自然の憤怒、神への畏怖
アイスランドにある噴火した火山の堆積物の只中で、SSENSEがFear of Godとのカプセルコレクションを立ち上げる
- インタビュー: Joerg Koch
- 写真: Kate Friend

Kurt Cobain(カート・コバーン)、Allen Iverson(アレン・アイバーソン)、Jesus Christ(イエス・キリスト)。この3人組は、ストリートウェアブランドの基盤としては少々不釣り合いに見える。しかし、それはFear of GodのデザイナーJerry Lorenzo(ジェリー・ロレンゾ)の話を聞くまでのことだ。ヒップホップとグランジの融合は、単に現世代が持つ美的価値に対するロレンゾの回答である以上に、自然なお洒落でジム、仕事、遊びを楽しむロサンゼルス人たちのライフスタイルをこなす実用的なアプローチだ。しかしそこに、神が未知の要因あるいは表面下で静かに煮えたぎる溶岩として入ってくる。それは、リラックスした何かを信念を持った何かに変える、未知の要素だ。Gapの店舗でジーンズを畳むところからファッションのキャリアを始めたロレンゾは、今や波のように押し寄せつつある独学デザイナーたち、すなわちGosha Rubchinskiy(ゴーシャ・ラブチンスキー)からVirgil Abloh(ヴァージル アブロー)、Kanye West(カニエ・ウェスト)に至る一団に属する。彼らは、現実的な必要性と自分たちのアイデンティティを表現する方法に合わせて、ファッション業界のルールを変革しつつある。総じて、このムーブメントは、情熱と個人のスタイルが発揮する圧倒的パワーを立証している。
写真家Kate Friend(ケイト・フレンド)とスタイリストMarc Goehring(マーク・ゴーリング)がアイスランドへ飛び、自然の力とジェリー・ロレンゾがデザインした新しいFear of Godカプセル コレクションを激写した。ロレンゾは、SSENSEの編集長Joerg Koch(ヨルグ・コッホ)と対話した。
ヨルグ・コッホ(Joerg Koch)
ジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)

ヨルグ・コッホ:普通、神(God)は、恐れ(Fear)よりも愛と結び付いていませんか?神に対するあなたの考えを聞かせてください。
ジェリー・ロレンゾ:北カリフォルニアで、僕は両親と朝のメディテーションをしていて、神の王国を取り巻く雲や闇について話し始めたんだ。神の玉座を支えているのは正義だ。それで、僕は初めて、神をとてもクールな存在だと思ったんだ。キリスト教の中で育っていた間、神はいつも光の存在だった。キリスト教徒の友達や僕は、全然クールじゃなかった。だから、僕の心の中で神がクールな存在になったのは、この時が初めてだった。 神の王国を取り巻く闇が悪魔的だとは思わなかった。闇は、神の実態を取り巻く層、神に対する我々の理解を超越した知識を表していると思った。神への怖れは、神に対する崇敬、愛、敬意だ。神を怖れるとき、神の玉座の周辺に漂う闇と神を理解しえない自分の無能を受け容れることができる。ファッション デザインに対する僕の視点は、この神への怖れが原動力なんだ。メッセージのない服を作るだけだったら、きっと虚しい気分だろうな。みんながクールなだけの服にそんなに意味があると本気で思うなんて、考えるのも嫌になるね。トレンドは変わる。儚いものだよ。だから、僕は、自分の心にある揺るぎない信念に根ざした服を作りたかったんだ。
当然ですが、ご両親はあなたをクリスチャンに育てましたよね。
そう。僕の父親はメジャーリーグにいたんだ。選手だったし、マネジャーもやってた。だから、いろんな場所へ移動したよ。モントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)にいたときは、何回かモントリオールで夏をごしたよ。でも、ほとんどあちこち動き回っていた。僕の家にあったのは宗教と家族。白人だけの学校に通って、ロックとかグランジとかメタルとか、そういう感じの空気だけに親しんでいたんだ。週末になると、黒人だけの南部の教会へ行った。友達は全員黒人で、ゴスペルやヒップホップを聞いていたね。もちろん僕は黒人だけど、僕の中にはいろんな要素がある。いろいろとばらばらなものが並んでいる環境で育ったんだ。その中で、キリスト教がどうあてはまるかって聞かれたら、それが僕という人間の一部だからとしか、答えようがないね。でも、このブランドはキリスト教の服じゃない。「キリストを信じてます!」ということじゃない。ただ、僕のブランドは自分が期待していた以上に大きくなったから、その成功に対してはただ当然のこととして、神に栄光を捧げたいね。だから、そういう意味で、キリスト教の服だと呼びたければ、それでいいけどね。僕にとって成功というのは、例えばこのミーティングにトレーニングウェアで来られるということなんだ。それが成功! 正装してタイを締めなくてもいい。洋服でただ自分のやりたいことができて、自分の世界観を打ち出すことができて、僕は神の恩恵を受けていると思う。そしてその世界観が、Allen Iverson(アレン・アイバーソン、元プロバスケットボール選手)だったり、Kurt Cobain(カート・コバーン)だったり、映画「ブレックファスト・クラブ」(1985年)のJohn Bender(ジョン・ベンダー)だったり、そして神だったりするんだ。そういう全部からできているんだ。

