ベーシックへ: 90年代ミニマリズム復活の6つの兆し
2020年春夏シーズンのThe Row、Kwaidan Editions、Bottega Venetaは禁欲をデザインする
- 文: Olivia Whittick

ここ数シーズンは奇抜なトレンドが目白押しに続いたが、2020年春夏シーズンは騒々しいデザインをすっぱりと遮断した。アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の華麗な世界が絶頂に達したところで、トム・フォード(Tom Ford)時代のGucciを懐かしむノスタルジーと言ったところだろうか。80年代への反動からおとなしいデザインへの願望が高まり、Margiela、Helmut Lang、Jil Sander、Calvin Kleinが人気を集めた90年代への回帰だ。エキセントリックにぶつかり合うパターン、Balenciagaに代表されるアイロニー、強印象の効果を狙ったデザインに疲弊して、ファッションはベーシックへと回帰する。ウェアはシンプルに、アクセサリーは最低限で。バイラルを狙ったランウェイ ショーよ、さようなら。ミームのように拡散するViktor & Rolf風のドレスよ、さようなら。成熟した2020年の春夏シーズンは、騒々しい馬鹿騒ぎには興味がない。Off-Whiteは若さゆえ。タイダイは目に痛い。ロゴマニアは垢抜けない。ミニマリズムの建築家、ミース・ファン・デル・ローエの有名な言葉どおり、「レス イズ モア」なのだ。

1. The Row:ミニマリズムの達人
The Rowといえば、創設時から、超絶的に贅沢かつ究極的にシンプルなデザイン理念で知られ、「何であれ」、マキシマリズムに通じるものに対しては、徹底した無関心を貫き通している。オルセン姉妹(the Olsen sisters)が2020年春夏ショーの会場に選んだのは、The Rowのニューヨーク スタジオ。広々とした長方形の白い空間は、コレクションと同じくミニマルだ。ウェイターが素朴な陶器のマグ カップに入れた熱いコーヒーを配って回ったのは、シンプルだが心地よいサービスだった。コレクションでは、コシのあるシャツ ドレス、優れたテーラリングが際立つパンツ、スカート セット、ほとんど存在を感じさせないフットウェアが、ホワイト、ブラック、クリーム、淡いパステルだけの色使いで展開された。これぞ、ミニマリストの真のユニフォームだ。

2. Lacoste:現代のノスタルジー
テニスというのは、爽やかな白のウェア、細かい服装規定など、きちんとしていることで知られるスポーツだ。そんなテニスにルーツを持つLacosteが、ミニマリズムのアップデートに挑戦するのは当然だろう。ショーの舞台裏でクリエイティブ ディレクターのルイーズ・トロッター(Louise Trotter)が語ったところによると、「人々がLacosteに抱いているノスタルジーを、現代の視線から代弁してみたかった」のだ。そこでトロッターは、敢えてブランドのシグネチャ要素をぼかし、スポーツとの具体的な関連性を希釈して、非常に抑制され、洗練されたコレクションを誕生させた。心静まる落ち着いた色合いの無地、調和したストライプ、モノクロでコーディネートされたセットは、まさに目の保養だ。トロッターが会場に選んだ、スタッド ローラン ギャロスのシモーヌ・マチュー・コートは、全仏オープンの会場でもあるが、ここにもすっきりとしたシルエットが反映されていた。

3. Kwaidan Editions:トム・フォードに倣う
Kwaidan Editions のショーは、クラシックなベージュのトレンチコートと飾り気のない業務用チェーンのベルトで幕を開けた。シンプルなデザインのコレクションだが、意外性のあるアクセント、ユニークなカット、色使いのせいで、決して退屈ではない。スーツは、エキセントリックなプリントやフェティッシュなテクスチャで知られるブランドにしては、比較的正統派のスタイルだった。蛍光グリーンのスーツはミニマリストなひねりがあるだけで、化粧っ気のないモデルの髪は後ろになでつけられ、1本のジッパーだけが唯一、装飾と言えるものだ。ブレザーは、素肌に直接着る。柔らかなグレーのレザーで仕立てられたシース ドレスは、太いチェーンのチョーカーがアクセントだ。トム・フォード時代のGucciのキャンペーンで有名になった、トップ モデルのジョルジーナ・グレンヴィル(Georgina Grenville)がランウェイに登場したことからも、Kwaidan Editionsが意図して90年代のシンプルなデザインにオマージュを捧げたことは確かだ。

4. Bottega Veneta:シンプルはシグネチャ
クリエイティブ ディレクターのダニエル・リー(Daniel Lee)は、ブランドの歴史を尊重すると同時に未来へ歩を進める意味で、会場のフロアにイントレチャートを模したパースペックスのアクリル樹脂を敷きつめた。コレクションに登場したのは、非常にあっさりした、高級かつスポーティな作品だ。ワン ショルダー、細身のドレス、滑らかなレザー コート、ナイロン、トグルで絞ったウエスト、レザーのバスケットボール ショーツ。Donna KaranやCelineでの経歴があることも頷ける。リーは、Bottega Venetaを現在もっとも熱い視線を集めるブランドに押し上げる手腕を発揮した。この調子でいけば、今後の半世紀も、Bottegaのイントレチャートは健在だろう。

5. Loewe:禁欲主義
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のミニマリズムは、文字通りのミニマリズムであると同時に象徴としてのミニマリズムでもある。ショーが開始すると、先ず、コットンのモノクロなチュニック風スタイルが5点続いた。精神的にも美学的にも禁欲を暗示するミニマリズムだ。余剰は完全に拒絶されている。いずれのルックも、アクセサリーはサングラス、バッグ、独特なお守りのみ。アンダーソンが会場に出現させた世界は、静閑としているが、独自のリズムがあった。高い次元で「我欲せず」の理念が振動している。これがラグジュアリーを纏う禁欲主義者、言い換えればLoewe流ミニマリストにふさわしいコレクションであることは、ネオヒッピーとの関連性が立証していた。

6. Y/Project:同意の表明
Y/Projectとミニマリズムは結びつかない。むしろ正反対。デザイナーであるグレン・マーティンス(Glenn Martens)の得意技は、独自のレイヤーとテーラリングで、クラシックなスタイルを独創的なフランケンシュタインへ作り変えることだ。2020年春夏シーズンのメンズウェア ショーでは、クリーム、キャラメル、くすんだグレーなどのソフトな中間色を使って、いかにも彼らしい手法のオーバーコートやスーツを紹介した。いつものようなスポーツのリファレンスは姿を消している。マーティンスのミニマリズムは徹底した抑制ではないが、何はともあれ、彼がミニマリズムを試したという事実こそ、一切の余分を削ぎ落とそうとするファッション界の反動を物語っている。
- 文: Olivia Whittick
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: Novembre 7, 2019