マイケル3世式
本で学ぶ
セルフ ヘルプ

希望、夢、冷凍ピザ、セルフィーについて

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III

自分のすべてを変えようと思うとき、いちばん厄介なのは、そういう変化を起こしてくれる本を選ぶことだ。自己改善の努力では、必ずしもオレたちの目は覚めない。だがたまには、ぴったりツボにはまる本もある。例えば、1936年に出版されたデール・カーネギー(Dale Carnegie)の『人を動かす』。この独創的な本は、たった5文字の書名でオレをおびき寄せるに十分だった。少なくとも自己啓発の分野で、これほど誘惑的なタイトルは後にも先にも登場したためしがない。その点、ブロガーからモチベーショナル スピーカーに転身したレイチェル・ホリス(Rachel Hollis)のベストセラー『女性よ、顔を洗え』(2018年)は、好奇心をそそりこそすれ、希望はほぼ皆無に等しい。第一、オレの顔のどこが汚れてるんだ? ジョン・グレイ(John Gray)の有名な『男は火星から、女は金星からやってきた』(1992年)は両方の中間だが、銀河系市民というウキウキするテーマをつまらないジェンダー二元論に貶めてしまった。ミスター・グレイに言いたい。オレはまだすごくゲイだし、地球出身のはずだ。

自己啓発というジャンルを定めたサミュエル・スマイルズ(Samuel Smiles)の『自助論』が、1859年ではなくポストモダンな時代に出版されていたら、ハーバード卒の知ったかぶりを嫌というほど抱えている巨大企業か、はたまたアシスタント3名と暮らすような訳知り顔のセレブのペンネームじゃないかと、疑われたかもしれない。マドンナ(Madonna)、聞いてる? スマイルズのセルフ ブランディングはオレも認めないでもないが、「笑顔」という名前のとおり、彼は生まれつき恵まれた集団の仲間だったのが、ちょっと気に食わない。

『自助論』から何百年かが過ぎた今、オレたちを教え導く本がなくても、オレたちの生活習慣は否応なく変えられた。「みんな、家にいなさい」とお達しが来たとき、トイレット ペーパーが新しい通貨になるらしいという噂を耳にしたとき、春を謳歌することも、お互いをハグすることも許されないと知ったとき、ほかの大勢の人と同じようにオレも対処に迷った。そこで、自己啓発本がずらりと並んだ、自分の本棚に慰めを求めた。

そうして心のいちばん深い闇へ踏み込んだオレは、かなり改善されたオレになって戻ってきた。自らの欠点を愛することを学んだ。あらゆる炭水化物を摂取しながらも、全身筋肉マンを維持している。オレの未来の子供たちと健全な関係を築いた。紫外線からしっかり身を守ったうえで、物事の明るい面を見るようになった。さあ、君にだってできる!

以下は、まさに君のような読者のために、オレが特別に厳選した自己啓発本だ。綿密に分析すればわかるように、自己啓発の分野で最高の名著ばかりだと自信を持って宣言できる。ただし、読まないほうがいい本も何冊か含まれている。お求めは、自宅から一番離れた本屋で。

『こころのチキン スープ~愛と奇跡の物語』シリーズ

心震わせる感動の実話を掲載し続けて、増大の一途を辿る今や古典的コレクション。今年になって出版された新刊は、『巣ごもりしている人のチキン スープ』、『幻滅した有権者のチキン スープ』(2020年度版)、『2020年代に燃える人のチキン テキーラ ショット』、『情緒不安定な人の加重ブランケット』、『可哀想なチキンのハンカチ落としゲーム』、『「でも僕たちは薄情だし、僕はビーガンだし」な人の無神論スープ』、そして特にオレが気に入った『ランチにはチキンとライスとプランテン バナナのフライ』。

トーマス・ピックフォーズ『不眠症的:困難な時期でも眠れる秘訣』

世界は粗暴で、人類は徹底的に嘆かわしい。しかし、多くの人と同じように、眠りに落ちるどころか眠りに躓くことさえできない君でも、本書に書かれたあまりに当たり前な助言とテクニックを読めば、たちまちもっと素晴らしい世界を夢見ることは確実だ。

