道化の衣装の戦闘機

MA−1の曖昧なロマンス

  • 文: Theresa Patzschke
  • 写真: Kenya Cobayashi

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

ジェット戦闘機は、ほとんど信じられないほどの速度で視界を横切る。左側に見えたと思ったら、もう右側へ姿を消している。あるいは、頭上に現れたと思ったら、次の瞬間には消えている。しかし、ジェット機を際立たせる特性がもっとも顕著に表れるのは、航空ショーでダイアモンド編成の4機が飛行するときだ。戦闘機は空間を駆け抜けるが、鳥と違って、機体の形が変化することはない。Haider Ackermannのボンバー ジャケットには、テクスチャに巧みに取り込まれたダイアモンド形が繰り返し登場する。このジャケットはエネルギーに満ちている。また、MA-1は、不思議な美意識の無秩序を生む。非常に多くのサブカルチャーの担い手が、このジャケットを腕を通してきたのだ。スキンヘッズからラッパー、そしてその中間のあらゆる人々。ここで持ち上がる疑問は、なぜこの形がこれほどまでに私たちをそそるのか? 私たちはとにかくボンバー ジャケットが好きでたまらないのは、おそらくボンバー ジャケットが持つ曖昧性と関係がある。

ハイダー・アッカーマン(Haider Ackemann)の言葉にしたがえば、完全な理解など必要ない。「あらゆることを知っていたら、想像力は失われ、美しいものを逃してしまう」。アッカーマンは、さしずめ神秘の守護者だ。例えば、セザンヌの「アルルカン(道化)」を見る感覚と似ている。格子柄の衣装を着た極めてロマンティックで曖昧な人物を目にするとき、多くを知る必要はない。道化は観察する者であり、操る者でもある。虚構と現実、天国と地獄と戯れる。そうすることで、私たちに夢を見させてくれる。「僕はただやるだけ。やり方なんて知らない」と言うアッカーマンは、道化に似た存在だ。これほど率直で力強い主張は、自認するより多くを知っている証拠に違いない。

アッカーマンにとってロマン主義は必要不可欠だ。未来を受け入れようとするとき、ロマン主義さえあれば、たとえ暗い過去でもロマンティックに解釈できる。Ackermannのジャケットは、イエロー、ホワイト、ゴールドを使ってグラフィックが刺繍されている。道化の衣装の交互に配色された格子柄を使って、様々な文化に属する人物たちが集合する爆発的なユートピアに息吹が吹き込まれる。戦闘機パイロットも、リアーナも、芸者も、スキンヘッズも、MA−1の変わらない形で幸せに結び付く。襟と袖のシンプルな白いラインは、すべてを内包する額縁だ。そのおかげで、あなたは一線を超えて飛び過ぎることはない。

  • 文: Theresa Patzschke
  • 写真: Kenya Cobayashi