君が夢見るスニーカーは?

9人のクリエイティブがデザインした理想のスニーカー

    夢占いのサイトdreammoods.comによれば、夢に出てくる足は「基盤、安定、理解」を象徴している。足は自信と自立を表す、とも説明されている。だから私たちは、履くものに関してあれこれ好みがうるさいのだ。羽根のように軽くて足にぴったりフィットするフライニット、ヴェイパーマックスのソールが発揮する柔軟な弾性、透明なゼリーがこんもりと盛り上がったようなOzweegoのディテール。とにかく足がイイ感じなら、体も調子が良い。だが、本当に「ピッタリくる」スニーカーを見つけるのは難しい。不可能でさえある。そこで、SSENSEスニーカー ウィークの第一弾となるこのエディトリアルでは、業界で活躍するライター9人に、夢のスニーカーをデザインしてもらった。思い通りの夢は見られないかもしれないが、少なくとも理想のスニーカーなら、多少は思い通りにできるから。

    アレイリ・メイ

    私の夢のスニーカーは、『宇宙家族ジェットソン』や『バック トゥ ザ フューチャー』の世界に近い。月面の岩や溶岩の上を歩けて、宇宙空間だって跳躍できて、『アイアンマン』と同じように銀色のシールドを張り巡らすボタンもついてる。色は、絶対、スペース グレー。ほのかにライト ブルーとウルトラ バイオレットがかったスペース グレーだけど、灼熱の溶岩の上では、カメレオンみたいにレッドかオレンジへと変わる。足首にストラップを巻くデザインのハイ トップで、ブーツに負けないくらいヘビーだけど、ソールは Nikeのバブルソールで、踵のうしろに「A」って書いてあるの。

    Aleali Mayはロサンゼルス出身のデザイナー兼モデル兼スタイリスト。Louis VuittonやNike、 Virgil Abloh等とコラボレーションを行っている


    サナム・シンディ

    20代の初め、私はウェブカムの前でいろいろポーズをとって見せる通称「カムガール」とSMプレーのS役をやってた時期がある。クライアントの中で一番カワイイのは、いつだって、足フェチの人たちだった。私をサロンへ連れて行って、私がペディキュアをしてもらっている間じっと車で待って、最後にペディキュア代を払ってくれるだけの男性もいた。パピー プレーが好きだった男性は、子犬みたいにキャンキャン吠えて、私が履いている靴底を舐めた。特に懐かしいのは、私が履いているところを見るためにだけ、靴を買ってくれた人。私は彼が買ってくれた靴を履いて、私のアパートの部屋を歩き回り、いろんなものを踏みつけるのをスカイプで見せるだけでよかった。そういったフェチと、ストリートウェア派のスニーカーに対する思い入れには、重なる部分があるってずっと思ってた。特に、スニーカーを履いてる綺麗な女の子に欲情するタイプのフェティシズム。「ナイキ トーク」みたいなフォーラムで、Jordanを履いた裸のポルノ女優や、野球帽を後ろ向きにかぶって、シューレースで作ったビキニを着て、箱から出したばかりのSB Dunkのソールを舐めてる女の子の写真が、男たちの垂涎の的だったのを覚えている。そういうふたつの別世界はどちらも、完璧に、私の二元性を指していると思った。だから、SMプレーや足フェチで現れた公然たる女性としてのセクシュアリティと、スニーカーやメンズウェアへの執着として現れる手強い男性としての要素が、私のいちばん現実離れしたファンタジーで混じり合うのは至極当然かもしれない。その私のいちばん現実離れしたファンタジーとは、食べられる、スティレット ヒールの、Nike エアマックス97。こうやって書いているだけで馬鹿げた気がするけど、ジェンダーに収まりきらない私の魂の底からつかみ出した真実の気もする。そんな珍妙なものを何で作るのか、どんな味にするのか...そこのところはほとんど考えなかったけど、想像するに、素材はどれもすごく高くつくと思う。もちろん、オーガニックだし。甘みのある細いバーミセリ パスタを金箔で巻いてシューレース、パッション フルーツのブリトル ケーキでソール、とか? 確かなのは、足とフットウェアを愛する人にとっては、まるでミシュラン級レストランのディナーと同じくらい豪勢な一品になるってこと。スニーカーとしては、って意味だけど。機能的で、食べられて、美しい。この素晴らしいスニーカーは、私が愛してやまないカルチャー、フード、スニーカー、足、セックスに捧げるオマージュ。

    Sanam Sindhiはロサンゼルスを拠点に活動するブランド コンサルタント兼クリエティブ ディレクターである


    ジュリー・ゼルボ

    普段スニーカーを履くことはあまりないけど、履くときはいつもCelineのプリムソール トレイナー。実用的で、従来のスニーカーみたいに面倒臭くないのが好みなの。つまり、大仰でみっともないトレンドの正反対。これ、本当の話よ。一目でどのファッション シーズンのモデルかわかる靴は、好きじゃない。あまりに流行を追った靴には、しらけてしまう。夏以外、たいていブラックの服で通すから、組合わせやすい濃いめのカラーがいいな。