ファッションデザインにおいて、黒人の声が足りないのは事実ですよね。
自分の父親を見てきただろ。アメリカの黒人で、メジャーリーグのマネージャーをやっていたから、僕は「アメリカの大統領は絶対無理だけど、野球だったら何かできる!」と思ったんだ。僕が今やろうとしていることは、自分がかつて持っていた心の中のそういう壁を壊すことなんだ。自分がイタリアに行って靴を作れるなんて考えもしなかった。200ドルのDieselのジーンズを売っていた時、まさかDieselと工場を共有する日が来るなんて、思いもしなかった。だから、いちばん下のレベルで言うと、僕が関わっている人たちへ、それが可能だってことを示そうとしているんだ。それを成し遂げるには、自分自身に正直で、しっかりと土台を築いて信念を持つことが最も大切なんだ。僕はいつも服が好きだった。でも、Gapでジーンズを畳んでいた時には、ずっと遠い世界のことだと思っていた。それがどういうことかって分かるだろ? 僕は、Dieselで働く唯一の黒人のティーンエージャー、それが僕のファッションでの役割だった。「どうやら、我々も、黒人購買層に接近したようだ。だから、ここでクールな黒人キッドを演じてくれよ」ってね。でも、今は僕も経験が増えたし、学習してきたから、次に僕たちが何をやるか、誰にも分からないよ。

最近、可能性には制限がないですからね。
家具を作るかもしれないね。Fear of Godは洋服のブランドじゃなくて、信念なんだ。人々と触れ合うためのプラットフォームなんだ。いろんなものを通して、語れるものなんだ。
私はドイツ出身で、今やドイツはきわめて宗教から距離のある国になっていると思います。人はもう昔ながらのやり方では信仰しません。だから、イスラム教であろうと、アメリカのキリスト教であろうと、宗教の復興にはとても興味を惹かれます。さらに、ボンバージャケットのような、けっして宗教的なメッセージと関連しないサブカルチャー的要素をあなたが使うことにも、とても興味があります。そうした要素を使うのは、アイデアにヒネリを加えたいからなのか、それともあなたの個人的な嗜好が表現されているのでしょうか?
僕はボンバー ジャケットがすごくカッコいいと思っているから。スキンヘッズたちの恰好は、世界でいちばんの着こなしのひとつだったよ。詳しく調べたら、もともとのスキンヘッズには黒人の子も白人の子もいて、人種は無関係だったことがわかった。ところが、それがアメリカに渡って来ると、彼らを「人種差別者」だと見るし、そう考えるんだ。あのスタイルの源を調べるには、とても面白かったよ。僕のコレクションは、自分の着こなしを元にしているだけ。僕が今身に着けている服を見たら、「もうちょっと気を配ってもいいんじゃないか」って思うかもしれない。でも同時に、ここはLAなんだ。毎日、どこに行くことになるか、分からないだろ。LAファッションは、気にしてないふりをするんだ。じゃあ、どうやって「気にしてない」恰好をするのか? 何がいちばふさわしい恰好なのか? そこで、僕は、アメリカのクラシックを持ち出して、フランネルのシャツにジッパーを付けて、ヒップホップのテイストを加えて、少しだけアイバーソンっぽくする。Fear of Godの大部分は、昔からあるものをベースにして、自分のスタイルを作ることなんだ。僕が現代の僧侶になったっていいだろ? 現代の弟子になったっていいだろ?
それがあなたのビジョンですか? Fear of Godのは現代の僧侶集団だと?
まあ、そんな感じだね。