ラナ・ゴールドバーグ『完璧なあなたの真の姿』

「いい気分だから」というだけの理由で自分は完璧だと信じ続ける頑固な人に、著者は心から呼びかける。「たわ言は止めて、助けを求めなさい」

アラン・アブード『車輪を再発明する5つの簡単ステップ』

ミーティングの席上、「わかりきってることを最初からやり直す必要はないだろ? 改めて車輪を発明する必要がないのと同じだよ」という発言を耳にして、そのまま鵜呑みにした経験はないだろうか? ところが7週間後に問い合わせてみれば、ミーティングで提示された精彩にもインスピレーションにも欠けるアイデアは、失敗に終わっている。急遽オフラインで討議。前回の失敗から習得した重要事項の見直し。挙句の果てに、事態の是正措置を講じる時間の余裕があると判断されたのは、君。そのことを知らされなかったのも、君。上司に問い合わせれば、「車輪の再発明」に許された時間はなんと今日の午後だけ。かくして、ミーティングへ戻る。

イルザ・エクストレム『古いモノにさようなら』

何百万もの愛読者を誇る著者は、Netflixともシーズン契約を結んで、チリひとつないインテリアを作り出す絶対保証のテクニックを伝授している。決して難しくはない。1) モノを手に取る。2) よく見納めて、心からお礼とお別れを告げる。3) ゴミ箱へ入れる。あらゆる持ち物がひとつ残らず亡くなるまで、この手順を繰り返すだけだ。冷蔵庫だって、ドアの取っ手だって、例外じゃない。著者が言うとおり、「どれだけすっきりしたか、きっとおわかりのはずです。まだ何かが必要だとか何かを欲しいと思ったら、ゴミ捨て場へ行って、捨てたものを探して持ち帰りましょう。それこそ、努力して得るということです!」

キア・チョン、マーティン・ジャクソン共著『ボディ ランゲージ:普遍の真実』(成人限定版)

画像と文章が半々の本書は、刺激的ではあるが、非言語コミュニケーションについて読者がすでに知っていることを、改めて明確にするだけかもしれない。腰に手を当てるのは苛立ち、腰に手を当てて肘を外側へ突き出すのはファッション、額に手を当てるのは疲労、首や背中やその他の部位に手を当てるのは『マイ ネック、マイ バック』と歌うラッパーのキア(Khia)。Zoomミーティングの画面の隅から君を見つめ返す視線は、実は、あらゆる人を見つめ返す視線であることをお忘れなく。

ロイトン・フライアー『資産管理入門』

大成功する人たちには7つの習慣がある。大失敗する人たちにはその1万倍の習慣がある。そのうち少なくとも2つは、オレにも心当たりがある。ひとつは資産管理の本を読んで勉強する気がないこと、もうひとつは誘惑に弱いこと。テレビで、お金の法則を教えてくれるカリスマ ファイナンシャル プランナーのスージー・オーマン(Suze Orman)と血肉の後継者争いが展開する『Succession —キング オブ メディア』を見るだけじゃ、ダメなのか? だがフライアー教授は、どっさりブロンドのハイライトを入れたり邪悪な巨大メディア企業のオーナーになったりしなくても、金欠を克服する方法はあるという。銀行口座の残額を堅実に維持するには、基本的に、浪費を繰り返さない、常に貯金を忘れない、そしてもっと稼ぐ。

フライアー教授が教える方法は、確かに筋が通ってるし、正しい計算に基づいている。が、金持ちになる方法じゃなくて金持ちに生まれる方法を教えてくれたら、はるかに時間を節約できるんじゃないだろうか。「時は金なり」だよ、フライアー教授。

アリア・ソーンダーズ博士『輪廻転生:ボーン リッチ オア ダイ トライン』

序文を書いたのは『ゲット リッチ オア ダイ トライン』に主演した50 Cent(50セント)。アリア・ソーンダーズ博士のスイスの住所宛てに「お手軽な分割払い」で送金するだけで、来生は金持ちの子供に生まれることができる。表紙に貼ってあるゴールドのステッカーには、堂々と「詐欺ではありません」と宣言してあるし。博士が伝授するテクニックは本当に効くのか? 疑問に思う人は、オレも博士に送金した事実を忘れないでほしい。オレひとりがバカを見るのは嫌だよ。

