気分になることだ。

Naomi Skwarnaは、カナダのトロントを拠点とする

  • 文: Naomi Skwarna
  • ペーパー アート: Nell Jocelyn Slaughter
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: December 22, 2020