ユーザー体験:Eckhaus Latta ロサンゼルス店

コミュニティ精神から生まれた店舗空間

  • 文: Fiona Duncan
  • 写真: Christian Werner

キャンバスに塗られた油絵の具が、どんな写真技術をもってしても捕えられない光を放つ限り、美術館やギャラリーへ足を運ぶ人は絶えないだろう。実店舗やオンラインでのショッピングについても、同じことが言える。磁器、アンゴラ毛糸、アクリル樹脂、花弁、紙などの外観と触感…物質には、他のものに置き変えられない体験が伴う。東西両海岸を本拠地とするアメリカ人デザイナー デュオEckhaus Lattaのロサンゼルス店には、この感覚が活かされている。

Eckhaus Lattaがオープンしている唯一の店舗は、コレクションと同じく、写真写りが良い。だが、常連が足を運ぶ理由は、生態系を彷彿とさせる内部のテクスチャだ。床に張ったクレイ タイルは、アグネス・マーティン(Agnes Martin)の作品のように、さまざまな表情を見せる。細い窓格子は、白い壁に沿って魚鱗のような影を投げる。ピンクのプロメテウスを思わせるマシュー・ラッツ・カノイ(Matthew Lutz Kinoy)のフェルト絵画は、ロサンゼルスの砂漠に訪れる夕暮れのようだ。商品を並べる2つの銅製ラックには、結晶を模した重しが付いている。大振りなアメジストのように見えるが、実は、ゾーイ(ラッタ / Zoe Latta)のフィアンセであるライリー・オニール(Riley O'Neill)が作った彩色コンクリートだ。そして、地元の植物が溢れている。月に1度か2度、花屋「Isa Isa」のソフィア・モレノ=ブンゲが持ち込んでくるアリウム、アンスリウム、ストレチア、柑橘の実がついた枝、キツネユリ、モクレン、実をつけたイチジクの枝、ポピー、スモーク ツリー…。野生のままに自由な姿で配置された植物群は、時として厳粛であり、淫らでさえある。Eckhaus Lattaでは、モレノ=ブンゲは自由に試すことを奨励される。

それが、仲間に対するマイク・エコーズ(Mike Eckhaus)とゾーイ・ラッタ(Zoe Latta)の流儀でもある。ひとたび仲間に招じ入れたら、その後は放任。まったく干渉しない。本のサプライヤーとして私も体験済みだから、よく知っている。実は私は地元にあるスタンダード ホテルを会場にして、読書を振興するイベント『Hard to Read』を主催しているのだが、その流れでいわば普及版の『Ready-to-read』をEckhaus Lattaで販売するようになった。Eckhaus Latta店へ持って行く本のコレクションは、ファッション界のシーズンに合わせ、テーマを決めて選ぶ。2017年プレ フォール シーズンに合わせて最初のコレクションを持って行った。クチュール用には、美術書のコレクションを予定している。これまでのところ、Eckhaus Latta店でのベストセラーは、オクテイヴィア・バトラー(Octavia Butler)の『Parable of the Sower』、ゲイリー・インディアナ(Gary Indiana)の『Three-Month Fever』、そしてEckhaus Lattaのモデルを務めることも多い ジュリアナ・ハクスタブル(Juliana Huxtable)の『Mucus in my Pineal Gland』。本はイベントを開催する口実になる。いちばん最近のイベントは、Eckhaus Lattasが今シーズンにキュレーションを担当した『A Magazine』の発売記念だった。現在も、素晴らしく風刺的な『Buffalo Zine』、アカデミックな『Vestoj』、未来的な『Novembre』など、その他の出版物と並んで『A Magazine』が店内に積まれている。

これからショップへ行ってみようという人のために言っておくと、Eckhaus Latta店は、最近、イースト ハリウッドのリトル アルメニアから約8キロの場所へ移転した。もとは医療用マリフアナ薬局だったスペースを、エコーズ、ラッタ、そしてふたりが信頼する建築家エマ・プライス(Emma Price)が、日光降り注ぐアパレルの洞窟に作り変えた。住宅街に通じる多数の道路と垂直に走る静かな大通りウェスト ワシントン ブルバードでは、近隣の地区と同様、店舗の看板は控えめだ。複雑な幾何学模様のある白い正面、上にかろうじて「UPHOLSTERY」と読める剥げかかった看板があったら、そこが目指す場所だ。『Vibe Compression』と名付けられたこのファサードは、アーティストのカイタノ・フェラー(Cayetano Ferrer)が特別にこの場所のために制作したインスタレーションであり、Eckhaus Lattaの前に物件を賃借していたマイケル・ティボー ギャラリーの名残である。