    Julie Zerboは弁護士であり、第一線の法律、ビジネスおよびカルチャー関連のニュースや分析を発信するメディア、TFLの創設者兼編集長である


    ファリハ・ロイジン

    どんな気分のときでも履ける、それが完璧なスニーカー。強靭な筋繊維が発達した、甲殻類のお腹の部分みたいなボトムが、みずみずしい桃みたいに張りのあるファブリックのアッパーを、やさしく包み込む。見た目も、桃みたいに可愛い。褪せてくると珊瑚を思わせるカラー、素朴な感じのブラウンに近くなる。だけど、シャンペンほど淡くはなくて、Acneのジャケットみたいなダスティ ピンク。頑丈なソールはプラットフォームのような安定性があるから、マラソンでもロデオでも平気。サンタフェのあたりを歩くのだって、それを言うなら、そのまま砂漠を突っ切ってデス バレーまで行ける。具をたっぷり挟んだサンドイッチをつぶしたみたいに分厚いから、太くて短い脚だろうが細くて長い脚だろうが、実際よりもっと長く見える。つまり、この靴を履けば、どんな体形の人でも必ず素敵に見えるということ。ソールのカラーはライムみたいなグリーン、スライムみたいなグリーン、日の光の中ではほとんど透明になる幻覚サボテンのグリーン。シューレースはグレー、スチールみたいなペール グレー、褪せた感じのマットなシルバー。それが全体をキュっと締めて、調和のあるフィットしたスニーカーの出来上がり。

    Fariha Róisínはニューヨーク在住のライターである


    アヴァ・ニルイ

    私の夢のスニーカーは、スタンダードなホワイトのNike AF1。だけど、足元を照らすLEDライトのパネル付き。おまけにケブラー繊維でライニングしてあるから、しっかり足を守ってくれる。踵にはスピードを出せるロケット ブースターだけじゃなく、接触と危険を回避するフォース フィールド テクノロジーが搭載されている。アイレットの一つずつに超小型のCCTVカメラがインストールされていて、日記代わりに、毎日がビジュアルに記録される。撮影した動画は、ソールに内蔵したwifiルーターを通して、サーバーへアップロード。映画『ゲット スマート』に出てくるみたいに、ソールには電話も隠されているから、連絡できずに困ることにない。

    Ava Niruiはニューヨークを拠点に活躍するHelmut Langのデジタル ソーシャル エディターである


    メラニー・サンチェス

    私が最初に自己表現に目覚めた記憶のひとつは、ハイスクール時代に遡る。当時13歳だった私と友達のあいだでは、バックルがLEDスクリーンになったベルトが流行りつつあった。私はそのベルトが欲しかったけど、本当に欲しかったのは、伝えるべき何かだった。ウエストのスクリーンで自分を表現するとしたら、私全体をもっとも端的に表現する、簡潔な語句を探さなくてはならなかった。私の夢のスニーカーは、それと同じように、スウッシュか、そうでなかったら爪先の部分にLEDスクリーンがあって、プログラミングした言葉や文字や数字を伝えることができる。スニーカーをきっかけに「なぜ?」を問いかける対話が始まればいいと思う。スニーカーのスクリーンに掲示された、ちょっとした字句がそのきっかけを作るんじゃないかな。後続バージョンは、全体がパネルで、どんなコンテンツだってフィードできるスクリーン機能を備える。ランニングシューズの上で、ひいては足の上で、例えば全速力で疾走するチータの動画が流れるわけ。

    Mellany Sanchezはイメージおよびブランディングのディレクションを行うニューヨーカー。Nike、KITH、aidasなどでスポーツウェアおよびフットウェアのプロジェクトを手がけている


    メアリー・H・K・チョイ

    スニーカーのデザインを支配しているのは、お祭り騒ぎ、肥大した馬鹿馬鹿しさだ。あまりにも大げさで、あまりにもフェルナンド・ボテロ風に膨満している。どんな社会経済が背景であれ、市場の捕虜にとられたアーティストやデザイナーが心の叫びをふり絞り、踏んだり蹴ったりの切なる願いを分裂の溝を埋めるというベター エンジェルに捧げていることが、あまりにも明白だ。ただし、2018年は違う。私たちには、もっと分別がある。 YeezyのWave Runnerは、まったく抗議を表明してはいない。RafのOzweegoも、また然り。だから、すべての醜悪は陽気な反抗であると理解して、その線で話を進めよう。

