キャンプする現代人の意識
自然擁護のスタイル、ブランドものの用具、作為的な労苦
- 文: Ana Cecilia Alvarez
- 写真: TORSO

素晴らしいものと見なされる以前の野外は、少なくとも入植者にとっては、征服すべき混沌たる脅威だった。だが産業化が進行した21世紀の都会人にとって、自然とは、現代社会の内側に人を縛りつける快適性を反故にする解毒剤だ。人類がようやく回避することに成功した苦難をわざわざ体験するために、多大な努力を傾けて新たな方法が見出された。単なる贅沢とは別種の、新たなテクノロジーが開発された。そうやって勘違いの茶番にあらゆる業界が一役買った結果—と、私はハイキングしながら考えた—、どういうものか、野外でのままごと遊びは興味をそそるものになった。私の頭の中で、スーザン・ソンタグ(Susan Sontag)がキャンプの定義を列挙する。すなわち「策略、軽薄、中流の無邪気な気取り、衝撃的なまでの余剰」
初心者の場合、バックパックを背負って出かけることの魅力は、説明するまでもない。脳内エンドルフィン全開で多幸感に刺激された肉体活動、苦労して辿りついた高みから見晴らす素晴らしい眺望、社会や日常からの隔絶、静けさ…。食料、水、安全なシェルターという必要最低限のニーズを繰り返し満たす以外、なすべき仕事はない。思索の時間はたっぷりある。だが、遮るものもなく延々と伸びるトレイルを歩きつつ、徒然に思いを巡らせ、シエラネバダ山脈に15キロあまり踏み入ったところで、それが笑えるほど理不尽な行為であることに、私ははたと思い至った。重い食料と水分を背負って、上り下りを繰り返すトレイルを何マイルも持ち運ぶ。そういう厳しい身体活動に喜びを見出す。ここまではわかる。懸命に努力して達成するマゾヒズムすれすれの偉業には、しばしば、一種の高揚が伴うものだから。だが、少なくともここ1世紀前の「自然界」に安らぎを求める行為は、逆説的な皮肉としか言いようがない。

モデル着用アイテム:T シャツ(Mugler)、ジャケット(Mugler)、ジーンズ(Mugler)、ピアス(Gucci)

モデル着用アイテム:タートルネック(R13)、レギンス(R13)、コート(Junya Watanabe)、ブーツ(Miu Miu)
壮大なる野外を愛するものは、用具を愛する。正確には、高価な用具を愛する。本気でバックパックの荷造りを始めたとき、私が最初に思い知らされたことのひとつだ。まずは、以下を買い揃える必要がある。
− 適切なハイキング ブーツ
− 保温性と通気性を備えた衣類
− 日焼け止め
− 厚い靴下
− 雨具
− 軽量のジャケット
− 軽量のテント
− 保温性があり、かつ圧縮できる寝袋
− コンパクトなマットとヘッドランプ
− アウトドア用の洗面用具
− 救急セット
− 水を入れる容器
− 浄水フィルター
− 調理用のコンロ
− 食料
これ以外にも、多分忘れているものがあるはずだ。

モデル (右) :ジャケット(Martine Rose)、ジャケット(The Very Warm)、ジーンズ(GmbH)、スニーカー(Juun.J) モデル (左) :ジャケット(The Very Warm)、ブラウス(MSGM)、スカート(McQ Alexander McQueen)、ピアス(Jacquemus)、ブーツ(Stella McCartney)
バックパックで出かける、必要最低限のごく基本的なキャンプでさえこれである。グラマラス キャンピングと呼ばれる豪華なキャンプ、別名「グランピング」となると、まったく別次元の重装備が投入される。無人の環境の中に生活空間を作り出す行為を、ラグジュアリーに体験するためだ。グランピングは、最低限の条件に適応してみせるという「幻想」へ逃避する代わりに、都市生活の快適性を念入りに再現する。内側から「野外を体験する」のだから、できればエアコンとWi-Fiも装備したい。
頑丈なブーツ、保温性に優れたジャケット、ニットの帽子など、アウトドア ウェアにはノームコア ファッションの実用性、アスレジャー ファッションの理想的な着心地がある。どうしようもなくPatagoniaのフリースに惹かれる人であれば、「耐久性」の魅力も挙げるだろう。心理学の世界では服装が人の意識や行動に影響を及ぼすことが知られているが、では、アウトドア ウェアは一体どんな影響を与えるのだろうか? 地球温暖化に直面する現在、おそらくアウトドア ウェアの基本を成す概念は、何らかの環境意識を持とうとする願望に繋がる役目を果たすと思われる。野外で時間を過ごす人のように装えば、自然に関心を持つ助けになるかもしれない。20世紀初頭には、それも一概に間違いとも言えなかった。シエラ クラブに代表される野外活動グループは、レクリエーションと環境擁護を組み合わせて実践していた。今日では、エコが売り物の消費主義が、購買によって気候の破綻を解決できると喧伝する。アウトドア用品の魅力も、その他の「エコ」製品同様、そのような一種の美徳を示唆し発散するところにあるのだろう。


モデル着用アイテム:ジャケット(The Very Warm)、ブラウス(MSGM)、ピアス(Jacquemus)

モデル着用アイテム:ロング ドレス(Y/Project)
- 文: Ana Cecilia Alvarez
- 写真: TORSO
- スタイリング: TORSO
- ヘア: Cheeky Ma
- メイクアップ: Yui Ishibashi
- モデル: Ion、Maria、Mimi、Sebastian / Midland
- 制作: Alexandra Zbikowski、Andrea Lazarov
- スタイリング アシスタント: Ruth Gruca
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: December 13, 2019