僧侶にはスタイルがありますからね。
そう。みんな頭を丸めているし、われわれの普段着よりずっと洗練された普段着を着ている人たちもいる。人の価値は身に着けているものにあるわけではない、ということをわかっている人の着こなしなんだと、僕は思っている。自分が何者かをきちんとわかっている人。だから僕の服にはロゴらしいロゴががないんだ。
Fear of God修道院はロサンゼルスにあります。あなたの住む都市は、あなたの修行にどのような影響を与えていますか?
今までに僕に影響を与えたもののすべて。カート・コバーン、アイバーソン、僕の信仰。実用主義もそのひとつだね。今朝は、起きてジムに行かないといけなかった。それからランチミーティングがあるし、他にもいろいろとすることがある。そこで、今日という1日にリンクする服装は何か? 組み合わせ次第で、クールに見えて、ランチミーティングにも問題ない身なり。ジムに行って、汗も流したい。それなら、サーマルとショートパンツでOKだ。機能的だからね。LAでは、誰もまともな仕事なんて持ってないし、誰も自分にまともな仕事があるように見られたくないんだ。
Fear of Godの前にやっていた、あなたのまともではない仕事について教えてください。
自尊心が低かったとは言いたくないけど、僕は「ヘイ、僕の親父はメジャーリーグのマネージャーで、昔はメジャーリーグの選手だったんだ。だから、僕もスポーツ関連で良い仕事にありつけるだろう」なんて思ってたんだ。僕はそれほど優秀なスポーツ選手でもなかったから、野球をすることはないってわかっていたけど。大学院に行ってMBAを取ろうと思っていた。実際にビジネスで修士号を取って、LAで学業を終えて、(ロサンゼルス・)ドジャーズへ行って、企業のスポンサーシップやパートナーシップの仕事をした。そこから5〜6年前に巻き戻すと、洋服屋で働いていたね。GapやDieselで働いて、LAに引っ越した時はDolce & Gabbanaで働いた。僕は販売やファッションに情熱を持っていたんだ。でも、自分は修士を取って、企業で働くもんだと思い込んでた。2012年まで話を進めると、スポーツ マーケティングの仕事で、何人かのマネージングもやっていた。スタイリングから服装なんかの手伝いをしていたんだ。たくさん使いたい服があったけど、売ってなかった。だからダウンタウンへ行って、半袖パーカーの作り方なんかを工夫したんだ。




