チャーリーXCXとポップスのアイデンティティ
ヒット曲とキャンドルの作り方、そして感度の高い色男ディプロについて
- 文: Molly Lambert
- 写真: Sandy Kim

チャーリー XCX(Charli XCX)に会ったのは、ある寒く霧の深い朝のロサンゼルスで、彼女が写真撮影を行うヒルズにあるウッドパネルの家だった。彼女はオーバーサイズのスウェットシャツに、スパイス・ガールズ(Spice Girls)のプラットフォーム スニーカーという出で立ちで現れた。誰か子犬を連れてきている人もいた。子犬がキッチンを駆け回り、Instagramのために大胆なポーズをキメている。
この近所に住んでいるチャーリーは、Instagramのストーリー機能を使って、自宅で開かれる活気あふれるイベントをよく紹介している。そこでは、次から次へとコラボの相手や友人が登場する。最近のある投稿では、チャーリーがネリー(Nelly)の「Ride Wit Me」を歌いながら、冗談っぽくアップライト ベースを演奏していた。これには「#realmusician[マニキュア(ネイル)絵文字]」というタグがつけられていた。また私は、彼女が溶かしたキャンドルを垂らす Instagram ストーリーの投稿に夢中になって、一日中、硬くなったキャンドルがどうなるのかひやひやしながら見入ったこともある。ちなみに、このバレンタインデーから数週間の後、彼女はキャンドルではなく新しいレコードを発表したのだった。PC MusicのA.G. クック(A.G. Cook)と作った彼女の最近公開したミニアルバム、『Number 1 Angel』と『Pop 2』の2枚組アルバム バージョンだ。
ソーシャルメディアでのチャーリーは可愛らしく、いつもふざけている。舞台の上や写真の彼女は、完全に「権力をもった究極の嫌な女」になりきっており、まるでグレイス・ジョーンズ(Grace Jones)やマドンナ(Madonna)など、かつての偉大なポップスターのようだ。彼女は自分の文章に自信がある口ぶりだが、一方で、写真映りがあまり良くないと考えていることを打ち明けてくれる。いつものことだが、どう見ても完璧なまでに美しい女性が自分の容姿を気にしていると言うのを聞いて、私は純粋な驚きを禁じえなかった。ふたつの対照的な側面が衝突せずに両立していることが、チャーリー XCX にはよく見られる。デザイナーズ ファッションとスウェットパンツの組み合わせがそうだ。テイラー・スウィフト(Taylor Swift )の春の「Reputation」ツアーで前座を務めるような、メインストリームのポップ歌手でありながら、アヴァンギャルド ポップスの変人でもある。その動きは素早く、次々と仕事をこなしていく。チャーリーのクリエイティビティは止まることを知らず、 『Pop 2』はモーターボートに乗っているような手に汗握るアルバムで、トーヴ・ロー(Tove Lo)やカーリー・レイ・ジェプセン(Carly Rae Jepsen)、ムー(MØ)などのミュージシャンがカメオ出演で続々登場する。そんなチャーリーに、音楽制作とポップス、キャンドル作りについて話を聞いた。
モリー・ランバート(Molly Lambert)
チャーリー XCX(チャーリー XCX)
モリー・ランバート:最近、「私は過小評価されていると思う」とツイートしていましたが、あれは良かったですね。
チャーリー XCX:でしょ?いいツイートだったわよね。ほんと、みんなすぐカッカするんだから。
私は「その通り」って思いましたよ。あのツイートのきっかけは何だったのですか。
ただ目が覚めて、ツイートしただけよ。「これはかなりまずいことになるか、特に問題ないかだろうな」とは思ってた。ラッキーなことに、そこまでの大惨事にはならなかったけど。私はTwitterを自分の意識の流れるままに使うのが好きなのよ。

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あなたのInstagramもいいですよね。先日あなたは Instagram ストーリーでキャンドル作っていましたが、あのキャンドルの投稿、とても楽しかったです。
あのストーリーね。すごくたくさんの人が、私に「大変! 次はどうなるの? キャンドルに火はつけた?」なんてコメントをくれたわ。みんな、あの投稿がすごく気に入ってた。私たちは女性器の形のキャンドルを作ったり、猫のキャンドルを作ったりした。ビッグベンのキャンドルも作ったわ。それから普通のキャンドルもいくつか作ったわね。
型に入れて?