    ということで、私が夢見るスニーカーには、マニキュアを何百回もコーティングするトレンドを採用する。ただ塗る、それだけが目的。Moncler Geniusと、踵がはみ出たサンダル履きに対するカニエ(Kanye)の対応が重なり合うどこか、と思ってもらえればいい。私はリッチじゃないけど、リッチなふりをするので、カラーはホワイトでなくてはいけない。そして、ロー トップのタイプがいいわ。爪先は、蹄みたいに割れていること。なぜなら、RiftもMargielaのタビもそうだから。そうなると、ストラップが純粋に飾りの場合、サイドのホックとベルクロ式のストラップが必要になる。だが、私たちはシロウトじゃないんだから、イニシャルを戴いたジッパーは、ちゃんとジッパーの役割を果たしていなくちゃいけない。すべてが奇妙にスペイン風な、あるいはCamperのコラボ製品と似たものへ退化しないように、開いた部分にわずかな本数のバンジー コードを交差にかけ渡す。まったく使いものになりそうもない靴だ。足だって入りそうにない。ヒールは電球の玉みたいに膨らんでいるが、空気力学を採り入れた、れっきとしたフラットフォーム。MarsèllのCiambellonaを思い浮かべてほしい。この靴の値段は、あなたの年収より高い。「これ、何?」なんて尋ねようものなら、即座に値段が跳ね上がる。Totokaeloで売ってるという噂だったが、デマだった。深夜12時を過ぎたときに、急いで「デムナ、デムナ、デムナ」と3回唱えれば、Instagramで、あなたの名前の横に本物を示すブルーのチェックマークが現れるかもしれない。

    Mary H.K. Choiはベストセラー『Emergency Contact』の著者。『 Marvel』、『The New York Times』、『The Atlantic』、『GQ』、『Wired』等でも執筆を行なっている


    キャロル・リン・ファン・デン・ブロム

    私はハイヒールを履くと眩暈がするから、ソールはかつてのスパイス ガール並みにしっかりと分厚いタイプ。小柄だから、ちょっと背丈が伸びるのも重要なポイント。サテンのシューレースは女性らしいし、ともかくサテンの艶が好き。Ozweegoみたいな感じがいいんだけど、Ozweegoには小さいサイズがない。ちゃんと小さいサイズも提供するべきだと思う。ブーツっぽいスニーカーにして、ドレスと合わせる。スニーカー ブーツとドレス、絶対キマる。

    Caroll Lynn van den Bromはアムステルダムを拠点に活躍するスニーカーのイラストレーター兼デザイナーである


    アラベル・シカルディ

    私が大好きだったスニーカーの最初の一足は、キャップに書いてある景品が貰える、ボトル入りコカ コーラのキャンペーンで、運良く手に入れた、純白のNikeジョーダン。ハイスクールの生徒だった私は、「フット ロッカー」へ行って景品を受け取ったとき、大きな満足感に満たされたことを覚えている。ジョージ・クルーニー(George Clooney)演じる詐欺師が最初の強盗を見事やりおおせたときもかくや、の気分だ。その前は、くじ引きで何かを当てたことは一度もなかった。その後は、バスルームの床に座り、湿ったスポンジで大切な大切なスニーカーの汚れを落とす週末を幾度も過ごした。両親は、引退する前は揃ってファッションのデザイナー兼バイヤーであったにもかかわらず、安物の靴専門店 「ペイレス」がご贔屓で、二つ返事でNikeのスニーカーを買ってくれるはずもなかったから。子供時代に熱烈に憧れた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』モデルは、おそらく決して手に入らないだろうけど、以来、私はずっとAF1のハイトップを愛用している。

    夢のスニーカーを特注できるとしたら、とにかく、実用優先。ドアに向かうまでに、片足ずつ、片手だけで、2秒で履ける。全体がブラック。マットなファブリックで、今持ってる足袋型スニーカーみたいに、先が割れたラバーソール。応答性クッション エンジニアリングの採用で、自然に姿勢が少し前傾になるから、ほかの靴より速く歩ける。これってヴェイパーマックス テクノロジーとも呼ばれてるから、基本的に、Nikeシューズを説明してるだけ。 だとしても、Nikeの最新のキャンペーンとデザインは気に入ってるから、一向に構わない。アッパーは縫い目がなくて、サイドで保護レイヤー付きのジッパーを開閉するタイプなので、着脱が簡単。なにしろ、未来のデザインは履きやすさの一語に尽きる。さもないと、時間を浪費するだけだ。素材はメッシュ、またはレザー。ファブリックはなし。12歳のときと同じ愛情を込めて汚れを落とし続けるなんて、もう二度とやる気はしない。それに、私はこだわりの人だから、太陽エネルギーで光るスニーカーを希望する。そうすれば、光速で走ってるつもりになれるし、理論的には光速で走ることも不可能ってわけじゃないんだから。永遠に12歳のままの私は、いつまで経っても、子供用の光る靴が羨ましくて仕方がない。もうひとつ、製造過程はちゃんと透明性が確保されていて、エシカルな製品であること。だって、夢のシューズ、っていう質問だったよね?

    Arabelle Sicardiは美容とファッションを扱うフリーランス ライターで、『TeenVOGUE』、『ELLE』、『Allure』、『NYLON』、『i-D』およびSSENSEで執筆している


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    • 文: Aleali Mayn、Sanam Sindhi、Julie Zerbo、Fariha Roisin、Ava Nirui、Mellany Sanchez、Mary HK Choi、Caroll Lynn、Arabelle Siccardi