John Robertsはあらゆるものを結び付ける
マルチな才能のプロデューサーが、ニューヨークの限られたアパート空間から湧き出る創造的インスピレーションについて語る
- インタビュー: Bianca Heuser
- 撮影: Brooke Chroman
- 画像提供: John Roberts

John Roberts(ジョン・ロバーツ)のアーティストとしてのアイデンティティは、一見すると、どこかつかみどころが無い。ハンブルグのDial Recordsからリリースされ、最初に彼を人気者に押し上げた数々の素晴らしい作品には、ロマンティックで、どちらにも属さない魅力がある。ダンスミュージックには珍しいことだ。クラブ的なノリとも、家で聴くことだけを目的としたものとも違って、彼の作る曲のリズムは自由に揺らぐ。Robertsの美的感覚は、優雅かつ抑制的で、まさに彼の立ち居振る舞いそのものである。彼が住むニューヨークのアパートメントを一暼すれば、彼の関心の範囲の広さを端的に見てとることができる。自宅兼スタジオでは、80年代を代表するデザイナー集団Memphis(メンフィス)によるテーブルランプが、象徴的なシマウマ柄の壁紙と穏やかに共存している。この壁紙は、ニューヨークの不動産屋が常套手段として使う理不尽なまでの家賃の値上げによって、2010年にオーナーが追い出されてしまうまで、Frank Sinatra(フランク・シナトラ)や Ed Sullivan(エド・サリバン)らを顧客として迎えてきたニューヨークの伝説的レストランGino’sを彩っていたものだ。そんな自宅で、Robertsがチェスをしたり、Saint LaurentやReebok Classicsのスタイルに身を包んでふざけたり、自身のアートコレクションや本棚の前でポーズを取ってくれた。
多種多様な文化的関心があるからこそ、Robertsはその全てに適うチャンネルを作り続けている。レストランGino’sがその歴史に幕を降ろしたのと同じ年に、Paul Kominek(ポール・コミネク)と組んで、年2回発行の「今までにない真のポスト観光の出版物」と自称する雑誌「The Travel Almanac」を創刊した。昨年には、あらゆる形態の文化的創造に対応する、まさに彼自身のプラットフォームBrunette Editionsの開設が発表された。その最新リリースとなる彼のニューアルバム「Plum」は、Roberts自らが撮影、プロデュースした映像作品と合わせてリリースされた。
Dial Recordで働いていた時にRobertsと友情を築いたBianca Heuser(ビアンカ・ホイザー)が、ものことの質感、ジャンルに捉われない作業の喜び、多彩に彼を感化したアーティストについて話を聞いた。Robertsが、カメラロールに保存されたテクスチャのスナップショット コレクションを披露する。

ビアンカ・ホイザー(Bianca Heuser)
ジョン・ロバーツ(John Roberts)
ビアンカ・ハウザー: Brunette Editionsをオープンさせることになったきっかけを教えてください。
ジョン・ロバーツ:このレーベルの背後にあるアイデアは、単に、自分が制作したいあらゆるタイプの作品の出口を作ることなんだ。音楽でやっていたことを継続させると同時に、行き場のなかったヴィジュアル作品も含めてね。定義や決まりきった約束事のないことをしたかった。抽象的な実験や、ジャンル横断的にいろんなものを結び付ける実験の出口を作ること。それが、僕個人には、とても重要だ。どんな作品に対しても、ジャンルに捉われないアプローチが好きなんだ。
質の良い音楽やアートやファッションは、たいてい他のジャンルの作品から影響を受けています。それなのに、無理にジャンル分けをするのは奇妙ですよね。
全くその通りだよ。いろいろな物を結び付けるのは、もの凄くワクワクするし、現代的だと思うんだ。僕は時々、ラップやR&Bの業界で何が起きているのかチェックするんだけど、あらゆることをやっている人がとても多くて、とにかく刺激的だ。今、クリエイティブな人達の中には、自分自身をディレクションしている人が山ほどいるような気がする。決められた役割をこなす人より、よほど面白いと思うね。
ジャンルの重なり合いについて話しているので聞きますが、あなたは共感覚のようなものを持っているんでしょうか?
そうは思わない。だけど、何かしら特別なものは持っていると思う。共感覚ほどミステリアスなものじゃないけど、何かの音をきっかけに、イメージが浮かんでくることがある。曲って、ショーウィンドウのようなものだと思うんだ。音をアレンジするのは、ショーウィンドウに商品を並べるのと同じだ。そうやって、僕の求める雰囲気を表現する全体的なコレクションを創り出す。