もちろん、別にビッグベンを手作りしたわけじゃないのよ。
見ていて ASMR 動画を思い出しました。
ASMR て何?
誰かがごくありふれたことをする動画で、人はその物が立てる音が好きだから見るような動画です。例えば、スライムみたいなものを作る動画を作る人がいます。
ああ、あれね。見たことある。確かにそれに近い。ワックスを何かと混ぜる行為には、間違いなく癒し効果があったわ。
新しいミックステープのレコーディングを進めているのですか。
私はキャンドルを作るためだけにここにいるのよ。(笑) 嘘、毎日スタジオに入って曲を書いてる。今はまだ特に目的はないんだけどね。当然、そのうちに何か発表するだろうけど、それがどんなものかは、よくわからない。私自身、アルバムという形態が正しいのかどうかも、よくわからなくなってきているわ。今はまた他の人の曲も作るようになってるし。アルマ(Alma)っていうフィンランド人のミュージシャンのために、色々やってるのよ。
どのようなプロセスで作るのですか。
誰と一緒にやるかによって違ってくるわ。A.G.(クック)とミックステープを作るときは、お互いのことをとてもよく知っていて、お互いのプロセスもかなり理解しているから、お互いに発破を掛け合うことができる。そういうときは、2週間みっちり、朝の6時までスタジオに入って作る感じ。他のことはあまりやらずに、制作中の音楽だけに集中して、オーバーロードするまで自分たちを追い込むの。それで、1週間に1回くらいはパーティーに行って、戻って来てから、絶対にアルバムには使わないような変な曲を書いたりする。ここのスタジオにただ来て、色々な人と曲を作っていたら、自分が9時5時の仕事をしている気分になることがあるわ。スタジオに入って、お見合いパーティーみたいにその場で新しい人と知り合って、1曲書いて、家に帰る。中にはもっと深く付き合うようになる人もいるけど。本当に決まったやり方なんてないのよ。私は作詞家でも作曲家でもなくて、何でもやる。自分の知っていることについて書くし、知らないことについて書くときだってあるわよ。
『Pop 2』制作の経緯を聞かせてください。
ごく自然にできたのよ。A.G.と一緒にいて、「もうひとつミックステープ作らないとね」って感じで、そのままただ作り始めたの。あらかじめ計画してたわけじゃない。こういうことをやる際は、私たちは素早く動くのが好きなの。サウンドがあちこちに点在して、ごった返して聞こえるのは、たくさんの人をフィーチャーしてるからよ。すごくエネルギッシュな40分。
意識的にポップ音楽を解体しようとしているのですか。
いいえ、特に理論に裏付けされたものじゃない。そういうのがあると、面白さが台無しになると思うのよね。私はポップスが大好きなの。正直に言えば、私がクラブで聴きたい音楽を作りたいだけよ。だから私は、自分でもあきれるほど、いつでも自分の音楽を聴いてるわ。つい先日もスタジオに車で行く途中に友達を見かけて、車の窓を開けたときに、「自分のミックステープ聴いてるの?」って驚かれて、私は「すごく恥ずかしいけど、そうなの」って感じだった。でも、自分で聴きたいから音楽を作っているの。こういう音楽に合わせてパーティーで盛り上がりたいのよ。『Pop 2』でやったことは、要するに、このミックステープに参加した人たちで協力して、盛大なホーム パーティーを作ることだったわ。
今、ポップスは流行っていると感じますか。
ポップ音楽は今、すごくいい位置にあると思う。私がどういう人間かについて、完全に異なる2つの語り口があるって知ってる?『Pop 2』のミックステープのようなソングライター的な世界があるでしょ。それから「Boom Clap」を歌って、「Fancy」でイギー (・ アゼリア)と共演した女の子というストーリー。私はどっちも同じくらい本当だと思ってる。

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多くの人は、あなたが多才でありさまざまな活動をやっていることが、よく理解できないようですね。