マーケットの需要に気付いたんですね。
大きなギャップがあったよ。当時、どうやってそのギャップをそんなに確信したのかわからないけど、明らかにギャップがあった。自分の名前がジェレミーだとわかるのと同じくらいに、確信したね。LAにいるとパーカーは暑すぎるて、マッチョなやつなら「これ、いいね」とは言わない。でもそれが半袖で、ジッパーが付いていれば「これ、いいね」になるんだ。わかるだろ? そこの部分が、足りない部分だったんだ。昔はフランネルのシャツをよく着ていたけど、どうすればそのレベルを上げて、もうちょっと自分らしくできるか? キャップスリーブのフランネルを、「ブレックファスト・クラブ」のジョン・ベンダーやスキンヘッズのカレッジ映画「ハイヤー・ラーニング」(1995年)のRemy(レミー)のような感じで着るには、どうすればいいのか?
だから、僕がマネージメントを担当していたやつらのために、服作りをいろいろ試しながらスタイリングしていたんだ。気がつくと、4〜5着の服が出来上がって、「ワオ、ちょっとしたコレクションだな」って感じだった。その後、北カリフォルニアの両親に会いに行って、そこで例の神への怖れを感じてから初めて、「このFear of Godの考えは、僕の作った服によく合う。この土台を元にして服を見せれば、絶対に何かをつかめるに違いない」って思ったんだ。
今、アメリカのファッションに、新しい刺激的な波が来ていますね。YEEZYやOFF-WHITE、ALYXといった、あなた以外のブランドにも共通したテーマがあるように思えます。それは、みんな独学のアマチュアということです。
クリエイティビティの純粋な形というのは、何も持たないことから来るんだと思う。自分が作りたいものの材料を持っていなかったり、自分の欲しい服を買うお金がないから、自分のスタイルを作り出すために自分で袖を切ったり。あとトレーニングの経験がないというのもある。僕はファッションスクールの名前をふたつ挙げることすらできないよ。CFDA(Council of Fashion Designers of America=アメリカファッション協議会)が何の略語かもわからない。例えばカニエにはトレーニングの経験がない。彼に対しては、好きなだけ資金を提供しても大丈夫だよ。でももし、表現したい明確なアイデアがあるけど、その実現に必要なトレーニングの枠組みがない誰かに資金を提供したら、結果は悲惨か魔法のどっちかだ。僕の場合、トレーニングを積んでないし、自分のスタイルを表現するためにポケットにたんまりとお金があるわけでもない。なんとか何かを考え出そうとするところから、アイデアが出て来るんだ。正直でいるしかないんだ。僕と僕の視点がかかってるわけだからね。

あなたは透明であることを主張していますね。
ここに座って、僕が言うわけだ。ここと、ここと、ここからインスピレーションを受けているんだって。それでも、誰か他の人にFear of Godのシルエットがどんなものかを聞いたら、きちんと説明してくれるだろうと、僕は自信を持っている。僕らのブランド特有の重ね着だったり、スタイルだったり、半袖のコートとかね。僕は自分の服にロゴを付けないで、それを学んでいるんだ。たぶん最も難しいことのひとつは、自分の言語を見つけることじゃないかな。僕の言語は、いろんなところからの借りものだけど、僕は誰も言ってないことを言ってるんだ。

現在、会社の規模はどれくらいですか?
7人のスタッフと、インターンが何人か。
ソーシャルメディアでは、あなたや他の若い会社が、高級ファッションハウスよりもはるかに大きな影響力を持っています。ブランディングやコミュニケーションという点において、あなたはかなり先を行っています。今、聞いてきたように、あなたのブランドにはスタイルがあります。それが最も力を入れている部分だと思いますが、その上に、あなたにはセレブリティからの支持がありますね。このふたつは、とても力強いコンビネーションではありませんか?
強力だよ。でもセレブリティからの支持を得ることは、とても危険だよ。台風の目の中だ。でも、自分が人生に感じる使命と他人の支持を混同することは、絶対にできない。人生に感じる使命は、どの人間よりも偉大なんだ。僕に才能を授けてくれた人への忠誠にしたがって、Fear of Godがどう展開していくかは分からない。セレブリティも、僕たちと同じ人間だよ。リアルだと思うものと関わりたいんだ。ビジネスの観点から見れば、セレブリティからの支持はとても大切なことだけど、それを会社の土台とするのはとても危険なことだ。
結局のところ、どうしてあなたはファッションに惹かれるんでしょうか?
みんなファッションに魅力を感じていると思うよ。誰でも、朝起きたら、何を着るかを決めるわけだからね。それが、自分の言いたいことに対する答えなんだ。だから、僕は自分のことをデザイナーとは呼ばない。イタリアでRaf(ラフ・シモンズ)のショーに行ったんだけど、これは僕じゃないと思ったね。僕はこれじゃないって。僕はコンセプチュアルではないし、アート志向でもない。僕は解決策志向なんだ。フランネル シャツを欲しがっている若者がいたら、どうすればいちばんいいシャツが作れるだろうか? アメリカの定番を、どうすれば最高にできるだろうか?ってね。
- インタビュー: Joerg Koch
- 写真: Kate Friend
- スタイリング: Marc Goehring
- クリエイティブ ディレクション: Auður Ómarsdóttir
- ヘア&メイクアップ: Ísak Freyr Helgason
- モデル: Brynja, Erla, Gudmundur / DOTTIR