ファッションショー用の音楽を担当したことはありますか?
まだ、ないんだ。でもすごくやってみたい。例えばPradaのようなブランドのために、曲を作ってみたいね。生地やデザインをインスピレーションにして、全く新しいことをやるのはとても素晴らしいだろうね。
あなたの制作に共通する美的センスを形容するのは難しいですが、様々な創作活動とあなたの作品のビジュアル的側面に通じるのは、すごい質感ですね。「Plum」のアートワークは、そうした様々な質感によって成り立っていますよね。
その通り。いつも色んな生地や素材、石の組み合わせなんかに目を留めて、とりあえず携帯電話で写真を撮るんだ。メモしておくみたいに。僕のコンピューターの中には、音のアイデアを呼び起こすための、ヴィジュアル メモのフォルダーがあるんだよ。音の質感を覚えておく備忘録のようなものだね。僕は、大概、視覚的なものに向き合って、それを音のコラージュとして組み立てる手法をとっているからね。
映画やアート、ファッションは、あなたの音楽に影響を与えていますか?
映画はたくさん見るよ。映画鑑賞は、僕の一番の趣味だと思う。映画館にも行くし、家でも見るし。ファッション業界で起きていることも、大まかにはフォローしているよ。僕は、ショッピングという概念そのもの、つまりデパートに出かけて、いろんな服や質感を見て回るのがすごく好きなんだ。必ずしも、何かを買うわけじゃない。アート業界とは、とくに直接的なつながりはないんだ。展覧会のオープニング パーティーにも行かないし、業界に関わっている友達がたくさんいるわけでもない。ただ、メトロポリタン美術館にはよく行って、中をさまよっているよ。迷路みたいだから。どこかの部屋でどれかの時代だけの芸術作品に囲まれて、そこから10歩歩くと、全く違った文化の中にいたり。ショッピングモールやデパートにいるのと同じ感覚で、ランダムに影響される感じが好きだな。メトロポリタン美術館は、すごく美しいよ。運良く当たりの日に行けた時は、他に誰もいない部屋に入るのがいい。滅多にないけど、この激しくて忙しい都市の中で、そんな風にごく個人的な瞬間があること自体が信じられない気がする。


最近行った旅行の中で、一番良かったのはどこですか?
この前、ミラノに行った時かな。 Marchesiというカフェに行ったんだ。おそらく生粋のペストリーの老舗で、ある時、Pradaがその店を買いとって、インテリアを丸ごと入れ替えたんだ。ミラノで、Pradaの世界観を最大限に体験したよ。僕もBrooke(ブルック)もMiuccia Prada(ミウッチャ・プラダ)の大ファンだからね。Pradaの財団は心の底から素晴らしいと思うよ。アート作品の盗用を題材にした展覧会もすごく気に入った。
私もです!
自分が行ったことのある中で、最もインスピレーションに溢れる美術館だと思った。ただただ、素晴らしかったの一言だよ。
細部への配慮には、目を見張るものがあると思います。それぞれの空間が、全く違ったインテリアで装飾されていて、それでいて一貫性も感じられるという。
それは、彼女が洋服で実践していることとも、完全に繋がっている。彼女は、全ての壁を取っ払っていくのが好きで、ジャンルを超えることに関心がある人なんだと思う。
常設展のLouise Bourgeois(ルイーズ・ブルジョワ)の作品群も強烈でした。
僕もすごく好きな作品だよ!あの、肌色のぬいぐるみのような人形。
私が今まで見てきた中で、一番美しい作品です!
あの部屋で、ひとつだけポツリと佇んでいるのもすごく良かった。Wes Anderson(ウェス・アンダーソン)のカフェはどう思った?
すごく良かったと思うんですが、どうでした?
僕もすごく良かったと思う。とりあえず、400種類のサンドウィッチと400種類のアルコールドリンク、みたいな感じのメニューがいいよね。店の中に入ると、映画業界で働いてる人がデザインしたなって分かるね。とても表面的なつくりなんだ。壁はとにかく華やかだけど、あれは実のところ、写真を転写した壁紙なんだ。テーブルの表面やゴミ箱も一緒。カフェ全体で、贅沢のまやかしのようなものを体現しているのが興味深いと思った。


音源制作は、きわめて孤独な作業です。Brunette Editionsを通して、もっとコラボレーションを中心にやっていこうと考えていますか?
そうなると思う。Brunette Editionsを前進させるために、もっとコラボレーションのプロジェクトがあったら良いと思う。「The Travel Almanac」を始める前は、成功と言えるコラボレーションには一度も恵まれなかった。個人的に、コラボレーションが上手くいくには、かなり親密な関係性が必要だと思うんだ。
いつかコラボレーションをしたい人はいますか?
Nicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)と何かやったら、すごく楽しいんじゃないかな(笑)。とても独特なスタイルを持っているから。彼女の言葉の使い方が好きなんだ。スタイルがすごくリズミカルだし、リズム感も素晴らしいものがある。彼女の言葉のねじ曲げ方には、本当に興味があるんだ。あとはラッパーのYoung Thug(ヤング・サグ)だね。ふたりとも、言葉を粘土のように扱って、自分たちの好きなようにねじ曲げるだろ。そういうところがすごく好きなんだ。あんな風に遊び心を持って音楽ができる人が、どうしてもっとたくさんいないのか僕にはわからないよ。
私の友達は、彼のスタイルを『わめき声ラップ』なんて、絶妙なネーミングを付けてました。
あのスタイルは本当に素晴らしいよ。彼のスタイルは、音楽から何も損なわない。逆に、何か大切なものを足している、と僕は思う。どちらにしても、僕はリリックは聞かないし、まったく気にしないんだ。良いリリックがないというわけじゃなくて、それが僕の聴き方なんだ。僕はただ音だけを拾うような聴き方なんだよ。

- インタビュー: Bianca Heuser
- 撮影: Brooke Chroman
- 画像提供: John Roberts