部分的には私のせいよ。私の活動が不定期だから。利益のために動くのは得意じゃない。私はなんというか、「これは自分に合ってるから、5年間はこれでいこう」みたいなのが下手なのよ。私は常にいろんなことをやってて、多くの人と一緒に仕事するから、そういうのが今までもずっと苦手だった。それに、私は何をすべきかを人から言われるのも苦手。私のやり方はそうじゃないの。
今は、どんなミュージシャンが好きですか。
カップケーキ(Cupcakke)と、彼女の最新アルバムは全部、本当に好き。彼女はやっと実力に見合った名声を得るようになってきてるから、かなり楽しみ。ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)にもすごくはまってるし、イージ(Yaeji)って女の子にもはまってるわ。彼女の「Raingurl」という曲が滅茶苦茶カッコいいの。たくさんの曲を彼女自身が作ってるのよ。
レーベルは、人々が今作っているミックスーテープやネットでやっているようなことを理解していると思いますか。それとも、レーベルはただミュージシャンがアルバムをリリースする方がいいと思っているのでしょうか。
実際のところ今何が起きているのか、誰もわかっていないのよ。ストリーミングだってまだ出たばかりで、ようやく人々に知られてきたところだし、偶然何かが起きても全然おかしくない。それってすごく面白いと思う。レーベルはこの状況を喜んでると同時に、多分、憎んでもいるわね。理由は、自分たちにも何なのか確信の持てないようなものがポンポン出てきて、その上に、自分たちがうまく行くと思ってたことが、うまく行かない可能性もでてきたからよ。
あなたは、ヒット曲を作れると証明したからこそ、信頼されているのだと思いますか。
そういう要素はある気がする。でも、私は一緒にはやりにくいと思われてるでしょうね。
それは、あなたが自分の考えを通す女性だからでしょうか。
実際、場合によっては、私は一緒に仕事がやりにくい人間だったりもするわ。私は、自分が並のレベルだと考えるものに対しては絶対に妥協しないから。

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あなたの監督した「Boys」のミュージック ビデオがとても良かったです。
もっといろんな作品の監督をやりたいわ。
どこから着想を得たのですか。
ただ曲を繰り返し聴いて、超カッコいいなって思いながらジョー・ジョナス(Joe Jonas)を見ていたの。そうしたら道が見えてきた感じよ。ポップ音楽のミュージック ビデオでは、しょっちゅう女性が小道具として使われてるから、同じことを男の人でやったら面白そうって思ったの。
「おお、ディプロ(Diplo)を性的なモノとして見てるんだ」って、驚きました。子犬に囲まれた彼、最高でしたね。
そう言えば、パブロ・ヴィッター(Pabllo Vittar)って知ってる? ブラジルのドラァグクイーン。ちょうどこのふたりが、ビデオでイチャイチャしてたとこよ。
彼女とディプロが?
そう! 「あなたって感度の高い色男よね!!」ってメッセージを送ったわ。良かったわねって。ディプロは最近ムーと一緒に踊るビデオも作ったのよ。特に最近の作品が大好き。彼のYeezyキャンペーンも最高だったし。今は本当に彼にはまってるのよ。彼のやることは、すごくいい。雰囲気もいいし、よくできてる。
カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)の赤ちゃんのために、テーマソングを作れるとしたらどうでしょうか。
すごい、夢のような話ね。もちろん、やりたいわ。名前とか、あれこれ内部情報を手に入れなきゃならないわね。でもどうにかして絶対手に入れるわよ。
ちなみに、その夜、カイリー・ジェンナーは、Instagramで赤ん坊の名前がストーミであることを発表したのだった。
Molly Lambertはロサンゼルス在住のライターである
- 文: Molly Lambert
- 写真: Sandy Kim
- スタイリング: Rebecca Grice
- ヘア: Sami Knight
- メイクアップ: Lilly Keys
- ネイリスト: “Sarah Chue for Exclusive Artists using OPI”
- セット デザイン: Natalie Ziering
- 制作: Emily Hillgren