窓枠を手塗りしたショー ウィンドウの横に呼び鈴がある。すでに来店した人がいない場合は、呼び鈴を鳴らすと、スタッフのひとりが厚いカーテンの向こうから現われて店内に入れてくれる。ちなみに、スタッフは全員女性だ。カーテンの向こう側は仕事用のスタジオで、積み上げた糸、編み機、ミシン、いくつかの机、過去シーズンのアーカイブが収まっている。Eckhaus Lattaのニットはスタジオで生産され、世界中へ出荷される。あるいは何歩か運ばれて、店内の銅製レールに吊るされる。オンライン ショップでもここ以外のどこでも販売されていない製品が店内にはたくさんあるが、それらに挟まれて、Come Tees、スーザン・チャンチオロ(Susan Cianciolo)、ブレンダン・ファウラー(Brendan Fowler)のElection Reform!、その他、数多くのアート作品のようなウェアが置かれている。ゾーイの家族とコラボレーションしたジュエリーがアクリル樹脂のチューブの中に並び、店内のそこかしこにCamperとEckhaus Lattaがコラボレーションしたフットウェアが陳列されている。全員、Eckhaus Lattaのモノに対する感性を共有するデザイナーばかりだ。こじんまりとしてディテールが詰まったこの店舗は、アート作品としても訪れる価値がある。支払いカウンターは、肉質な粘液のように仕上げられ、緑のチューブ状の試着室は植物の子宮を思わせる。ただ、ここでは、触ったり試着することができる。そうすることが奨励されている。Eckhaus Lattaのウェアは、着られることで生命を宿す。

あまりにL.A.的ではあるが、駐車が楽なのも嬉しいことのひとつだ。以前の店舗は矢車草のようなブルーに塗られたサイエントロジー教会と、自己実現を目指すセルフ リアリゼーション フェローシップ寺院の近所だったが、今度の場所は崇拝の対象が異なり、歩いて行ける距離にオチ プロジェクツ(Ochi Projects)、シュート ザ ロブスター(Shoot the Lobster)、クリスティーナ カイト(Kristina Kite)という3つの素晴らしいアート ギャラリーがある。Eckhaus Lattaの仲間たちの作品を展示している、カーマ インターナショナル(Karma International)も近い。私のお気に入りは、ノア・デイビスとキャロン・デイビスというふたりのアーティストが作った、アンダーグラウンド ミュージアム(Underground Museum)だ。 裏側には庭があり、講演会や映写会を定期的に開催し、非常に充実した本屋まである。アンダーグラウンド ミュージアムも、Eckhaus Latta店と同じく、人々が集う場所だ。

Eckhaus Lattaは、アート ギャラリーでランウェイ ショーを開催したりビジュアル アーティストとコラボレーションするなど、いつもアート界と関係しながら制作を続けてきた。テキスタイルに絵画をプリントするし、逆にキュレーターもEckhaus Lattaの作品を収集する。ロサンゼルス店舗にはそんなアートとの繋がりが反映されている。そして、友人や家族にモデルを依頼する形であれ、自分たちのスペースを独立デザイナーと共有する形であれ、 Eckhaus Lattaが育てているコミュニティこそ、もっとも大きく非凡な魅力のひとつだ。同時に、成功に欠かせない要素でもある。6年の長きにわたってEckhaus Lattaが独創性を維持できているのは、多分に、身近なモノ(収集したビンテージのファブリック)と人(ビャーネ・メルガード(Bjarne Melgaard)を始めとするアーティスト)を大切してきたおかげだ。ゾーイ・ラッタによると、広範なクリエイティブ コミュニティの友人や家族が毎日少なくとも5人は店にやってくる。そこから、躍動的な集合エネルギーが生まれる。店内で垣間見るEckhaus Lattaの世界では、モノをアートに変えるのと同じ尊敬と心遣いが人間関係にも生きている。

Fiona Duncanは、カナダ系米国人のライター。ロサンゼルスを本拠地として、書籍の販売とイベントの組織も手がける

  • 文: Fiona Duncan
  • 写真: Christian Werner