骨が踊るワードローブ
Chanel、The Row、Jacquemusから見る、骨とファッション
- 文: Erika Houle

時は1842年、メアリー・アニング(Mary Anning)は、イングランド南部のジュラシック コーストで化石を集めている。彼女は、オーバーサイズのケープドレスを着ている。膨らんだ生地は彼女の背後に迫る海に似ており、麦わらを編んだボンネットは、風で飛ばないよう、顔の周りでしっかりとリボン結びされている。彼女は、道具のたくさん入ったバスケットのようなトートを持ち、その傍らには、みすぼらしい犬が眠っている。アニングは貧しく、何も持っていない。だが彼女が歴史のヒーローとなる日は近い。古生物学の分野のパイオニアとしてだけでなく、ある意味、流行ファッションの第一人者として。
時は2019年、デザイナーたちは、ここ数十年のトレンドの再考と再利用にそろそろ疲れていた。80年代のネオンと90年代のノスタルジーが完全なオーバーキルをキメたことが判明するや、トレンド サイクルは、さらに過去に遡って急回転を始めていた。2019年のスタイルは、まるで19世紀である。2019年春夏シーズンのランウェイを席巻した色は、ボーンベージュだった。Louis Vuitton、Marni、サステナビリティを掲げるNanushka、この色がブランドのDNAの一部に組み込まれている、メアリー=ケイト・オルセンとアシュレー・オルセン姉妹のThe Row。Chanelのショーでは、アールヌーボー建築の傑作と言われるグラン パレの中に作られた、砂に覆われたランウェイと、建設に150人もの人手を要したという屋内の海岸線を、モデルのカイア・ガーバー(Kaia Gerber)とアジョワ・アボアー(Adwoa Aboah)が跳ね回った。
セピア色のトーン、スーパーサイズのシルエット、そしてファウンド オブジェが、ほとんどすべてのコレクションの浜に打ち上げられていた。JacquemusやLoeweは、古き時代の海辺のスタイルをそっくりそのまま解釈し直し、パフスリーブや籐のビーチバッグを提案した。Ariesのデザイナー、ソフィア・プランテラ(Sofia Prantera)が行なった、ジェレミー・デラー(Jeremy Deller)とデヴィッド・シムズ(David Sims)とのコラボレーションが示唆しているように、私たちは過去に自分たちを投影しているのだ。このコラボレーションで、彼女は「人々が混乱し、インスピレーションを受ける」ことを望んでいた。男根のような骨で覆われた服を発表し、それにあわせて「Make Archaeology Sexy Again」というキャンペーンを展開した。一方、リアーナ(Rihanna)の手にかかれば、どんなトレンドもセックス アピールになってしまう。ボーンカラーのシルク スカートに始まり、先日のY/Projectのブレザーを着てのニューヨークの夜のお出かけまで、思わず二度見してしまうドレスを通して、秘められた内側をさらけ出す。
私たちが日々生き抜くのは、個人アーカイブをまとめることが優先事項となった時代だ。ライター兼エディターで、女優でもあるタヴィ・ゲヴィンソン(Tavi Gevinson)は、昨年の『ニューヨークタイムズ』の記事の中で、自身の多岐にわたるアート コレクションについて説明する際、「私は自分の人生の大半を記録してきた」と話している。昔の傑作を見つけ出しては記録する行為は、今やある種のスポーツになっている。誰がいちばん思い出深い#throwbackを見出し、ビンテージにインスピレーションを受けたTumblrのページを見つけられるか。その競争なのだ。@archiving.stacksや@rarebooksparisといったInstagramのアカウントは、こうした新しいタイプの内部事情を教えてくれる。「バッグの中身紹介」のような記事はもう古い。私たちが今、関心があるのは、スクショを保存したフォルダの中身なのだ。だが何かと裏をかくことが求められる時代、このコンテンツの存在は、「糾弾のカルチャー」に拍車をかけており、そのスピードは、もはや私たちが情報に追いつけないほどだ。@dietpradaとDolce & Gabbanaのバトルがまさにそうで、スキャンダルを掘り出すこともまた、現代のカルチャーの一部となっている。美術館グッズやアーティストとデザイナーのコラボレーションの人気が高まる中、私たちの服は、職人技とファッション史の知識を示す証拠へと姿を変えている。

ラフ・シモンズ(Raf Simons)が『ジョーズ』へのオマージュとして、映画のグラフィックや噛み切られたようなヘムラインを取り入れ、サメの歯からインスピレーションを得たCalvin Kleinの2019年春夏コレクションを発表して以来、「歯」のテーマはファッションのメインストリームに躍り出た。メイクアップ アーティストで『Dazed Beauty』のクリエティブ ディレクターでもあるイサマヤ・フレンチ(Isamaya Ffrench)は、最近、カスタムメイドした歯に装着するグリルや歯の鋳型を用いたシリーズを製作しており、「歯というのは、実はテーマとしてかなり多くの意味を含んでいる」と話す。「歯は、私たちが死んだとき、いちばん最後に分解するものであり、コミュニケーションを司るものであり、食料を摂取するのに必要なもので、妊婦にとっては最後までカルシウムを維持するものだ。また歯のない人は本当に恐ろしく見え、人は歯を失う夢さえ見る」。その影響は、最新の厚底スニーカーにまで及んでいる。Versaceの「Squalo(イタリア語でサメの意味)」は、化石になった歯を取り入れ、ソールのサイドには三角の牙のデザインをあしらっている。夢の中に歯が出てくるのは、社会的信頼の象徴の可能性があるとも言われるが、おそらく、そのせいで、私たちは頭からつま先まで「歯」を身につけようとしているのではないだろうか。
私たちは今、現代のテクノロジーに対する熱狂や、それに伴う際限のないデバイス欠乏症から離れて、もっとシンプルだった時代、より手応えのある時代へ戻ろうとしている陶器やエナメルのキッチン用品、色つきガラスのアクセサリーに対する私たちの執着を考えてみてほしい。インテリアの買い物ができるのに、なぜ携帯の追加容量を購入するかどうかでストレスを溜める必要があるだろうか。自宅がInstagramの投稿の背景となった今、「我が家」の見栄えは、家を埋め尽くすモノで決まる。雑誌『Apartamento』の第22号では、グラフィック デザイナーのアナ・ドミニケス(Ana Dominguez)とオマール・ソーサ(Omar Sosa)が彫像のような骨からなる静物画シリーズを制作している。古代の遺物ほど、洗練されたものはないのだ。
あらゆる見るべきものを見尽くし、なおも私たちの身の回りのものを発展させようと切望するなら、それをキュレーションし、そういうものとして捉える。それが「進化の研究」である。
Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである
- 文: Erika Houle
- アートワーク: Skye Oleson-Cormack、Nathan Levasseur
- 翻訳: Kanako Noda