レスリー・J・スプリング『セルフ サービス! ひとりパーティのすすめ』

どうせ家にひとりなんだから、わざわざ手間暇かけて大変な思いをする価値はない。そう思い込んだことはないだろうか? だから冷凍のピザを焼き、翌日は残りを温め直して悲しさを噛みしめ、3日目はさらに食べ残しを刻んで味気ないオムレツだ。オレには経験がある。だがこの本を読んで初めて、これまでオレが失ってきたものに気が付いた。

半分はパーティの企画ガイド、半分は料理本と自己肯定マントラの本書が掲げる目標は、孤独な読者にビッグ イベントの感覚を与えることだ。第一章「迷ったときは、度を超そう!」には、「欲しいと思うものは、なんでも自分で自分に与えましょう! 自宅隔離中でも、盛大に! あなたがやらなくて、他の誰がやってくれるでしょうか?」と書かれている。

マライア・ブラシュコ『雑談に役立つヒント』

非常に実用的で、役に立つアドバイスが満載で、目から鱗の楽しい本だ。「久しぶりに会った友人には、『どう、変わりない?』と尋ねる代わりに『どうしたの? 大丈夫!?』と言えばいいのです。気づまりな沈黙が下りたときは、『あなたのスピリット アニマルは何?』とか『隔離はどんな具合?』といった質問が最適です」。最後に、極め付きのお役立ちヒントは、「何を喋ればいいかわからないときは、家へ帰りましょう。あるいは家へ帰ってもらいましょう」

ティンスレイ・イエーツ『子供がいるひとの子育て術』

隣の家のお母さんがお喋りしてるような、親しみの持てる本。著者はコーヒーを飲みながら、友人や同僚から聞いた子育ての大変さを綴っていく。トミーはもう3歳なのに、いまだにベビーベッドじゃないと寝ないんだって。ディライラはまさにアマチュアのグラフィティ アーティストで、ママが何をしても落書きを止めないんだって。ナイルズはおしめのなかにラズベリーを入れて、パパを仰天させたんだって。ブレアは石鹸を食べちゃうんだって。子供は嫌いだけどゴシップは大好きな人にぴったりの1冊。

@Pipi_Pollock『光りを探して』

この本には、もっと美しく、もっと自信が持てるセルフィーをものにする秘訣が書かれている。それは「一に場所、二に場所、三四がなくて五に場所。一に照明、二に照明、三四がなくて五に照明。一にリタッチ、二にリタッチ、三四がなくて五にリタッチ」

イゴール・パステルナーク『内なる野生』

人間の自我は幻想にすぎない。虚飾は興奮の快感しか与えない。バスタブの残り湯を飲み、雨をシャワー代わりに浴びてみよう。それこそが「生きる」実感だ。

B. S. ルイス『ユニバースを奪う方法』(初心者向け)

こんな危険なテーマの本が「自己啓発」として紹介されるなんて、と戸惑う人がいるかもしれない。本来なら「スポーツ&趣味」の分野で扱うべきではないか。おまけに、知識豊富な読書家は、宇宙艦隊の作り方やタイムトラベルの詳細を解説する初心者向けの内容を予想して、馬鹿にするかもしれない。だが著者が提供するヒントは、未経験の無邪気な読者だけでなく、ますます高額になる優勝賞金を狙う海千山千のスペース カウガールにとっても、大いに参考になる。

ナポレオン・ブラウン『エクスキューズ ミー:語られざる口実の技』

申し訳ないが、オレはこの本を読んでない。読むべきだったが、新しいしおりがないときは、新しい本を読み始めないことにしてるんだ。コンタクトを紛失した。爪先をぶつけた。ちょうど、窓の外をバグパイプのパレードが通過中だった。ギリシャの帆船の甲板にいなきゃいけなかった。表紙を開けた途端、レイヴン・シモーネ(Raven Symone)の幻を見た、電話に出なきゃいけなかった。この本を読んでなくて申し訳ない。読まなかったことを非常に恥ずかしく思う。読むべきだったが、宇宙を救えるのはオレだけだということを理解してほしい。

Michael the IIIはフォトグラファー、ライター、モデル、新進モチベーショナル スピーカー。『THEFINEPRINT』、『Gayletter』、『Document Journal』、『SSENSE』など多数に執筆を行う

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III
  • モデル: Michael the III
  • ヘア&メイクアップ: Michael the III
  • セット デザイン: Michael the III
  • セルフケア: Michael the III
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: May 22, 2020